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高齢者「在宅」への橋渡しも「看取り」も―新たな医療・介護施設「介護医療院」とは

公開日

2022年01月27日

更新日

2022年01月27日

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2022年01月27日

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厚生労働省は2018年から、高齢者の医療・介護施設として新たに「介護医療院」を、従来の「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」「介護老人保健施設(老健)」「介護療養型医療施設」に追加しました。介護医療院とはどのような施設か、また現状と課題などについて、厚労省「療養病床の在り方等に関する検討会」委員、全日本病院協会(全日病)介護医療院協議会議長を務め、実際に介護医療院を設置している医療法人慈繁会(福島県郡山市)理事長、土屋繁之先生にお聞きしました。

介護医療院―ほかの介護施設との違いは

介護医療院は医療の必要な要介護者の長期療養・生活施設で、住まいと生活を医療が支える新たなモデルとして創設されました。慢性期の医療・介護のニーズを併せ持つ高齢者に対応でき、医療処置などが必要なため自宅や特別養護老人ホームなどでの生活が困難な高齢者も利用することができます。長期療養に適したプライバシーに配慮された療養室で、ご自宅に近い療養生活を送れる施設です。

介護保険下の高齢者施設にはそれぞれの役割ごとに以下の4種類があります。

・介護医療院:要介護高齢者の長期療養・生活のための施設
・介護療養型医療施設:医療の必要な要介護高齢者のための長期療養施設
・介護老人保健施設:要介護高齢者にリハビリ等を提供し、在宅復帰・在宅支援を目指す施設
・介護老人福祉施設:要介護高齢者のための生活施設

かつては「老人病院」といわれた病床に、一般の医療の中で長く寝たきりのまま入院している高齢者がいました。2000年に介護保険制度が始まった際、長期入院している高齢者のうち医療必要度がそれほど高くない方たちは「介護療養病床」に、医療を必要とする人たちは「医療療養病床」にと、介護と医療を分けたのです。

ところが実際は、介護療養病床に入っている方にも医療は必要で、医師や看護師の毎日の観察があり治療方針が継続されることで状態が保つことができました。そうした人の医療と介護をどうつなぐかを検討し、介護療養病床をなくして介護の領域で在宅に戻せるようにする方向で話が進みました。

長期療養施設のあり方について厚労省の委員会で、全日病、日本慢性期医療協会(日慢協)、日本精神科病院協会(日精協)も含め、足掛け3年にわたって議論を重ね、モデルとしてつくったのが介護医療院です。介護保険下の高齢者4施設の中で医療・介護の両面で手厚い環境を高齢者に提供できるものになり、関わった団体全てが「いい形で落ち着いた」と思っていると思います。

全日病介護医療院協議会が2021年5月に会員で介護医療院を有する152病院を対象に行ったアンケート(回答:85病院<55.9%>)では、在宅療養施設として有用と回答した病院が87%、経営状況が良好と回答したのが74%と、おおむね満足している印象です。また、地域に貢献できる可能性があると考える病院が約半分あり、今後さらなる発展が期待できる施設と思われます。

医療レベルを保ちながらの「看取り」機能も

介護医療院は、病院の中や医療機関に隣接する形で作られることが多いのですが、基本的には入居者が望む場所で医療介護を受けられる“住まい”です。介護保険下にあって高齢方が自ら選んでそこに住み、本人らしさを尊重しながら機能を高めて在宅に戻ってもらえれば理想的です。医療保険下の施設とは、医療を中心に提供するか自立支援を提供するかという点が異なります。また、「医療」はその人を治すために、本人の意に反しても治療を提供することもあります。一方、介護医療院は自ら選んだ人間らしさを重んじて生活してもらい、無理に私たちが考える方向にもっていくことはありません。

地域包括ケアの大きな目的は、医療と介護の切れ目ない継続した連携です。在宅の高齢者の具合が悪くなったら、介護医療院に入居し、食事の世話やリハビリなど在宅でいる以上に手をかけ、機能が回復すればまた在宅に戻る――それも介護医療院のあり方です。

