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がん検診の“適齢期”とは

公開日

2019年05月09日

更新日

2019年05月09日

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2019年05月09日

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帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授

渡邊 清高 先生

がん検診の「ホントのこと」【後編】

かつて、がんの告知が“死の宣告”とほぼ同義のように受けとめられていた時代がありました。しかし今、がんは治せる病気になってきています。がんを克服し、あるいは治療を続けながら、社会や地域、家庭で以前と同じように活躍している人も珍しくありません。ただ、がんで命を落とさないためには、適切な時期に見つけて治療することが大切。がん検診は、正しい知識を持って受ければ、その一助になると考えられています。

がん検診のメリット、デメリット

前回はがん検診に関する10の「よくきく話」を紹介し、そのいずれもが誤っているとお話ししました。今回は項目ごとに、どこが間違っているか説明しましょう。

1)がん検診は早期のがんを見つけるために行うものだ(×)

がん検診は、「早期のがんを見つける」だけで終わるものではありません。目的をもう少し正確に言うと「早期のがんを見つけることで、効果的な治療を行い、進行した状態になって命にかかわる事態を防ぐ」ということになります。例えば「非常にゆっくり進行するので命を脅かすことの少ないがん」や「非常に予後(診断されてからの病気の経過)が悪く効果的な治療方法がないがん」については検診のメリットが少なく、がん検診として行われません。

つまり「がん検診」は「検査を受けて終わり」ではなく「検診を受けて、異常があれば精密検査を受け、がんが見つかったら早期に治療を受ける」という一連のプログラム、あるいはパッケージとも言えます。

2)若い時から、がん検診を受けよう(×)

がん検診を受ける時期として、勧められる年齢が定められています。一般的に、がんは高齢になるほどリスクが高くなりますので、肺・大腸・乳腺のがんは40歳以上、胃がん検診は検査の方法によって40歳あるいは50歳以上が対象となります。若年で発症することが少なくない子宮頸がん検診は20歳以上が対象です。検診として多くの方を対象として行うには、「効率よくがんの可能性のある人を拾い上げる」ことが重視されます。一方、本当はがんがないのに拾い上げてしまう“見つけすぎ”が、検診では起こりえます。特に若い人では、がんになるリスクが低い一方で誤ってがんの可能性が指摘される恐れが相対的に高くなります。こうしたことから、市区町村で行われている「がん検診」では対象となる方を一定年齢以上と定めています。

3)職場の定期健診を受けているから、がん検診は受けなくていいね(×)

職場の定期健診や市区町村の特定健診には、一部がん検診と同様の方法で行われているものがあります。ただし、項目が異なっていたり、含まれていなかったりする場合もあります。最近では、精度をしっかり管理することで、こうした健診でもがん検診と同じ条件で、質の高い検査を受けることができるようになってきているケースもあります。自分が受けようとしている検診について確認するとよいでしょう。

体調が悪ければ検診ではなく診察を

4)体調が悪い、がんかもしれないからがん検診を受けてみよう(×)

前回も述べたように、体調が悪い、がんかもしれないと思う症状があったら、検診ではなく医療機関で診察を受けましょう。「症状があるから検診に行く」のではなく、「症状がないから検診に行く」のです。

体調が悪い男性

5)費用の高いがん検診ほど、いい検診だ(×)

がん検診はお住まいの自治体によって、低い自己負担額(一部負担あるは無料)で受けられます。人間ドックなどで、腫瘍マーカーやPET(陽電子放射断層撮影)などによる検診も行われています。しかしこれらはがん検診として死亡リスクを減らす効果、感度(がんがある時に検査で「陽性」となる)や特異度(がんがない時に検査で「陰性」となる)のようながんを検出する能力などの評価が定まっておらず、個人個人の考えによって行われている検診、という位置づけです。

6)楽にできるがん検診ほど、いい検診だ(×)

「1滴の血液や唾液でがんの検査が可能」といった話題を目にすることが時々あります。ここで注意しなければならないのは、その検査でもれなく、かつ間違いなく、がんの可能性がある人をすくい上げることができるかです。がん検診としての有効性は、前述の感度だけでなく、特異度も併せて重視されます。がん検診の効果についての評価は、がんを効率よく拾いあげるメリットと、その検査のデメリット(がんがないのに引っ掛かる▽がんがあるのに見逃す▽身体的・心理的・経済的負担――など)との比較考量で総合的に判断されます。したがって、楽にできる検診ほどいい検診、というわけではありません。

7)がん検診は大きな病院で受けた方がいい(×)

「たくさんの人を、なるべく少ない負担で効率よく、がんの可能性のある人を見つけ出す」ことががん検診の目的です。そのため、全国どこでも同じ方法、同じ手順で質の高い検診を行うことが勧められています。がん検診の質をよくしていくことを「精度管理」といいます。それがなされることで、検診センターや医療機関、病院など場所によらず質の高いがん検診を受けられるようになってきています。ですから、質の高いがん検診は大きな病院ではなくとも受けることができるのです。

がん検診は「受けた後」が大切

8)がん検診で異常なしと言われた、来年は受けなくていいね(×)

検診の結果が「異常なし」であっても、その先ずっとがんにならずにいられることが確約されたわけではありません。また、現在のがん検診は残念ながら感度が100%ではなく、“見落とし”をゼロにはできていません。ですから、決められた間隔で、次の検診を定期的に受けることが大切です。

がん検診表

9)がん検診の後で精密検査の連絡が届いたけど、症状がないから放っておこう(×)

10)がん検診で「要精密検査」との結果が出た。がんだと思うからもう仕事を辞めようと思う(×)

「要精密検査」というのは、「詳しい検査が必要」ということで、その時点で、がんかどうかは分かりません。症状の有無に関わらず「精密検査」を受けて「がん」があるかどうか、あるいは「異常なし」「良性の病変」「経過観察」などの結果を確認することが大切です。「精密検査」とその後の対応も含めて一連の流れが「がん検診」と考えていただくとよいと思います。

ですから「検診で引っかかった」からといって「がんと診断された」わけではありません。さらに言えば、仮に「がんと診断された」としても、直後の不安や混乱がある時に、仕事や家庭に関する大きな判断を慌ててしない方がよいと思われます。まずは担当医や、がんに関する相談窓口であるがん相談支援センター(最寄りのがん診療連携拠点病院に設置されています)などに相談してみるとよいでしょう。

がん検診は「聞いたことがある」のではなく、「正しく知る、きちんと受ける、(必要なら精密検査や治療を受けるなど)行動する」ことが大切です。“見逃し”や“見つけすぎ”という話を聞いて「がん検診は怖い」と感じた方がいらっしゃるかもしれません。ただ、現在日本で公的負担のもとに行われているがん検診は、メリットとデメリットを評価した上で、広く推奨される方法として示されたものです。がん検診について正しい知識を得て、防ぐことができる病気、早期に発見できる病気があることを知っていただきたいと思います。

 

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帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授

渡邊 清高 先生

患者さんとご家族、地域の視点でがんを診る。 日本人の2人に1人が一生のうちにかかる「がん」。がんの診療、臨床研究とともに、研修教育に携わる。がん対策の取り組みの一環として医療に関する信頼できる情報の発信と、現場と地域のニーズに応じた普及の取り組みを実践している。