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連載もっと知りたい「病院」のこと

地方の病院が新型コロナワクチン接種で「欲しい情報」とは

公開日

2021年04月27日

更新日

2021年04月27日

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2021年04月27日

掲載しました。
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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年04月27日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルスワクチンは、2021年2月に医療従事者、4月には高齢者を対象に接種が始まりました。今後、基礎疾患のある人、一般の人へと対象者が順次拡大される予定です。その際、多くの地域では病院の医師・看護師らに負担をお願いすることになるでしょう。その準備は進んでいるのでしょうか。全日本病院協会広報委員で、江口病院(佐賀県小城市)副理事長の江口有一郎先生にお聞きしました。

医療従事者でも知らない“実践的情報”

私どもの病院がある自治体では、医療従事者への新型コロナワクチン接種がようやく始まったところで、初日の4月19日に1回目の投与を受けました。現在、スタッフへの接種をどういう順番で進めるか後ほどお話しする懸念事項を鑑みながら、勤務状況などに合わせて実施しているという段階です。一方、招へい教授を務めている兵庫医科大学では3000人ほどへの接種が終わったと聞いています。さらに同じ都道府県内でも自治体による差がかなり大きいというのが現状のようです。

【江口先生が実際に接種を受ける様子(動画)】

兵庫医大で聞いた話では、このワクチンは人によっては投与後数時間経過すると、注射部がかなり痛むらしいです。その痛みは翌々朝にはけろっと治っているそうなのですが、利き手と反対側の左の上腕に注射を受けた場合、例えばキャベツを切るのに左手で保持できないぐらい痛んだ医師もいたそうです。その晩は寝返りで腕をベッドにつけられなかったという医師もいたそうです。また、別の病院からの情報によると、筋肉注射をするということになっていますが、これまでの教科書的な注射部位である上腕の大きい筋肉に打つと痛いので、脇のラインのレベルの腕の筋肉に打つと痛みは軽いらしいということです。

病院スタッフの接種に関して、当初は昼休みに打つことを想定していたのですが、こうした話を聞くと午後は仕事にならない人が出てくる可能性もありますので、計画を練り直し、午前中は夜勤明けのスタッフが帰宅前に打ったり、日勤者は夕方の帰宅前に打ったりと工夫をしています。医療機関によっては、外科の医師などは翌日が手術日ではない日に打つような工夫もしていると聞きます。

私は講演などでいろいろな病院に行くこともあるため、そういった実践的な情報も耳に入りますが、地方の病院で黙って待っているだけでは情報は降りてきません。情報を持たずに順番が来たからと接種を始めると、早退者続発で病院が機能しなくなるということもあり得ます。

個人病院や中小の病院は、接種した職員に翌日休んでもらうと体制が維持できなくなるかもしれません。だから、休前日に接種するしかない。土曜日に打って、翌日の日曜日は休みがつぶれる可能性もあるというのを、申し訳ないけど接種の時だけ我慢してもらうというようなやり方もありうるでしょう。

江口病院は職員が約200人います。急性期と地域包括ケアと療養があって、ぎりぎりの人員です。夜勤の看護師さんは各病棟に2人ぐらい。もしも、何も知らずにその2人とも夜勤前にワクチンを接種して、夜に腕が上がらないというようなことが起こったらと思うとぞっとします。看護師長には事例を紹介するなどして、看護師さんのシフトを考慮したうえでスケジュールを組むようにしました。

そうした事態を避けるためには、先行してうまくいっている病院の情報を共有するシステムが必要なのではないかと思います。

例えば「予防的に消炎鎮痛剤を投与したら痛みが少なかった」とか「鎮痛剤はロキソプロフェンとアセトアミノフェンのどちらがいいか」「(熱や痛みを緩和する漢方の)麻黄湯が効いた」といった“体験談”にはエビデンスがないので、一般の人に向けて公表するのは好ましくありません。しかし、対象を医師に限定すれば、きちんと判断し、取捨選択できるでしょうから、これは全日病というつながりを生かして、発信していってもいいのではないでしょうか。

