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医療と病院の将来見据えテーマ設定―全日本病院学会、広島市で10月開催

公開日

2023年10月10日

更新日

2023年10月10日

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2023年10月10日

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全国約2500の民間病院が加入(2023年9月現在)する全日本病院協会(以下「全日病」)が「学術研修の場」として主催する「第64回全日本病院学会」が2023年10月14~15日、広島市で開かれる。少子高齢化、人口減少、地方の過疎化、新型コロナウイルス感染症による受療行動の変化などにより、官民を問わず病院を取り巻く環境は厳しさを増している。そうしたなかで、今学会は高齢化・多死社会を乗り越えたその先を見据えてテーマ設定されている。学会長の大田泰正先生(脳神経センター・大田記念病院<広島県福山市>理事長)に、テーマに込めた思い、学会の見どころ、そして地方での病院経営などについて聞いた。

“多死社会”の先見据えテーマ設定

今学会のテーマは「未来の子どもたちへ ~脱高齢ニッポン!~」としました。今の高齢者の方々は人口のボリュームゾーンでもあったわけですが、一方で生産年齢人口は減少しており、社会保障の給付と負担の世代間格差が問題となっています。そのため、国としては全世代型の社会保障制度を目指しているのですが、病院経営に関わる我々も、未来志向でこの問題に向き合うべきだと考えています。そうした思いをこのテーマに込めました。

もう少し踏み込んだ話をすると、表現が難しいのですが、高齢者医療の“適正化”を通じて、何とか2040年問題*を乗り越えるすべを皆で考えていかなければいけないということです。地域医療構想**で想定されている2025年はもう目前なので、その先の2040年を見据えて、現場で働く我々の世代が今ある社会保障制度をどう解釈してどう動くか、来るべき“多死社会”をどう乗り越えてその次につなげるか、といったことも考えていきたいと思っています。

*2040年問題:急速な人口減少と団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者になることで2040年ごろに高齢者人口が最大となることによる内政上の危機

**地域医療構想:将来人口推計をもとに2025年に必要となる病床数(病床の必要量)を4つの医療機能ごとに推計したうえで、地域の医療関係者の協議を通じて病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を実現する取組み(https://www.ajha.or.jp/guide/28.html)

全国一律の医療提供体制維持、困難な時代に

学会の詳細に入る前に、現在の地方の医療がどうなっているか個人的な思いも含めてお話しします。

地方で病院を経営している実感として、日本全国隅々まで同じレベルの医療提供を目指すことは、そろそろ方向性を見直す時期に来たのではないかと思っています。どこに住んでいても、いざとなったら同じレベルの治療を病院で受けられる体制を維持するのは、残念ながら難しくなってきています。たとえば、厚生労働省の循環器病対策推進基本計画では「脳梗塞に対するt-PA(脳の血管に詰まった血栓を溶かす薬)療法や機械的血栓回収療法(カテーテルを用いて脳の血管に詰まった血栓を除去する治療)を国民があまねく享受できる状況には至っていない」ことが指摘されています。人口減少フェーズに入っているなかで、そのために必要な医療資源を確保・維持するコストを負担しきれない時代が早晩やってきます。病院での治療を受けるまでに時間やコストを要する地域も出てきますし、それをできるだけ補うような在宅医療、訪問系サービスの検討はもちろんとして、住民の皆さんが、そこに居住し続けるうえでのリスクも納得しておく必要があると感じます。

今後、今までと同じ体制で医療を提供することは、病院経営の観点からも成り立たなくなるでしょう。目先の課題としては「医師の働き方改革」をどうクリアするかがあります。このままではおそらく、夜間の救急医療体制がかなり影響を受けて“救急難民”が出かねません。そうならないために、自治体や医療圏単位で、地域の救急医療体制について真剣に話し合っておかなければいけないと思っています。

もっと長期的には、公立も民間も含めて病院の集約化は避けがたいでしょう。どういう形で進むか、まだ完全には見通せていませんが、今後2、3年の非常に大きなテーマになると考えます。

