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連載特集

がんの受診、検診控えで重症患者増加を懸念―がん治療最前線から見える今と近未来

公開日

2020年09月15日

更新日

2020年09月15日

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2020年09月15日

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新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4~6月を中心に医療機関の受診控えが起こりました。がん患者も例外ではありません。また、検診センターの休止も相次ぎました。しかし、がんを放置すれば今後、より悪化した状態で見つかるがんが増える恐れがあります。日本のがん治療の現場は今どうなっているのか、一線の医師は現状をどう見ているのか、がん研有明病院の佐野武院長に聞きました。

“いい治療”ができなくなることも

新型コロナの影響で、がんがより悪くなってから見つかる残念な例が、増えつつあります。

例えば、ある程度進んだ大腸がんを手術で切除し、もしかすると肝臓に再発するかもしれない、という患者さんの場合、3カ月ごとに超音波やCT検査をしています。再発すると、大きさや腫瘍の数によって手術ができる場合とできない場合があります。本来ならば3月にフォローアップのCT検査をする予定だったのに、コロナが怖いからとキャンセル。それから4、5カ月遅れで「もう大丈夫か」と検査をしたら、再発した腫瘍が結構大きくなっているうえに場所が悪く、そのままでは手術でとれないので、抗がん剤で治療をしましょうとなってしまいます。これが、3月だったらもっと簡単に手術で摘出できた可能性もあります。

また、がんが治るにしても、“いい治療”で治るはずだったものが、より“大きい治療”が必要になる可能性もあります。

胃がんは早期であれば開腹ではなく内視鏡手術でがんを摘出して、胃がそっくり残せることも少なくありません。しかし、がんが進行すると開腹手術で胃を部分切除して胃が小さくなってしまう、さらに進むと手術に加えて抗がん剤治療も必要になるかもしれません。このように、同じ胃がんでも、“いい治療”は体への負担も少なく、治療後も機能を保つことができ、再発リスクを低減させられる可能性があります。そのためには、早く見つけることが大事なのです。それが、コロナによって発見が遅れることで、治療に負荷のかかる患者さんが増えてしまいます。

これは、“治るがん”だけの話ではありません。当院の内科医によると、同じステージ4のがんでも、手の施しようがないくらい進んでから来院する患者さんが増えています。なぜここまで放っておいたのかと聞くと「コロナが怖かったので病院に来られなかった」と言うのだそうです。内科の医師たちは、せっかくいい武器(抗がん剤)を持っているのに、一切使えず悔しいと嘆いています。

がんのステージが進むほどに、止まっていた時間のインパクトはより大きくなります。

コロナよりも治療中止・見送りのリスク大

患者さんが一番不安に思うのは、がんの治療でコロナが重症化しやすくなるのではないか、ということでしょう。

結論から言うと、それほどリスクは上昇しません。一方で、治療や検査をやめたり見送ったりするのはとても危険です。

コロナがはやり始めたころには、分からないことがたくさんありました。幸い、日本ではがんに加えてコロナにかかり、治療を中断しなければならないという患者さんは非常に少なかったのですが、中国や欧米ではがん治療中にコロナにかかるケースがたくさんあり、そうした知識が世界中で共有されています。

それで分かったことは、抗がん剤治療を受けている人がコロナにかかると、普通の健康な人よりも重症化リスクが少しだけ上がります。しかし、治療を受けて半年に1回の定期検査を受けているような人は、コロナに感染することがあっても普通の人以上に困ることはありません。肺そのものの手術と免疫療法は注意しなければいけませんが、慎重に進める限りそれ以外のがん治療は止める必要がないのです。

もう1つ、女優の岡江久美子さんが4月に新型コロナで亡くなった時に、「乳がん手術後の予防的な放射線治療を受けていたために免疫が低下していた」という“風説”が流れてしまい、否定する声明を日本放射線腫瘍学会や当院などが出さなければならないということもありました。

新型コロナに関して詳しいことが分からず、パニックになっていた時期は過ぎました。感染の仕方が分かってきている今は病院もしっかりと防御をしているので、来院しても怖いことはありません。多くのことが分かってきた今、主治医に相談するなどして正しい情報に基づいて行動してください。

佐野武院長

「今年はいいか」で検診パス…早期発見の逸機にも

4月以降、ほとんどの医療機関でがん検診が止まりました。当院にも検診センターがあり、通常は半年くらい先まで予約でいっぱいなのですが、3月ごろからキャンセルが入り始めました。

院内で感染が起こったら大変なことになることも考慮し、4~6月はセンターを完全に閉じました。ほかの大きな検診センターなども、ほとんどが閉じていました。

さらに、日本消化器内視鏡学会が緊急性のない内視鏡検査を控えるよう推奨したため、内視鏡で発見されるがんも激減しました。

おなかが痛い、調子が悪いなどで近くのクリニックを受診した時に受けた内視鏡検査でがんがみつかるというケースが実際には多いのです。ところが、こうした受診も控えられたために、偶然がんがみつかることも減りました。

ようやく6月後半ごろから閉じていたセンターが再開し始めました。約3カ月の遅れによって、何が変わるでしょう。これはがんによっても異なります。例えば胃がんだと、新規の早期がんは3カ月程度では目に見えてどんどん大きくなるということはほとんどありません。

一方、進行の早いがんだと、発見が3カ月遅れると重大な事態になる恐れがあります。例えば膵臓(すいぞう)がんは、CTで写ったけれどあまり症状がない状態であれば手術と抗がん剤をきっちりやれば治る可能性があります。これが3カ月遅れて、本人が腹痛を感じるなどしてみつかった時には手術ができないぐらい広がっているかもしれないというほど早く進みます。

多くの機関で検診が再開しましたが、怖いのは「今年はいいか」とパスしてしまうことです。そうすると、発見が3カ月遅れで済むかもしれないものが、1年遅れになってしまいます。

そもそもがん検診というのは、早めにがんを見つけて治したい人が受けるものです。そうした心がけの人が、本当は受けていたはずの検診を飛ばして早期がんがみつかるチャンスを逃してしまうのは、とても残念なことです。

コロナの基本を知り恐れず行動を

新型コロナの感染の仕方やリスクなどについて、メディアを通じてさまざまな、そして一部は極端な意見が出回ったために、多くの人は何が本当なのかわからなくなっているのではないでしょうか。

感染拡大から8カ月以上が過ぎて、空気感染はしない▽飛沫はそれほど遠くまで飛ばない▽空気を入れ替えれば、いつまでも漂っているものではない▽感染者が触っても数日たてばそこにウイルスはいない――ということは分かっています。ところが、そうした基礎的なことも知らないままコロナを恐れ、がんよりもコロナの方が怖いと思っている人がたくさんいます。

「こうすれば治る」という話のほとんどは根拠がありません。一方「コロナは風邪と同じ」という楽観論も間違いで、風邪よりはリスクがあります。しかし、しょせんは従来の風邪の原因と同じコロナウイルスの一種です。きちんと手洗いをすれば手からは消える、マスクをして距離を置けばうつらないといった、基本的なことははっきりしています。その範囲内で、恐れずにやるべきことをやる。それが大切です。

「コロナがなかったらこうしていた」という行動に早く戻ってください。今時点で治療を受けに来ていない方から、がんがなくなったわけではありません。いずれ、より進んだ状態で病院に来ることになるかもしれませんが、それが少しでも早く、がんができるだけ小さいうちであることを願っています。

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