連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

トイレットペーパーに血が――切れ痔を放置するリスクや治療とは

公開日

2025年09月16日

更新日

2025年09月16日

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2025年09月16日

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肛門科なかやま病院 院長 中山健太先生

切れ痔(裂肛:れっこう)は多くの人が経験する身近な病気だ。だが、デリケートな場所の病気なので、病院に行くのが恥ずかしく、なかなか受診できない人も少なくない。特に女性の場合は受診をためらうことも多く、毎日の痛みやちょっとした出血に悩んでいる方もいるだろう。

そんな切れ痔について、肛門科なかやま病院(札幌市厚別区)の院長、中山 健太(なかやま けんた)先生に症状や治療法、予防方法、医療機関の選び方などを伺った。

◇痔とはどのような病気?

痔というのは、肛門の周りに起こるさまざまな病気の総称です。よく知られているものには、いぼ痔(痔核:じかく)、切れ痔(裂肛:れっこう)、痔ろう、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)などがあります。ちょっと肛門の周辺がかゆかったりかぶれた際に、「もしかして痔かな?」と心配する方もいますが、そうとは限りません。ただし、痛みや腫れ、出血がある場合には痔の可能性が高いので、注意した方が良いでしょう。

痔は、日本人の約3人に1人がかかっているといわれています。その中で切れ痔は、生涯発病率10%強と、いわゆる痔のなかでも多くの方がかかっているといえる病気です。切れ痔はどちらかというと女性がなりやすく、また20歳代から50歳代でかかる人が多いとされています。女性が多い理由としては、便秘になる方が多く、それが引き金となって切れ痔になる方もいらっしゃいます。

痔の種類
(画像提供:PIXTA)

 

◇切れ痔の症状と原因

切れ痔の主な症状は、肛門からの出血と排便時の痛みです。たとえば「拭いたらトイレットペーパーに血がつく」「ときどきポタポタと鮮血が落ちる」といった出血や、排便のたびに鋭い痛みが走るケースが典型的といえます。

切れ痔の大きなきっかけは、便秘や下痢といった便通の乱れです。硬い便が肛門を通るときに皮膚を傷つけたり、下痢が続いて肛門が刺激されたりすることで肛門上皮が切れ、痛みや出血を生じます。

なかでも注意したいのが便秘です。排便時の痛みを恐れてトイレを我慢すると、さらに便が硬くなってしまい、切れ痔を繰り返す悪循環に陥りやすくなります。毎日スムーズに排便できる環境を整えることが大切です。

また、肛門と直腸の境目に肛門ポリープ(皮膚や粘膜からいぼのように盛り上った腫瘍)ができることもあります。このポリープが大きくなると、傷が治りにくくなり、切れ痔を何度も繰り返す原因にもなるため、このような場合にはポリープそのものの治療を検討します。

痔核
(画像提供:PIXTA)

 

◇切れ痔の診療と治療

診察では通常、切れ痔になっている部分を指で触ったり(触診)、肛門の中を見る器具である肛門鏡で詳しく調べたりしますが、痛みが強いときはまず薬で少し症状を和らげてから診察を進めることもあります。

治療としては、まず便通の改善を行います。便秘気味の方は下剤を、下痢気味の方は下痢を改善するお薬を処方して軟膏を使い、痛みを取りつつ治療します。

私が診察した患者さんの中には、長い間我慢して肛門が狭くなってしまい、結果的に手術が必要になった方もいらっしゃいました。切れ痔の症状が続く場合は、なるべく早めに受診したほうが安心でしょう。

また、先ほど説明した肛門ポリープができている場合も、切れ痔が治りにくくなったり、それが大きなものであれば肛門から脱出たりすることがあるので、切除する治療を行います。ただし、肛門ポリープは外からは見えず、痛みを自覚しにくい場合も多いため、ご本人では分からないケースがあります。

◇お尻を拭いた紙に血がついたら切れ痔?

排便後、お尻を拭いたら鮮やかな血がついた、という経験がある方は多いのではないでしょうか。

また、お尻を拭いたとき、紙に血がついているのを見て「もしかして大腸がんでは?」と不安になる方もいらっしゃると思います。
確かに大腸がんは出血が見られますが、切れ痔による出血は鮮やかな赤色で、出血量も少ない傾向があります。一方、大腸がんでは黒っぽい血がつくことがあり、痛みをあまり感じないことが多いという特徴があります。

とはいえ、実際には見た目だけで見分けるのは難しいため、自己判断せずに肛門科や消化器内科にご相談ください。

◇切れ痔を防ぐために日常でできること

切れ痔を防ぐには、便秘や下痢にならないよう心がけることが重要です。便秘の予防として、水分や食物繊維をしっかり取りましょう。下痢を防ぐためには、脂っこい食事や辛いものを食べ過ぎないようにしたり、アルコールを控えめにしたりすることも大切です。食生活を少し見直すだけでも、症状の改善を実感できるはずです。

◇病院やクリニックの選び方

切れ痔の治療で病院やクリニックを選ぶときは、まず「肛門科」を掲げているところを探すのがおすすめです。専門施設が近くにない地域の方は、まずは消化器系のクリニックで相談してみてください。

切れ痔のようなお尻の病気は、恥ずかしさから受診をためらう方も多いと思いますが、症状が軽いうちから医療機関で治療をしていきましょう。

 

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