JR札幌病院 病院長 四十坊典晴先生
健康診断の胸部X線検査で「異常な影」を指摘された。あるいは最近、目のかすみや不整脈(脈が乱れる)が気になる。
そんな症状の裏に、「サルコイドーシス」という病気が隠れていることがある。
これは、全身のさまざまな臓器に「肉芽腫(にくげしゅ)」と呼ばれる“肉の塊”ができてくる原因不明の病気だ。肺や目、皮膚、心臓など、全身のあらゆる場所に現れる可能性があり、日本では難病(指定難病84)になっている。
しかし、かかったとしても誰もが重症化するわけではない。この病気の治療に詳しいJR札幌病院 病院長の四十坊 典晴(しじゅうぼう のりはる)先生は、「サルコイドーシスは、治療を必要としない方も多く、自然に治るケースも多い病気です」と語る。
その気付きにくい症状から治療法、病気と長く付き合うための注意点までを、四十坊先生に詳しく解説していただいた。
サルコイドーシスという病名を聞き慣れない方も多いでしょう。サルコとはギリシャ語で「肉」、オイドは「のようなもの」という意味です。その名のとおり、「肉のようなもの(結節)」が全身にできるのがこの病気です。もともとは150年以上前、1869年にイギリスで皮膚にボコボコとしたものができる病気として発見されました。
この“肉のようなもの”の正体は、「肉芽腫」と呼ばれる炎症細胞の集まりです。顕微鏡で見ると、類上皮細胞という細胞やリンパ球が集まっているのが特徴です。
では、なぜこの肉芽腫ができるのでしょうか。残念ながらはっきりとした原因はまだ分かっていません。ニキビの原因となる菌(アクネ菌)や結核菌などが引き金になっているのではないかという説もありますが、単純な感染症とは違います。何らかの原因物質に対して、その方の持つ遺伝的な素因が合わさり、免疫が過剰に反応して肉芽腫を作ってしまうのではないか、と考えられています。
日本では10万人あたり1.7人ほどが発症すると報告されていますが、これは実態よりも少ない可能性があります。なぜなら、症状が軽く治療の必要がない患者さんは、難病の申請ができない(あるいは、しない)ことが多いからです。昔は全員申請できていましたが、今は治療を必要とする方が助成対象となるため、経過観察の方は統計に含まれにくいのです。
また、この病気は以前、男性は20歳代、女性は20歳代と50歳代に発症のピークがありました。しかし最近は、男性は20歳代、50歳代の2つのピークになり、女性は2つのピークでも50歳代が中心になるなど、患者さんの高齢化が進んでいます。
この病気の大きな特徴は、患者さんの約3割がまったくの無症状であることです。そうした方々は、健康診断の胸部X線(レントゲン)検査をきっかけに病気が見つかります。X線写真には、肺の入り口にあるリンパ節が両側ともポコッと腫れている所見(両側肺門リンパ節腫脹:BHL)が写っており、これが診断の手がかりとなります。ちなみに、臓器別でみると肺が最も多く、90%程度の方に何らかの病変が見られます。
また、日本人に多いのが目の症状で、約50%の方に起こります。目の「ぶどう膜」という部分に炎症が起こる(ぶどう膜炎)ため、「霧がかかったようにかすむ(霧視)」とか「黒い点が蚊のように飛んで見える(飛蚊症<ひぶんしょう>)」といった症状で眼科を受診し、診断に至ります。実は、現在眼科でぶどう膜炎と診断される患者さんの原因として、サルコイドーシスが一番多くなっています。
皮膚に症状が出る方は20%ほどで、顔や手足などに赤い斑点やしこりができますが、多くの場合、痛くもかゆくもないのが特徴です。不思議なことに、昔のけがの痕や、眼鏡が当たる部分にできることもあります。
そして、特に注意が必要なのが心臓の症状で、5%ほどの方に見られます。心臓のサルコイドーシスは不整脈や心不全(心臓のはたらききが弱る)の原因となることがあります。
サルコイドーシスが疑われる場合、診断のために胸部X線やCT、血液検査(ACEやsIL-2Rといった値を測ります)などを行います。また、ガリウムシンチグラフィという検査では、放射性のガリウムが集まる場所を調べることで、全身のどこに炎症があるかを見つけ出すことができます。
