芸能人など有名な方が若くしてがんを公表した時などに、「若いうちからがん検診を受けた方がいい」などと世論が盛り上がることがあります。その一方で、がん検診の受診率は男性の肺がんを除いて50%に届かず、他の先進国と比べて低くなっています。そもそも、がん検診とはどのような目的で行われているのでしょうか。誰でもが、検診を受ければさまざまながんの「早期発見・早期治療」につながるのでしょうか。今回は、がん検診についての「ホントのこと」を考えてみたいと思います。
がん検診について、ちまたでよく言われているいろいろなお話を集めてみました。皆さんもこのような“うわさ”を耳にしたことはないでしょうか。しかし、この中のいくつかは間違っています。間違いを探してみてください。
さて、どの項目のどこが間違いかお分かりになったでしょうか。答え合わせは後ほどいたします。
女性ならば20歳、男性ならば40歳以上であれば、お手元に「がん検診のお知らせ」という封筒やはがきが届いたことがあるのではないでしょうか。「けんしん」といっても、「健診(健康診断)」と「検診」では、意味や目的が異なります。「がん検診」はありますが、「がん健診」と呼ぶことはありません。
この「検診」と「健診」は、単に漢字1文字の差だけでなく、その目的と意味合いが大きく異なります。「健診(健康診断)」は「健康であるか、そうでないか」を調べるものです。自覚症状のない人が、自分の健康状態を知って高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防したり、症状の出にくい病気が隠れたりしていないかを調べます。健康診断の例としては、職場や自治体で行われる特定健診、乳幼児健診、妊婦健診、入学時/入職時健診などがあります。
それに対して、「検診」とは、「(がんに限らず)特定の病気を早期に発見し、早期に治療することでその病気によるリスクを減らすこと」を目的としています。その病気の名前を付けて、「肺がん検診」「乳がん検診」「肝炎検診」と呼ばれたりします。ちなみに「健診」は英語で「medical examあるいはmedical checkup」という用語で、「検診」は「screening」とそれぞれ呼ばれることが多く、両者は明確に区別されています。
がん検診について、もう少し具体的にその目的を見ていきましょう。がん検診が行うことは、症状のない一見健康な方を対象として、がんの可能性がある方を「拾い上げる(スクリーニング、といいます)」ことです。そして、がん検診が最終的に目指すのは、「対象集団のがんによる死亡率を下げること」です。
そのような目的で、健康な多数の方を対象とする検診では、対象集団の中から「効率よく病気の可能性のある人を見つけ出す」ことが重視されます。がんである人をもれなく見つける一方、がんでない人が引っ掛かってしまわないように精密な検査を行おうとすれば、必要な費用や人的コストが膨大になることに加え、検査を受ける人にとっても体への負担や副作用のリスクが大きくなります。ですから、健康な人を対象とする場合には、検査に伴う副作用や費用負担、ストレスを含めた不利益を最小化すること(利益に見合ったものにすること)が求められます。
多数の人を対象に、効率よく、不利益を最小限にしながらがんの可能性のある人を見つけるという「有効性」が確立されたがん検診として、多くの自治体で胃がん(男女)、肺がん(男女)、大腸がん(男女)、子宮頸がん(女性)、乳がん(女性)の各集団検診が行われています。
一方、症状があって受診する時は「診療」の扱いとなります。「患者さん」は医療機関を受診し、問診や身体診察などを経て、検査が行われます。その時には「早く正しく診断すること(+速やかに治療を始めること)」が目的になります。そのためには、検査に伴う合併症や副作用のリスクがあっても、ある程度のコストがかかっても、精密な検査が許容されます。
検診と健診、診療の違いがお分かりになりましたでしょうか?
ではここで冒頭の「よくきく話」に戻りましょう。実は、10の項目は程度の違いはありますが、「すべて間違っている」が正解です。次回は、がん検診について「目的」「内容」「結果の受け止め方」などいろいろな切り口で、それぞれの項目は何がどう間違っているのか、「がん検診」について、ご一緒に考えてみましょう。
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帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授
患者さんとご家族、地域の視点でがんを診る。 日本人の2人に1人が一生のうちにかかる「がん」。がんの診療、臨床研究とともに、研修教育に携わる。がん対策の取り組みの一環として医療に関する信頼できる情報の発信と、現場と地域のニーズに応じた普及の取り組みを実践している。