分かりやすいQ&A、誰でもリーチできるように

医療従事者と並行して、高齢者の接種も始まっています。ただ、ここでも情報不足は深刻です。

国から自治体に降りてきたものをそのまま配布しているのかもしれませんが、一般向けのワクチン接種券などと一緒に配布されるチラシには、フロー図で自治体にワクチン接種の予約をする前に、全員が通る太い矢印が記載され、その矢印の先には真ん中に大きく唯一の赤い字で「かかりつけ医のある方は主治医に相談する」と書いてあります。すると、何が起こると思いますか?

私は午前中だけで毎日30人の患者さんを診ています。全員からワクチンのご相談を受け、ご説明に3分かかるとしましょう。合計すると午前中だけで90分、余計に時間が必要になります。実際に、接種券が郵送された先週から、患者さんは「自分もワクチンを受けたいが、受けてもいいか?」という相談のために、定期の外来受診日とは別に受診依頼が殺到して、外来待合室は患者さんがあふれ、3密の状態になっています。それが全国津々浦々で行われると、医療資源の壮大なロスになる。それが原因で事故が起こるかもしれないし、予約時間が遅くなる、急患の方への対応や難しい疾患をお持ちで十分な診療時間を要する患者さんに十分な時間をかけて説明ができないなど、不利益をこうむるのは患者さんです。

そうならないためには高齢者が多くを占める患者さんがきちんと分かるようなQ&Aを作って、誰でもリーチできるようにするべきです。そこを飛ばして「主治医に相談を」では、現場が混乱するでしょう。そうした地方の実情をしっかり把握していただきたいと思います。

「リスクコミュニケーション」スキルの圧倒的不足

行動経済学に「プロスペクト理論」という意思決定モデルがあります。

例えば2つのゲームがあり、それぞれどちらかを選ばないといけないとします。ゲーム1:Aは「必ず90万円もらえる」、Bは「コインを投げて表なら100万円もらえるが裏なら何ももらえない」――という場合、ほぼ全員がAを選びます。

ゲーム2:A「無条件で90万円を払う」、B「コイントスで表なら100万円を払う、裏なら何も払わなくていい」――というゲームではBが選ばれます。

これは、人間が「損失を回避したくなる(損失を被るくらいなら、一か八かにかける)」生物だということを表しています。普段、買う商品がいつもより200円安い時の喜びと、200円高い時の悲しみを比較すると、高い方の悲しみが2.5倍大きく心に響くとされています。

新型コロナウイルス感染症とワクチンの関係は、この理論が適用できる現象だと思います。

一般の方にとっては、コロナに対する脅威感=命に関わるような大きな損失をイメージするので、回避する(できるかもしれない)もの=ワクチンに多くの人が飛びつくはずです。だから、上記のような医療機関に患者さんが押し寄せるという騒ぎが起こってしまいます。しかし、本来、意思決定に際しては、リスクとベネフィット(得られる利益)について十分に理解していなければなりません。

新型コロナワクチンに関しても、行動経済学者、心理学者と一緒にリスクとベネフィットを分かりやすく説明するという、「リスクコミュニケーション」をすべきです。

残念ながら、日本では医療者も、国民もリスクコミュニケーションのスキルが圧倒的に不足しています。

病院同士のネットワークで情報伝達を

これから、高齢者、基礎疾患のある方、一般の方と、ワクチン接種のすそ野が広がっていきます。

地方の病院が果たすべき役割、大義は地域医療に命を懸け、住民の健康管理において最大のバリューを出すことです。ところが、ワクチンに関しては情報が断片的かつ、少なすぎます。

自治体も、国も、先ほどお話ししたような、われわれが求めている実践的な情報をオフィシャルには流せないでしょう。それは、病院同士のネットワークの中で伝えていくべきものだろうと考えています。