最終的な確定診断は、皮膚や気管支鏡検査で組織の一部を採取し(生検)、顕微鏡で特徴的な肉芽腫を確認することです。
診断の結果、サルコイドーシスであることが分かったとしても、全員がすぐに治療を必要とするわけではありません。この病気は指定難病ですが、自然によくなる「自然寛解」が多いのです。特に、健康診断で見つかった肺のリンパ節の腫れ、つまりBHLだけという若い方の場合、半数以上は何もしなくても1年半ほどで腫れが消えてしまうことがあります。ですから、まずは「経過観察」が基本となります。
では、どのような場合に治療が必要になるのでしょうか。
それは、症状が強かったり、生命に関わる重要な臓器に病変が及んだりした場合です。具体的には、心臓、あるいは麻痺などを起こす中枢神経の病変、失明の危険がある重症の眼病変、そして肺の病変が進行して呼吸機能が悪化した場合などです。
治療の基本は、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)という薬で炎症を抑えることです。ステロイドの効きが悪い場合や、糖尿病などの副作用を避けるためにステロイドの量を減らしたい場合には、メトトレキサートなどの免疫抑制薬を併用することもあります。
自然寛解が多い一方でこの病気が厄介なのは、症状が一度に全部出るわけではない、という点です。
たとえば、20歳代で肺のBHLが見つかり、自然に消えたとします。しかし、それで終わりとは限りません。5年後、10年後に、今度は心臓や目に症状が出てくることがあるのです。そのとき、元の患部である胸のX線写真はきれいなままで、病気が別の場所に移っている(ように見える)ことも少なくありません。
ですから、一度「よくなった(寛解した)」と医師から言われても、定期的な経過観察は非常に重要です。数年経ってからでも、目のかすみ、動悸、息切れ、めまいなど、気になる症状が出てきたら、ためらわずに受診してください。
日常生活では、仕事のストレスなどで病状が悪化することが報告されています。したがって、無理のない生活を心がけることが重要です。
妊娠・出産については、心臓などに重症の病変がなければ基本的には問題ありません。ただ、妊娠中は一時的に病気がよくなり、出産後に悪化することがあります。また、メトトレキサートのように妊娠中は使えない薬もありますので、妊娠を希望される場合は必ず主治医に相談してください。
サルコイドーシスは、肺、目、心臓、皮膚、神経、時には骨や筋肉まで、全身のさまざまな診療科に関わる病気です。しかし治療では、呼吸器内科の医師が中心となって全身を管理することが多くなっています。
なぜなら、目や心臓、皮膚、神経といった分野には専門の先生がいらっしゃるものの、たとえば「骨サルコイドーシス」や「筋肉サルコイドーシス」となると整形外科の先生も専門外であることが多いからです。
実際、私がいるJR札幌病院でも骨や筋肉のサルコイドーシスの患者さんをそれぞれ10人以上、呼吸器内科で治療しています。
私自身も患者さんの治療にあたっていますが、この病気は非常にゆっくりとよくなったり悪くなったりを繰り返し、一般の方に説明するのが最も難しい病気の1つだと感じています。10年後、20年後に症状が進行する方もいらっしゃいますので、やはり専門の先生に継続して診てもらうことが大切だといえるでしょう。
また、「サルコイドーシス友の会」のような患者会や、日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会のウェブサイトで専門の医療機関を探してみることもできます。
サルコイドーシスになったとしても1人で抱え込まず、頼れる医師を探し、前向きに治療に取り組んでいただけたらと考えています。
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