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連載もっと知りたい「病院」のこと

超高齢社会対応から見通す医療IT化の未来

公開日

2020年07月21日

更新日

2020年07月21日

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2020年07月21日

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新型コロナウイルス感染症拡大を防ぐため、2020年4月からオンライン診療が「特例的・時限的」に規制緩和されました。そこで明らかになったのは、情報化が進む世界の中で、日本は医療の面でもIT化が遅れているという“不都合な真実”でした。医療のIT化は医療者や患者に何をもたらすのか。IT化とは対極にあるイメージの高齢者医療で積極的にオンライン化を進める、織田病院(佐賀県鹿島市)理事長、全日本病院協会副会長の織田正道先生に、取り組みとあるべき医療のIT化についてお聞きしました。

高齢化する地方の病院とIT

私の病院がある佐賀県鹿島市は、有明海に面した人口3万人弱の地方都市です。高齢化が進み、75歳以上の「後期高齢者」の中で85歳以上の人数が、2012年には85歳未満の年齢層を上回るようになりました。

それに対応するために、従来の日本的な考え方は“ハコモノ”(高齢者施設)をつくるという方向を向きます。しかし、介護する世代が減っていく中で、マンパワーがいずれ不足するのは自明です。そこで、ハコモノに代わるものとしてITを使った見守りシステムをつくりました。

これを作ったのはもう1つ理由があります。救急患者受け入れの病床を確保するということです。

高齢化の進展とともに、救急車で搬送されてくる85歳以上の人が過去15年間で2.5倍、新規入院患者数の3割近くを占めるようになりました。急性期を過ぎて回復期までみると退院まで2カ月ほどかかってしまいます。111床の病院でそれだけの患者さんが長期入院したままになると、救急病院としての機能は維持できなくなってしまいます。当院の平均在院日数は11.6日。それを過ぎたらあとは回復を待つ時間で、あまり医師の手はいりません。ですから、家から来た人は家に帰っていただきます。

ただ、こうした高齢者は1週間ほどの短い期間で日常生活動作(ADL)が低下してしまうので、退院直後の見守りとケアは欠かせません。退院後2週間はオンラインで我々が見守り、生活の場でリハビリや訪問看護に伺うという形で回復を支援します。

退院前は非常に不安に思われるのですが、2週間たってみると不安はほとんどなくなります。そして意外にも、家に帰ると元気になられる方が多いのです。

高齢者でも使えるテレビをメインに

では、具体的に高齢者と病院をどのようにつないでいるか、説明しましょう。

退院後の高齢者宅のテレビにカメラやマイクなどをつなぎます。タブレット端末を使いたかったのですが、高齢者はタブレットのスピーカーでは音が小さすぎて聞こえなかったり、タッチパネルがうまく操作できなかったりしますので、一番慣れているテレビを中心に据えています。

病院には「メディカル・ベースキャンプ」という部署があり、高齢者宅から届く情報を管理したり、医師・看護師らがテレビ電話のような形で、相方向で顔を見ながら会話したりすることもできます。テレビやエアコンの電源が入っているか、室温・湿度などをチェックし、必要に応じて声掛けをします。

例えば、高齢者の方はだいたい生活のパターンが決まっていて、毎日同じ時刻にテレビのスイッチを入れます。その時刻を過ぎてもテレビがついていなければ、こちらから電話をして状況を確認します。また、これからの季節は熱中症も心配です。室温が上がっているのにエアコンの電源が入っていなければ、エアコンをつけて熱中症を予防するように促します。もし、テレビがついていれば、視聴中の画面に割り込んで話しかけることもできます。

訪問看護ステーションもメディカル・ベースキャンプ内にあるので、顔見知りのスタッフが画面を通じて声掛けをするといったこともします。

オンライン診療の様子
テレビを通じて自宅の高齢者に声をかけるメディカル・ベースキャンプのスタッフ=織田先生提供

今、オンラインでサポートしているケースが300件ほどあります。家にいても医療がちゃんと見守ってくれるという安心感がある一方で、生活全般のケアを考えると行政も交えた地域包括ケアシステムをどうやって構築するかということも課題になってきます。

高齢者が増えていくときには、“受け皿”となるハコモノを一生懸命作ろうと考えてしまいます。ところが、作ってもすぐに埋まってしまって施設不足はいつまでたっても解消できない……とやっているうちにいつかピークアウトして、施設は一転、余剰になってしまいます。そうならないために根本的にやり方を変えようと、IT化を進めたわけです。

コロナという外圧でデジタル化社会に?

私たちは地域の事情もあってこのようにオンライン化を進めてきたわけです。一方で、日本全体を見ると、IT化がこんなに遅れていたということが今回の新型コロナ感染症の拡大によって浮き彫りになりました。医療に限らず、教育、働き方などみな同じです。デジタル化が必要なことは分かっていたけれど、これまでは不自由しないから進まなかった。恵まれていたから遅れてしまった面もあるのでしょう。

少なくとも医療に関しては、コロナによって多くの関係者がこのままではいけないと感じるようになりました。

過去を振り返ると、日本は75年ごとに外圧で変わってきました。150年前の明治維新(1868年)で開国し、75年前の敗戦(1945年)で民主国家になりました。それから75年後の今、超高齢社会が日本を変えるかと思っていたら、コロナが“外圧”となってデジタル化社会に変わっていくのかもしれません。それがなければ、日本の医療のデジタル化はさらに遅れていたでしょう。

世界は元に戻らない

今回、コロナの拡大を抑えるために、オンライン診療の適応が拡大され、電話での再診を含めれば1万以上の医療施設がオンライン診療を進めています。検証はこれからですが、十分使えると認証されれば、導入は本格的に進むでしょう。患者さんにとっても、オンラインの便利さを知ってしまうと希望するようになるかもしれません。

熱中症リスクがある高齢者宅は画面左のマップ上に赤く記され、右側の一覧に個別情報が表示される=織田先生提供

日本だけの視点で見ると、時限措置が終わったら元に戻ると考える人もいるようです。しかし、世界中で1300万人以上が感染し、死者も60万人を超えるという状況では、国外ではオンライン診療が当たり前の時代になっていくのではないでしょうか。その中で、日本だけが、「喉元を過ぎれば従来通り」ということがあるのかと感じます。

コロナがこれから2、3カ月で終わることはないでしょう。次のインフルエンザ流行期にも収束していなかったら、われわれ一般病院が対応せざるを得ないかもしれません。その時には、診療でもできるだけ対面を避けるということになるでしょう。

病院間に温度差、意識差

とはいえ、病院にも温度差があるのは事実です。規模もさまざまですし、病院経営もこれからますます厳しくなっていくでしょう。

例えば、電子カルテ1つとってみても、導入していない病院もあり、さまざまです。電子カルテはメリットもたくさんありますが、初期投資とランニングコストで、病院支出の1~1.5%と、それなりに大きい金額がかかります。ところが診療報酬の上乗せはありません。オンライン診療に関しても、設備投資とランニングコストがかかってくるものには、なかなか投資しきれないということもあるかと思います。

コロナ対応で、国は医療機関に対してもさまざまな予算を投入するようです。オンライン診療に関しても何らかのインセンティブがあれば、導入したい病院、患者双方にメリットがあるのでしょうが、今のところそうはなっていないようです。

私個人の意見としては、初診に対しては慎重であるべきで、基本的には対面診療が必要であると考えますが、患者と医師の信頼関係ができているのであれば、今後オンライン診療は日常の診療に取り入れていっても良いのではないかと考えます。

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