連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

症状が進んだいぼ痔の治し方-切除以外の治療法を選べるのはどんなとき?

公開日

2025年03月13日

更新日

2025年03月13日

更新履歴
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人知れずいぼ痔に悩んでいる人は多いだろう。しかし、その治療となると市販薬を使うくらいで、あまり詳しくはないという人が多いのではないだろうか。近年、いぼ痔の治療は注射による日帰り治療が可能な場合もあるなど、選択肢が広がっている。「治療方針を提案する際には、患者さんの生活に支障が生じないよう配慮しています」と語る前田病院(香川県高松市)の前田雅彦(まえだまさひこ)院長と鈴木優之(すずきゆうし)先生に、いぼ痔の治療法や予防法などについて詳しく聞いた。

肛門の3大痔疾患、「いぼ痔・切れ痔・痔ろう」

痔の種類

痔の主な種類としては「いぼ痔(痔核)、切れ痔(裂痔)、痔ろう(あな痔)」の3つがあります。このうちもっとも多いのがいぼ痔で、大きく内痔核と外痔核に分けられます。
内痔核は、肛門の内側にあって肛門を閉じるクッションの役割をしている“静脈叢(じょうみゃくそう)”の血管がうっ血し、腫れ上がることで発症します。うっ血(静脈に血がたまること)した部分から出血したり、腫れた部分が肛門から出てきたり(脱出)しますが、痛みをほとんど感じないのが特徴です。
一方、肛門の外側にできるのが外痔核です。血豆のようにポコッと急に腫れる急性のものと、内痔核のようにうっ血して腫れる慢性のものがあり、どちらも内痔核と違って強い痛みがあります。また、肛門の内側から外側にかけて腫れることもあり、その場合は内外痔核と呼ばれます。痔核が肛門の外側にもできることから、外痔核と同様に痛みを感じます。

切れ痔は肛門の皮膚が切れた状態で、排便時に痛みを感じたり、温水洗浄便座を使ったときにしみたりすることが多く、お尻を紙で拭いたときに出血に気付きやすいです。病院に行かずとも数日経つと症状が改善していることもあります。主な原因は便秘による硬い便で、通常は便通を整え、軟膏などを塗って治すことができます。

痔ろうは、肛門腺(肛門の奥の直腸にある、粘液を出す腺組織)への細菌の感染によって化膿が進み、肛門の外に膿を出すためのトンネルができてしまう状態を指します。そこに至るまでに肛門の周囲が膿み、腫れて座れないほどの痛みを感じるほか、下着に膿が付くこともあります。この膿んで腫れた状態は肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)と呼ばれ、切開して膿を出すと痛みが治まるものの完治せず、その後お尻の皮膚と直腸をつなぐトンネルが開通して痔ろうとなります。

治療は原則として手術が第一選択となり、肛門内で感染を起こした部分と、お尻側にできるトンネルの出口を切除します。

いぼ痔になりやすいのはどんな人?

この3つの痔のうち、日本人でもっとも多いのはいぼ痔です。したがって、この記事ではいぼ痔について説明したいと思います。

いぼ痔になる原因の1つがトイレにこもり、いきむことです。さらには、単に座っているだけでもうっ血が進むため、ながら新聞やスマホをいじる習慣があり、1回のトイレの時間が必要以上に長い方は特に注意が必要でしょう。こうした排便習慣が長い年月をかけてお尻に負荷をかけるため、男女問わず、若い方よりも45歳から65歳くらいの方が発症しやすいという傾向があります。

いぼ痔の出血は個人差が大きく、大腸がんを疑う必要もある

いぼ痔で病院を受診するきっかけになるのは、肛門からの出血と脱出です。出血はトイレットペーパーに血がつく程度の方から、ぽたぽたと落ちる方まで個人差が大きく、まれではありますが貧血になったり輸血が必要になったりする方もいます。また、出血は大腸がんなどのいぼ痔以外の病気が原因のときがあるので、その際は必ず診察を受けてください。当院では出血が疑われる箇所が判明した場合でも、本当にそこから出血しているのか分からないため、大腸検査を受けていただくよう提案しています。

脱出は、排便時に一時的に起こるものの自然に戻るもの、指で押し戻せば元どおりになるもの、常に肛門からいぼ痔が出ている状態のものまであります。初期の脱出なら市販薬でも治療が可能ですが、治らない場合は医療機関でより効果が高い薬を処方してもらうとよいでしょう。また、一般的には指で戻す状態になると手術を考えます。しかし、それよりも患者さんご自身がお困りかどうかが重要で、治療方針は患者さんごとに違ってきます。

いぼ痔の脱出を指で戻す

生活に支障が生じないいぼ痔の治療法とは

いぼ痔の根本的な治療法は外科的治療です。いぼ痔は複数個所できることが多く、たとえば3か所の痔核を切除するとなると、痛みや出血を伴うため入院が必要になります。

しかし、働き盛りの方は入院が難しいという場合も多く、近年は日帰り治療を希望される方に、痔核に薬を注射して症状を改善させるALTA硬化療法や、痔核の根元を特殊な輪ゴムでしばり壊死させて脱落させるゴム輪結紮(けっさつ)療法などを提案する医療機関が増えています。

また、患部を切除せずに縫って、吊り上げて元の位置に戻すACL(肛門クッション吊り上げ術)という治療もあります。これらの手法を組み合わせるのが最近の治療の傾向で、たとえば内外痔核では外痔核だけ切除して、内痔核はALTA硬化療法やゴム輪結紮療法で処置することもあります。

ただし、切除以外の治療法は切除と比べ再発率が高く、またALTA硬化療法とゴム輪結紮療法は外痔核の治療には適用できません。治療にあたる医師は、治療方針を提案する際にはこうした特徴を考慮したうえで患者さんの生活に支障が生じないよう配慮しています。

相性のよい医師を探そう

いぼ痔は、根本的な手術を行わない場合は再発の可能性があります。また生活習慣が大きく関わることから、手術や治療を終えた後も、食物繊維不足等で便秘ぎみであれば必要に応じて便秘薬を処方するなど、その後のケアがとても重要になります。継続して治療を受けるためにも、患者さんと相性のよい医師に診てもらうことがポイントになるでしょう。また、女性の方は、恥ずかしさが少なく相談しやすい女性の医師が診察できる病院を探して受診するのもよいかと思います。

ただ、地域によっては肛門科を標榜している医療機関が少なく、お尻の病気であることから知人による紹介も少なくなると思います。そこが“痔”という病気の難しいところですが、現在は日本大腸肛門病学会や日本臨床肛門病学会のホームページから、希望する治療を受けられる医療機関を検索することができます。

痔を診ることができる医療機関は、患者さん一人ひとりに適した治療を提案できます。いぼ痔などの肛門のトラブルでお困りの方は、一度ぜひ受診してみてください。

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