連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

80代女性の半分がかかる骨粗しょう症―寝たきりの原因にもなる骨折を防ぐために必要なこと

公開日

2025年03月07日

更新日

2025年03月07日

更新履歴
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高齢化が急速に進んできた日本では、骨粗しょう症患者が増えている。この増加は大腿骨(だいたいこつ)近位部(脚の付け根の部分)の骨折患者の増加につながり、多額の医療・介護費用がかかるなど、社会問題となっている。また、骨粗しょう症の検診の受診率は非常に低く、適切な治療を受けていない患者が多いことも課題だろう。

これらの問題について、整形外科領域の治療を行っている竜操整形外科病院(岡山市中区)の髙柴賢一郎(たかしば けんいちろう)院長にお話を伺った。

女性の多くがかかる骨粗しょう症

骨粗しょう症は骨の量が減少し、質も低下して骨折しやすくなる病気です。通常、骨粗しょう症自体に痛みは伴いませんが、転倒時に簡単に骨折してしまう可能性があり、とくに背骨(脊椎圧迫骨折)、手首(橈骨遠位端骨折〈とうこつえんいたんこっせつ〉)、太ももの付け根 (大腿骨頚部骨折〈だいたいこつけいぶこっせつ〉)などが骨折しやすい部位です。これらの部位が骨折すると日常の活動に支障をきたし、生活の質が低下するだけでなく、寝たきりになるリスクも高まります。実際に、骨折は要介護状態の主な原因の1つになっています。

画像:PIXTA

日本における骨粗しょう症の患者数は約1,590万人と推計されており、約3:1で女性が多くなっています。女性は閉経後、卵巣から出るエストロゲンという女性ホルモンが急激に少なくなります。エストロゲンは骨の形成と維持に重要な役割を果たしており、この減少が女性の骨粗しょう症患者の増加につながっています。実際に、60歳代の女性の約5人に1人、80歳代女性では約2人に1人が骨粗しょう症にかかっているというデータもあります。

さらに、骨粗しょう症を放置すると、背骨や大腿骨付近の骨折を起こしやすくなります。たとえば、50歳の女性が一生のうちに脊椎椎体骨折(背骨の圧迫骨折)を起こす確率は約40%されています。また、高齢の方に多い大腿骨近位部の骨折は年間で約20万人発生しており、その治療にかかる1年間の医療・介護費用は3,308億円にのぼると推算されています。骨粗しょう症による骨折は、社会的な負担も大きいといえるでしょう。

気付きにくい骨粗しょう症

高齢の女性を中心に多くの患者さんがいる骨粗しょう症ですが、治療には2つの課題があります。1つは、患者さんご自身が骨粗しょう症であることに気付きにくいこと。もう1つは治療が難しいことです。

まず、骨粗しょう症は痛みを伴わないため、自覚症状がほとんどなく気付きにくい病気です。そのため、定期的に骨粗しょう症検診を受けて骨の状態を確認し、必要があれば治療を始めることが重要です。しかし、2022年の全国の骨粗しょう症検診受診率は約5.5%と非常に低く、検診受診率の向上が社会全体での課題となっています。

骨粗しょう症の診察は時間がかかる

もう1つの課題である治療の難しさについては、以下のような問題が絡んでいます。

  1. 診察に時間がかかる
  2. 治療薬は多いが、効果が分かりにくく改善を実感しにくい
  3. 骨粗しょう症の治療を行う医療機関が足りない

まず診察に時間がかかる理由として、骨粗しょう症という病気の理解や、治療の必要性、骨密度や骨量などの指標について、患者に十分な説明を行う必要があることが挙げられます。また、診断には骨密度の測定、X線による検査、骨代謝(古い骨が新しい骨に変わることで骨の強度を保つ働き)を調べるための血液検査など多くの検査が必要であり、検査そのものに時間がかかることも課題となっています。

当院では、病気や治療の説明、検査を可能な限り看護師が行うことで、医師の診察時間を短縮する取り組みを進めています。

治療薬の効果が分かりにくい

骨粗しょう症治療薬は約30種類あり、医師は患者さんの骨密度や骨折の有無、栄養素の過不足などを考慮して適した薬を選択します。しかし、実は整形外科の医師の間でも、どのような患者さんにどの薬を飲んでいただくべきかという点に共通認識がなく、薬の選択は医師の判断に委ねられているのが現状です。

この背景には、骨粗しょう症治療薬の効果が分かりにくいという問題があります。たとえば高血圧の薬なら血圧の低下が目に見える成果となりますが、骨粗しょう症の薬は骨密度の維持や骨折予防の効果が分かりにくいため、医師が効果を判断しづらく、患者も治療を続けるモチベーションを失いがちです。実際に、骨粗しょう症の患者さんの約半数は薬を飲むのを止めてしまうというデータがあります。

当院ではこの問題に対し、患者さんの状況に基づいて治療薬を選択するシステムを独自に開発しました。脆弱性⾻折(ぜいじゃくせいこっせつ)の有無、年齢、骨密度で患者さんをタイプ分けし、タイプごとに適した薬の一覧表を作り、電子カルテに連携させ、脆弱性⾻折の有無、年齢、骨密度を入力すれば適切な薬が表示されるようにしています。

これによって当院では投薬の方針が明確になり、実際に骨折率の低下が確認されています。

治療を行う医療機関が足りない

骨粗しょう症を診断するためには骨密度の検査が必要ですが、骨密度を測るDXAという機械がある医療機関は限られています。また、診断や治療に時間がかかるため、骨粗しょう症治療を行わない医療機関も存在します。

この問題については、地域全体での医療機関の連携がポイントになります。当院では骨密度測定や診断、薬の選択を担当し、継続的な処方やフォローアップを近隣のクリニックに依頼することで、より多くの患者に対応できる体制を整えています。また、看護師やスタッフが治療の説明を行うことで、医師が診察や治療方針の決定に専念できる仕組みも整備しました。

骨粗しょう症からの骨折を起こさないために

骨粗しょう症になり、大腿骨頚部骨折を起こすと、生活のレベルは下がります。普通に歩けていた人は手すりが必要になり、手すりにつかまって歩いていた人は杖を使い始め、杖を使っていた人は車いすになり、車いすの方は寝たきりになってしまうことが多いのです。

最近では高齢者の大腿骨頚部骨折や腰椎圧迫骨折(ようついあっぱくこっせつ)を、命や生活への影響が大きい脳卒中に例えて「骨卒中」と呼び、予防が啓発されています。多くの方が骨粗しょう症を早期に発見でき、骨折する前に予防できるようにすることが重要です。

そのためには、多くの自治体や健康保険組合で行われている骨粗しょう症検診の受診率の向上が望まれます。検診は40歳以上の女性を対象に、45歳、50歳、55歳と5歳刻みで70歳になるまで受けることができます。検診には補助が出ることも多いため、対象となる方はぜひ積極的に受けていただきたいと思います。それによって高齢になってもアクティブな生活を続けられる方が増えることを期待しています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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