連載がん“当事者”のこころを支える「精神腫瘍学」を知っていますか?

再発、進行…がんの不安に対処する

公開日

2019年04月24日

更新日

2019年04月24日

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2019年04月24日

掲載しました。
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名古屋市立大学病院 ・こころの医療センターセンター長、名古屋市立大学病院 ・緩和ケアセンターセンター長、名古屋市立大学病院 副病院長、名古屋市立大学大学院学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授

明智 龍男 先生

「不治の病」と思われていた時代とは違い、がんは治療法や薬の進歩で治る病気になってきました。ただ、そうした治療で病巣が見えなくなったとしても全身に潜んでいる可能性があり、実際に治ったと判断されるまでおおむね5年程度経過をみる必要があります。また進行したがんの患者さんも、さらに病気が進行していくのではないか、という不安を抱えています。今回は、がん患者さんが抱える不安とその対処法について考えます。

がん患者の3人に1人に「こころの問題」

「現時点では、完治とは言えません、と先生に言われました。ということは、こんな苦しい闘病生活や、もしかしたら死が、いつ自分に訪れるか分からないということですよね」。乳がんの手術を半年前に受け、その後の化学療法も最終段階に入っている50歳代の女性患者さんがそうした心情を吐露しました。

厚生労働省の研究班(「がんの社会学」に関する合同研究班)がわが国のがんの患者さん4054人を対象として、患者さんが抱える悩みのサーベイランスを行い、その報告書が2016年に公表されました。そこで示されている悩みで最も頻度が高いものは「不安」などのこころの問題で、およそ3人に1人の患者さんがこの問題を抱えています。中でも再発・転移の不安の占める割合が高く、がんの患者さんの生活における中心的な悩みであることが推測されます。

不安が体に現れることも

そもそも、不安とは何でしょうか。精神医学的に、不安とは「漠然とした未分化な恐れの感情」を指します(これに対して「恐怖」は、「明確な対象に対する持続的な恐れ」を意味します)。不確実な脅威に直面した際、言葉を換えれば先行きがはっきりしない恐ろしさを感じた時に、人は不安になるのです。まさにがん患者さんが置かれた状況そのものです。

そして、不安はこころだけでなく体の症状としても現れることがあります。そうしたものの1つがさまざまな「自律神経症状」で、具体的には動悸(どうき)、息苦しさや胸苦しさ、目まい、肩凝り、頻尿といった「身体的不安」として現れることはよく知られています。患者さんはこうした症状について「がんと診断されてから、何となく胸がつかえたような感じや息苦しさがあります」といった表現で、不安をお話しになります。

めまいを起こした女性

がんの患者が経験する不安

がんの患者さんは、再発、がんの進行、そして死がいつかやってくるかもしれないという漠然とした恐れを抱いています。こうした不安はどのような経過をたどるでしょうか。

これまでの研究の結果を要約すると、がんと診断されてから1年以内の時期に不安のピークがあります。そして、少しずつ軽くはなるのですが、少なくとも手術などの治療を受けてから2~3年ぐらいまでは、かなり強い不安がみられる状態が続きます。

それ以降の心理状態は、がんの状況に左右されます。再発や進行がみられる患者さんでは、強い不安を抱える割合が再度増加します。一方、再発や進行せずに経過していく患者さんでは、徐々に一般の人たちと同じ程度の「通常のこころの状態」に戻っていくことが示唆されます。

いずれにしても、がんを経験すると、年単位での継続的なこころのケアが必要であることが示されています。

自分でできる不安対処法

不安に身も心も打ちひしがれている時、じっと耐えるだけでは余計につらくなってしまいます。少しでも不安が軽くなるよう、患者さん自身が日常生活の中、ご自分でできる対処法があります。私が普段の診療でよくお話しするアドバイスについてまとめてみました。「これならできそうだ」というものがありましたら、ぜひ試してみてください。

  1. 体を動かすなど、少しでも病気を忘れる時間を1日のうちに意識的に持ってみましょう。
  2. 毎日の生活の中で達成可能な小さな目標(例えば1日30分散歩するなど)をたて、1つずつ積み上げていきましょう。
  3. 状況に圧倒されそうな時は、心配な点や問題点を紙に書き出して整理してみましょう。そして、物事に優先順位をつけると同時に「いま自分にとって大切なことは何か」という点からも考えてみるとよいでしょう。
  4. 自分の気持ちを紙に書き出してみましょう。気持ちの状態に気づくだけで負担が減ることもあるものです。
  5. つらい時は、思い切って家族や信頼できる友人に気持ちをうちあけてみましょう。逆説的ですが、その際には感情的にお話しするよりも冷静に伝えると、より理解してもらいやすいかと思います。
  6. 患者会に参加して、他の患者さんの対処方法を聞いて参考にしてみましょう。先輩患者さんと話すと安心できることもあるかもしれません。
  7. 過去のつらかった時期に自分が試した有効な対処方法を思い起こし、実践してみましょう。
  8. つらい時は1人で思いきり泣いてみるのもよいでしょう。感情を発散することも大切です。
  9. 鏡の前で無理やりでも笑顔を作ってみましょう。不思議なもので、それで少し気分が和らぐこともあります。
  10. 呼吸法など簡単なリラックス法を身につけて、毎日少しずつ試してみましょう。
  11. 視点を変えて「同じような状況の人に、自分ならどう助言するか」を考えてみましょう。

これらの対処方法の効果は個人差が大きいので、さまざまな方法を試してみながら自分に合ったものを探していけるとよいかと思います。「こういう方法がよかった」という成功経験を積み重ねることにより、次第に自分で気持ちをうまくコントロールできるようになるからです。きっと、皆さんに合ったよい方法があるでしょう。

薬の力を借りるのも有効

薬

上述したような方法で患者さんご自身が対処されるのもよいことですが、お薬も不安を和らげる有効な方法です。一般的には、抗不安薬(いわゆる「安定剤」)が用いられます。ただし、抗不安薬は扱いが難しいお薬でもあります。依存性がないものもありますが、種類が限られています。短期間服用するだけでしたらかかりつけの先生にお願いしてもよいと思いますが、これらのお薬を適正に使いこなせるのは、精神科医や心療内科医かと思います。何カ月にもわたり毎日必要な状態でしたら、主治医の紹介を受けるなどしてこころの専門医を受診された方が安心です。いずれにしても漫然とは使わず、症状が軽減したら少しずつ減薬し、最終的には服薬中止を目指していきます。

スマイルプロジェクトのご紹介

患者さんが自分でできる対処法やお薬以外に、がん患者さんの不安を軽減できる方法として、現在、私たちは「スマートフォンを用いた問題解決療法、行動活性化療法(通称『スマイルプロジェクト』)」の研究をしています(国の研究費を得て、2020年3月まで続く予定です)。乳がんの手術後1年以上再発なく経過している50歳未満の患者さんが対象で、スマホを通じてどのくらい精神的な苦痛を和らげることができるかを調べています。興味がおありの方は、研究のホームページをご覧ください。

今回ご紹介したように、がんの患者さんのほとんどが不安を経験しておられます。生活に支障がある不安が続くようでしたら、うつ病などの前触れの可能性もあります。早めに担当医や看護師さんに相談してみましょう。