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全日病「病院のあり方報告書」から考える医療IT化、在宅医療・居宅介護、20年後の姿

公開日

2022年03月08日

更新日

2022年03月08日

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2022年03月08日

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徳田禎久委員長が報告書を解説【後編】

全日本病院協会(猪口雄二会長、約2500病院が加入する民間病院を主体とした病院団体 以下「全日病」)の「病院のあり方に関する報告書2021年版」は、20年後を見据えて病院のあるべき姿をさまざまな角度から分析しています。報告書をまとめた「病院のあり方委員会」委員長、徳田禎久先生(全日病常任理事、札幌禎心会病院院長)に、一般の方々にも分かるよう今回の報告書の特徴や込められたメッセージなどについてお話しいただく記事の後編では、医療のIT化や在宅医療・居宅介護などについて伺いました。

医療機関で想定されるテレワーク像

Q 医療機関におけるIT化が遅れているようですが?

2040年の世界では、テレワークが就業形態を変えるだろうと思われます。医療機関でのテレワークをどのように進めていくべきか、全日病会員の中で早くからIT化を進めてきた委員にコラム執筆をお願いしました。

結論としては、対面での業務に導入は難しいが、それ以外のところでは利用できる部署もあり、メリットも多いということです。

「新たな日常」(新しい働き方・暮らし方)が実現し、時間管理をベースとする日本の労務管理のあり方が大きく変わるとみています。非対面・非接触による仕事で、物理的な「距離」が縮まり、どこにいても同じ情報・サービスの共有が可能となるうえに、拠点を構える場所・地域が限定されず、職員の住まいの場所の制限もなくなることで、広くよい人材を採用可能になるのではないかと考えられています。各種業務のスペシャリストや総合医の育成も可能となり、これまで以上に成果主義を導入できるという経験が示されました。実際に、残業代/移動交通費/出張・研修費などの削減とほかの研修などへの転用が行われています。

また、医療のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進むことによる医療機関や患者さんのメリットについても検討されています。医療・介護の現場では、患者さんや要介護者の移動がないことから費用・時間などの面で家族の負担がなくなります。診療所・病院同士の連携やかかりつけ医から専門医への連絡・情報共有の手間を減らすことも可能で、これらによって特に地方の医療機関の負担を軽減できれば、医師偏在の対策にもつながりうると結論付けています。

新しい医療のあり方と人手不足の代替策としての「デジタル化」

今後20年のうちに進むことが予測される医療イノベーション(技術革新)の中で、注目すべきは「生体モニタリング(心電図、体温、血圧、呼吸、血糖値などの生体情報をリアルタイムで測定・記録すること)」と「個別化医療(患者さんの遺伝子、病気のタイプなどに合わせて最適な治療をすること)」です。

今までの医療とは「病気を治す」ことでした。医療イノベーションが進む今後は、予兆の検知や予防などについても、介入の場所やタイミングを広げることが可能となります。幅広く「生体モニタリング」が可能となると、医師が従来の診療プロセスでは気付かない兆候を把握し注意喚起をして患者自身の行動変容を促し、健康維持から社会生活の質の向上をもたらすことも可能で、「未病」の段階から介入することも医療の大切な役割になるはずです。

個別化医療も重要です。血圧が高めでも、動脈硬化などがみられないなど健康上の問題がない人はたくさんいて、全ての人を同じ基準の枠にはめるわけにはいかないはずです。AIの活用などで、長期間にわたり一人ひとりの健康に関するデータを取り続け、スピーディーに正確に解析できるようになると、これまでと違った個別化健康管理・医療が可能となるでしょう。

日本の医療現場におけるIT化の遅れの主な原因は、国が主導してこなかったために会社・システムが乱立し選択の決め手がないことと、導入後の維持にかなりの費用を必要とするためです。その問題を解決できれば、いろいろな意味で医療介護現場が変わっていくことは間違いありません。

経営者は、これから減少する人手を代替する方法を考えなければなりませんが、技術革新を利用した業務改善が大きな決め手の1つで、IT利用は必須、関係者の積極的対応が望まれます。全日病は、広報委員会の中に「ICT委員会」を設置し、会員に情報を発信してIT化促進を図っていく予定です。

「全国一律の推進」見直しを

Q 国が進める在宅医療・居宅介護の今後のあり方は?

将来の提供体制の中でもっともあらためるべき内容の1つが、在宅医療・居宅介護の「全国一律」の推進です。なぜなら、特に地方ではこれらが成り立たないからです。

在宅医療・居宅介護成立の必須条件が、同居者が常時いることです。独居高齢者の場合には、自分のことがある程度できる、医療度・介護度の低い人でなければなりません。しかし、生産年齢減少社会では、同居者となる方々に働いていただかなければ日本の経済が成り立たなくなります。

国は、在宅・居宅のほうが費用が抑制されるとして推進してきました。もちろん、人口が集中する都会では成立する仕組みですので、ぜひ在宅を進めてほしいと思っています。しかし、人口密度の低い地方では、1日に数件の回診しかできず医療機関経営が成り立たない、絶対に無理な地域もあるのです。

地域特性に合わせて医療・介護・福祉をいかに組み立てるべきか。少ない人員で質が担保される体制を作るには、要医療・要介護の方々を施設でみてあげるしかないだろうという議論になりました。

Q 最後に、つけ加えたいことはありますか?

今回の報告書は、20年前に全日病が主張した内容に関する結果を振り返り、20年先の日本についての予測を立てたうえで、あたらめて理想的な医療・介護提供体制の再構築を提言したものです。

報告書は、過去の内容も合わせて全日病のウェブサイトから誰でも見ることができます。

第2章で示した2040年の社会像に関しては、一般の方々が身近に感じられるテーマがあるかもしれませんが、大部分は、医療・介護事業関係者向けに書いた内容ですので、難しい部分がほとんどでしょう。現場の医療・介護提供者がかみ砕いて説明することで少しずつ理解が広がるはずで、そうしていただければ大変うれしく思います。

全日病の行動指針と位置付けられている本報告書に従って、さまざまな取り組みが行われるはずです。現在進められている「地域医療構想」「地域包括ケアシステム」が「地域包括ヘルスケアシステム」に転換され、私たちの理想に近づけていけるよう努力していきたいと思っています。

 

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