連載がん“当事者”のこころを支える「精神腫瘍学」を知っていますか?

日常生活のつらさ克服にも応用できる「問題解決療法」

公開日

2019年09月19日

更新日

2019年09月19日

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2019年09月19日

掲載しました。
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名古屋市立大学病院 ・こころの医療センターセンター長、名古屋市立大学病院 ・緩和ケアセンターセンター長、名古屋市立大学病院 副病院長、名古屋市立大学大学院学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授

明智 龍男 先生

患者さんに「がんになって気持ちが つらいときに、何か自分でできるよい対処はありませんか?」と尋ねられることもまれではありません。そのつらさを乗り越えるために、さまざまな専門的なカウンセリングの技法があります。その中で、自分でも取り組める「問題解決療法」という方法があります。今回はそれをご紹介いたします。

不安や落ち込みと「問題」との関係

不安や落ち込みが強くなってしまった時には、その気持ちに圧倒されてしまい、「もうだめだ、自分にはどうにもならない」といったこころの状態におちいりがちです。ですが、ほとんどの場合、こういったつらい気持ちの背景にはさまざまなストレス(これを「問題」といいます)があります。そして、人には、この問題を解決する力があるのです。全体をみるとあまりにも大きくて解決が困難だと感じられる問題も、小さく砕いて順々に取り組んでいけば解決は可能です。 

問題解決療法5つのステップ

問題解決療法とは、日常生活における問題を解決することを通して、不安、抑うつをはじめとした精神症状緩和をはかることを意図した治療法です。問題解決療法の構造は、一連の5つのステップから構成されています。そのステップとは、

ステップ1:問題を整理し明らかにする

ステップ2:目標を具体的にする

ステップ3:解決方法を考える

ステップ4:よりよい解決方法を選ぶ

ステップ5:解決方法を実行し結果を評価する

――というものです。それぞれのステップをもう少し具体的に説明していきましょう。

ステップ1:問題を整理し明らかにする

まず、ストレスとなっている問題を書き出し、そのなかから扱う問題を選択します。ここでの重要なポイントは、「自分で変えることができる問題を選択する」こと、あるいは「変化させ得る問題に形を変える」ことです。

例えば、がんの患者さんにとって、がんと診断されたという問題は変えることができませんが、治療を受ける際の仕事の負担を減らすという形に問題を変えることはできます。

次いで、その問題をわかりやすい形に定義しなおします。例えば、「私の主人は私のことを理解してくれない」と表現される問題は曖昧で、どこをどのように変化させればよいのかが明確ではありません。一方、「私の主人は私が病気の治療について相談をしたいと言っても、疲れたと耳をかしてくれない」といった形で問題を定義づけると、変化させたい問題を浮き彫りにすることができます。

興味深いことに、患者さんが直面している問題が整理されて明確になるだけでも、患者さんの気分が改善することがあります。多くの患者さんは、複雑かつ複数存在することの多い問題に「圧倒」されているため、問題点が整理され、優先順位がはっきりするだけでも、気持ちの負担が緩和されるのです。

問題点を書き出す患者さん

ステップ2:目標を具体的にする

次のステップでは、達成可能な目標を決めていきます。その際には、スマート(SMART=Specific:明確、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:重要、Timed:期限)という5つの要素が目標に織り込まれることが推奨されます。

ステップ3:解決方法を考える

目標が設定されたら、次のステップは解決方法の産出です。ここでの重要なポイントは「産み出した行動の選択肢が多ければ多いほど、効果的な解決方法を見つけることができる」という点(「数のルール」と呼んでいます)。ですから、複数の人とアイデアを出し合うなど“ブレインストーミング”の手法を通して、できる限り多くの解決方法を生み出しましょう。

コツとしては、最初は判断を控え、不可能な方法やばかげているあるいは役に立たないように思える解決方法であっても、まずは挙げておくという点にあります(これを「判断後回しのルール」と呼びます)。あえてこういった方法を考えてみることで、思考がしなやかになります。その他、挙げられた考えを組み合わせたり、他の人々であればどのような方法を考えるかといった問いかけをしたりすることも有用です。

ステップ4:よりよい解決方法を選ぶ

さまざまな解決方法を挙げたら、次のステップでは、これらの解決方法を吟味し、実行するものを1つ選びます。この際、それぞれの解決方法についてのメリットとデメリットを個人の価値観という視点を含めて数値化するとよいでしょう(例えばそれぞれの解決方法について重要性を+1~+3で表してみましょう)。

ステップ5:解決方法を実行し、結果を評価する

いよいよ最後のステップです。このステップでは、前のステップで実行すると決めた解決方法の実行計画を立てます。実行計画については、詳細な行動に加えて具体的な日時、方法などについても計画を立てることが重要です。また想定される障壁についても考えておくことが有用です。さらに、実行するうえで苦痛を感じることがないようなやり方を選択することも重要です。そして、実際に実行したら、振り返って、気分の変化がみられたかをチェックしてみましょう。

実例:病気を忘れる時間を作るための方法を検討し実行

友人とのランチ

これらを繰り返していくなかで、徐々に気分が改善していく方も多いのです。

実際に取り組んだ方の例をご紹介いたします。

ステップ1:問題点を明らかにする⇒1人の時や何もしていないと不安で頭が一杯になる。

ステップ2:達成可能な目標を設定する⇒1日に2時間、病気のことを忘れる時間を作る。

ステップ3:さまざまな解決方法を列挙する⇒友人と電話/ランチ、散歩、ゆっくり入浴、水泳、ダンスを習う、図書館で読書、パチンコに行く、好きなカフェで昼からワインを飲む……。

ステップ4:好ましい解決方法を選択する⇒友人とランチ、図書館で読書。

ステップ5:解決方法を実行し結果を検討する⇒友人に電話をかけ昼食に誘った。毎日図書館に通いミステリーを読むことにした。

――これらの結果として、この患者さんは、「病気を考える時間が減り、不安も少し楽になった。自分で自分の気持ちをコントロールすることができることがわかりました」とおっしゃいました。

もちろんこの方法は、がんではなくても日常で抱えきれないほどの問題やつらさがある方にとっても有効です。 何度かやってみて、自分に合う方法だなと感じられましたら、普段から5つのステップを実践してみてはいかがでしょうか。

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