人口が急激に減少している地域で、自治体が公立病院を維持することについてはそれぞれの考え方や事情があるでしょう。地域全体であり得るべき医療の姿を考え、その範囲内でルールを決めて最適な医療体制を模索していくことが、多死社会の先の持続可能な医療体制につながっていくのではないかと個人的には思っています。

デジタル化、ACP、COVID-19振り返りなど多彩な企画

話を戻して、今学会の見どころや力を入れているセッションを紹介します。

まずは「Web3.0時代の病院—リアルvsデジタルを超えて」のセッションです。多くの方がウェブ経由で医療情報を得ているように、インターネットは日常生活に根差しています。では、その先はどうなるか。「AI」「DX」「Web3.0」など、デジタルの世界で今起こっていること、これから起こるであろうことを取り上げながら、そのなかで病院はどうなっていくか、どうあるべきかという話をしてもらいます。

先ほど述べたテーマとの関わりで、多死社会をどう乗り切るかという観点から「ACP(Advanced Care Planning:人生の最終段階における治療、療養について患者、家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的プロセス)」が1つのキーワードになると考え、「地域包括ケアにおける超高齢者の救急搬送とACP」のセッションを企画しました。

さらにテーマとの関連では「世代交代」についてのセッションを2つ用意しています。1つは「未来につなげる事業承継と地域活性化」。他業種ではどのように世代交代を進めているのかをお話しいただくもので、事業継承で成功している広島県内の地元企業や伝統ある寺院の代表者の方にご登壇いただきます。もう1つは「雑誌『病院』×全日病学会 コラボレーション企画「ヤングフォーラム・リターンズ!!」」と銘打って、これから病院事業を継承する、あるいは最近継承したばかりの方たちが今何を思っているのか、これからどうしていきたいかといった話をしてもらいます。実は、「ヤングフォーラム」は以前も行われていたのですが、数年前に途切れていました。私は10年ほど前に出演して話したことがあります。このセッションは若手病院経営者の登竜門として、今回復活して3人にお話しいただきます。

過去4年間、医療機関はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響を大きく受けました。今も感染は続いているので終わったわけではありませんが、感染症法上の5類移行を機に、パンデミックの中でよくできたこと、悪かったこと、そして今後何に気を付けていけばよいのかといったことを一度まとめたほうがよいと考え、「医療情報管理の要諦-COVID-19の失敗を繰り返さないために」というセッションを企画しました。座長の大毛宏喜先生(広島大学大学院 医系科学研究科 外科学 感染症科 教授)は感染症の専門家(日本感染症学会指導医)でいらっしゃいますが、外科医としての視点もお持ちです。大毛先生を中心に、緊急事態下での医療情報管理の要諦について、議論を深めてもらおうと思っています。

「地域医療構想と民間病院~集約と分散」というセッションは、昨今の公立病院を中心とした集約化についてどう考えるかという「公民格差」の問題がテーマです。民間病院の加盟が多い全日病では、外せない鉄板のテーマです。

最後に、今までと趣向の異なるセッションとして、全日病内部で話題になっているのが「すみいの部屋 ~ここでしか言えない話、聞けない話」です。全日病の猪口雄二会長と5人の副会長が勢ぞろいし、中小民間病院はこの先どうなるか・どうあるべきか、全日病が何を目指し、病院団体としてどう組織化していくかといった皆さんが気にしていることについて、カジュアルな雰囲気で本音を聞き出せればと期待しています。

参加して社交性を発揮、得るものは増え失うものはなし

医療従事者の中には普段から病院外の方との付き合いが多い職種も、そうでない職種もあります。しかし、どんな職種であっても全国から集まったさまざまな病院の関係者と交流し、情報交換をすることは非常に重要だと思っています。参加すればメリットがあり、そこで社交性を発揮すればさらに得るものは増えます。逆に失うものは何もありません。全日本病院学会とはそういう場ですから、多くの方に参加し、積極的な交流の場としていただきたいと願っています。
 

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