より医療の必要度が高く、検査も治療も必要な人はまず地域包括ケア病床に入りますが、最大2か月間しかいられません。その間に回復しない、あるいは具合が悪くなってしまったら在宅に戻すのは困難です。そのときに介護医療院で過ごしていただくのも介護医療院の有効活用の1つです。

また、介護医療院の機能の1つに「看取(みと)り」があります。在宅で看取ることのできる環境があれば、自分の家で最期を迎えたいと思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、現実問題として、日々弱っていく身内の世話をするのは家族にとってかなりの負担です。高齢で寝たきりとなり治療を受けてもよくなるかどうか分からないとき、そのまま治療を継続するかどうかご家族と相談します。その結果、延命のための治療を望まないということになれば、介護と医療のレベルをある程度保ちながら穏やかに看取る場として介護医療院に入居することも適切な選択肢です。

介護医療院を備えた福島県郡山市の土屋病院

医療・介護ニーズの推移検討、実情に合った体制を

団塊の世代が後期高齢者になる2025年から、多死社会がピークを迎える2040年までの間は療養施設が足りなくなります。つまりあと20年ほどは、長期療養施設は介護医療院に転換したほうが地域のお役に立てると思われます。

ただし、すでに見えている問題もあります。介護医療院は病院として機能できるほどの人員を常駐させる必要があります。介護医療院に入居するのはある程度の医療・介護を必要とする方、しかも高齢者が多く、機能回復などのためにさまざまな取り組みをするとマンパワーもお金もかかりますが、現在の介護報酬では足りないというのが実際に運営している多くの施設の実感ではないかと思います。

医療・介護を必要とする高齢者の増加はあと20年続きます。現在のやり方でどこまで支えられるかが、当面の大きな問題なのです。

そして、2045年ごろには団塊の世代の人数が急激に減少します。すると、こうした施設の経営が難しい環境になるのは自明です。将来的には地域の医療・介護ニーズの推移を検討、議論して実情に見合った体制を作っていくことが求められるでしょう。

地域に求められる医療、介護、福祉がどうあるべきかをしっかり議論して、お互い協力し合って体制を作る姿勢が、本来の「地域医療構想」です。ところが、今は“トップダウン”で国・県行政から降りてくるものが主になっています。実際に現場に携わるさまざまな専門職の人たちがもう少し時間をかけて議論する場が増えれば、いずれはよい方向に収束していくと思います。

また、介護施設の本当の姿がまだ地域の人たちに理解されていません。自分たちが介護保険料を払っているのですから、自分たちで選んで入れるのが本来の姿です。ところが、経済的、身体的状態などのさまざまな要因から入れる施設がおのずと決まってしまいます。加えて、受け皿となる施設が少なく、たとえば特別養護老人ホームに申し込んでも何年も待つこともあるなど、望んでも必ず入れるとは限らない状況があります。

求められる手続き簡素化―周知徹底もさらに

介護医療院は私たち医療者が考える中では理想的な介護保険下の在宅施設だと思います。それを地域の人たちに知ってもらわなければいけません。在宅で高齢者を診ている先生たちにも、地域包括ケア病床も含めてバックアップができる状況があることを知ってもらう努力をしていかなければなければ、困っている患者さんやご家族へのよりよいサービス提供につながりません。

そのうえで、ぜひ改善してもらいたいことがあります。

介護保険は契約の下(もと)で動くので、利用は多くの書類を作るところから始まります。手続きの簡素化が喫緊の課題です。介護保険は本人の意思から始まるという立て付けでできています。充分に理解していただくということでたくさんの書類があるのですが、これを簡素化しないと医療とのスムーズな連携ができません。

介護医療院の開設には「地域の皆さんから十分な理解が得られるよう、周知を徹底する」という要件もあります。まだまだ周知が足りていないところが多く、今まで以上に力を入れていかなければいけないと思っています。


 

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