連載新型コロナと闘い続けるために

新型コロナ収束に向け分科会が担う役割とは―尾身茂会長インタビュー【前編】

公開日

2021年04月16日

更新日

2021年04月16日

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2021年04月16日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月16日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、私たちの生活は一変しました。こうした状況のなか、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)会長として事態の収束に向けて尽力されているのが尾身茂先生です。本記事では、分科会が果たす役割と新型コロナウイルス感染症の現状、そしてこれからの対策などについて尾身先生にお話しいただきました。

分科会立ち上げの経緯と分科会の役割

徐々に変化していった医療の専門家の立ち位置

分科会は2020年の7月に立ち上げられた組織です。それまでは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議)のなかで、政府が提案した内容について医学的な見地からの意見を求められた場合に、意見を述べる(提言する)という関わり方をしていました。

しかし、2020年2月、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客が新型コロナウイルスに感染していたことが発覚し、政府の方々はこの対応に多くの人員と時間を割くことになりました。当時の状況では致し方ないことではありますが、これにより、新型コロナウイルス感染症の全体像、つまり、その時点で何が分かっていて何が不明なのかといった情報の国民への発信がおろそかになってしまったという側面がありました。

当時、専門家会議の構成員の多くは、国内外を問わず感染症の流行、収束を実際に経験してきたこともあり、その経験に伴う直感から「これは大変なことになるのではないか」と感じたと同時に、「これまでの経験を生かし、何かしなければ」と強い危機感を抱いていました。こうした背景から、元々の「政府の提案に対して医学的な見地から意見を述べる」という立ち位置が、徐々に「自主的に新型コロナウイルスの感染状況を分析し、感染防止策を政府に提案する」「提案した感染防止策について国民に向けた説明を行う」というものに変化していったのです。

「前のめり」で生じた国民からの誤解

その一方で、緊急事態宣言を初めとする感染防止策を実施することでだんだんと社会における規制が強くなる場面もありました。これによって苦しい状況になった方々も多くいらっしゃいます。すると、挙がってきたのが「なぜ医療の専門家が国の経済などにも関わるような重要なことを決めるのか」という国民の疑問の声でした。

後から当時を振り返ると、確かに危機感のあまり「前のめり」の部分もありました。専門家たちが直接国民に向けて情報発信をすることで、まるで専門家会議の構成員が政策を決定しているかのような印象を与えてしまったことは否めません。このときもっとも危惧したのは「このままでは組織・情報に対する信頼感がなくなり、医学的な見地に基づいた意見であっても耳を傾けてもらえなくなってしまう」ということでした。また、経済への波及もきちんと考慮する必要性が高まっていたことも事実です。

分科会の役割は「提言」、採否の判断は政府

こうして、医療・公衆衛生の専門家と政府側の方々の意見交換の場は「アドバイザリーボード」という形で残しつつ、新たに経済の専門家なども加わった「分科会」を設置するに至りました。

ただ、分科会の立ち上げ前も後も、我々専門家が行っていることは変わっていません。分科会における専門家の役割は、「政府の案に対して専門的な知見に基づいて意見する」あるいは「感染症について分析した結果をもとに感染予防策の案を出す」ことです。分科会の役割はあくまで提言(意見・提案)をすることであり、それをふまえて実際にそれを採用するか否かの判断をするのが政府の役割であるという明確な線引きがあります。

分科会におけるこれまでの主な提言

ここで、専門家会議や分科会でどのような提言を行ってきたのか、主要なものについてご紹介します。

PCR検査体制の見直し

PCR検査については、分科会の前身である専門家会議が実施されていた2020年の2月からすでに検査可能件数(キャパシティー)の拡大に努めるべきだという主張をしていました。しかし、現実的にはすぐにその体制を整えることは難しく、戦略的に重症者や重症化リスクの高い有症状者などを優先して検査を実施せざるを得ませんでした。

こうした状況を経て、PCR検査の体制が整いつつあった2020年の7月、分科会で提言したのが「検査体制の基本的な考え・戦略」です。これは、有症状者の検査に加え、無症状であっても感染リスクや検査前に考えられる陽性率(検査前確率)が高い集団・場所に対して重点的に検査を行おうというものでした。

ステージ分類の作成と実施すべき取り組みの提案

2020年8月には、感染状況と医療提供体制の負荷を1つの指標としたステージ分類を作成し、併せてステージごとに実施すべき取り組みも提案しました。

感染状況のステージ分類

ステージ分類とそれに伴う取り組みを提案した1番の目的は、ステージIVになる前に感染を食い止めることです。そのため提言では、ステージに関わらず実施すべき施策やステージIVで実施すべき施策のほか、ステージIIIの時点で 「メリハリの利いた接触機会の低減」に取り組むべきだとし、具体的な施策の提案を行っていました。

ステージⅢで実施すべき施策の提案(一例)

各ステージ分類とそれに伴う具体的な施策案はその時々の状況に合わせて更新していくことが必要で、昨年の8月と現在ではPCR検査のキャパシティーや各医療機関の体制なども変化してきているため、まさに現在修正中です。

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