連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

息切れや疲れやすさは「年のせい」ではないかも? 見逃されやすい心臓弁膜症とは

公開日

2026年01月26日

更新日

2026年01月26日

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2026年01月26日

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かわぐち心臓呼吸器病院 心臓血管外科統括部長 金森太郎先生(かわぐち心臓呼吸器病院ご提供)

高齢化が進む現在の日本で、「心臓弁膜症」の患者が増えている。

加齢とともに誰にでも起こり得るこの病気は、初期段階では自覚症状に乏しく、「年のせい」という思い込みによって発見が遅れることも少なくない。
しかし、放置すれば心不全に至り、命に関わる事態を招くこともある。

一方で、医療技術の進歩は目覚ましく、高齢であっても体への負担が少ない治療法が選択できるようになってきた。心臓弁膜症という病気について、かわぐち心臓呼吸器病院(埼玉県川口市) 心臓血管外科統括部長 金森 太郎(かなもり たろう)先生にお話を伺った。

心臓弁膜症は「弁の不具合」から始まる

心臓弁膜症という病気のことは、耳にしたことがあっても、具体的にどんな病気なのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。

私たちの心臓には4つの部屋があり、それぞれの出口に弁がついています。この弁は、血液が逆流しないようにするためのいわば逆流防止弁で、血液を一方向に流すためのドアのような役割を担っています。

心臓にある4つの弁(画像提供:PIXTA)
心臓にある4つの弁(画像提供:PIXTA)


具体的には、ドアが古くなって硬くなり、開きにくくなる「心臓弁膜狭窄症(しんぞうべんまくきょうさくしょう)」と、ドアが閉じずに隙間ができ、血液が逆戻りしてしまう「心臓弁膜閉鎖不全症」の2つのタイプがあります。どちらのタイプであっても、スムーズな血流が妨げられるため、心臓には大きな負担がかかることになります。

かつて、この病気の原因といえばリウマチ熱によるものが主流でしたが、衛生環境の改善や抗生物質の普及により、現在では激減しました。代わって増えているのが、加齢による変性です。長年使い続けたドアの蝶番が錆びつくように、弁にカルシウムが沈着して石灰化し、硬くなったり壊れたりしてしまうのです。

つまり、長生きすればするほど誰にでも発症する可能性がある、「心臓の老化現象」といえるでしょう。

そのほか、もともとの弁の形に問題がある先天的な異常や、細菌感染による感染性心内膜炎が原因になることもあります。

「年のせい」という思い込みはNG 見逃してはいけないSOSサイン

この病気の恐ろしいところは、進行すると心臓のポンプ機能が破綻する「心不全」へと至る点にあります。

たとえば、出口が狭くなっているのに、入り口からはどんどん血液が入ってくる状況を想像してみてください。当然、手前の部屋はパンクして溢れてしまいます。
心臓は最初のうちは筋肉を厚くして頑張ろうとしますが、無理が続けばいつか限界を迎えます。それが心不全の状態です。

では、どのようなサインに気をつければよいのでしょうか。代表的な症状は、動悸や息切れ、足のむくみなどです。
ここで注意していただきたいのが、「年齢の壁」による思い込みです。実は多くの方は、坂道で息が切れたり、疲れやすさを感じたりしても、「もう歳だから体力が落ちたんだ」と思ってしまいがちです。

以前は登れていた階段を、途中で休まないと登れなくなった。買い物に行くと、昔に比べて極端に疲れるようになった。もしそんな変化を感じたら、単なる老化だと決めつけず、心臓からのSOSかもしれないと疑ってみてください。症状が出た時点で、病気はある程度進行していることが多いのです。

また、健康診断で医師から「心雑音がある」と指摘された場合も、すでに病気が進行している可能性があります。聴診器1つで見つけられるこのサインを指摘されたら、放置せずに必ず循環器内科で心エコー検査を受けていただきたいと思います。

手術やカテーテル治療でも数日で退院できることも

診断がついた後の治療についても、近年は選択肢が大きく広がっています。
軽症であれば、いったんお薬で心臓の負担を和らげながら様子を見ます。しかし、弁そのものの故障は薬では治りません。症状が進んだ場合には、故障した弁を修理したり交換したりする物理的な治療が必要になります。

物理的な治療としては、かつては胸を大きく切り開く手術が一般的でした。しかし現在は技術が進歩し、患者さんの体への負担を減らす方法が増えてきています。
たとえば、手術の際に体に小さな孔(あな)を開けて行う「MICS(ミックス)」と呼ばれる低侵襲(ていしんしゅう・体への負担が少ない)手術や、そもそも胸を切らずに太ももの付け根の血管からカテーテルを入れ、心臓まで通してその場で人工弁を留置する「TAVI(タビ)」といった治療法です。これによって、昔のような「手術=長期入院」というイメージは変わりつつあり、数日で退院できるケースも増えています。

「ハートチーム」が機能している病院を選ぶ

どんな治療を受けるかを考える際、私が患者さんに大切にしてほしいことがあります。それは「選択肢がそろっている病院」に相談することです。もしカテーテル治療しかできない病院に行けば、医師はどうしてもカテーテル治療をすすめたくなりますし、切る手術しかできない病院なら、やはり手術をすすめることになるでしょう。

しかし、年齢や体力、心臓の形、他の病気の状況から生活背景まで、患者さんは一人ひとり異なります。だからこそ、内科医、外科医、麻酔科医などが集まった「ハートチーム」が機能している病院を選んでいただきたいのです。さまざまな選択肢を持ったうえで、フラットな視点で「あなたにとってベストな治療はこれです」と提案してもらえる環境こそが、納得のいく治療への近道だと私は信じています。

症状がなくても進むことがある──定期受診と検査の意味

心臓弁膜症は、一度診断されたら長く付き合っていく病気です。だからこそ、定期的な受診と検査を続けることが大事になります。症状がない時期でも進行することがあるので、定期的な検査で変化を早めに捉えられるほど、次の一手を考えやすくなるでしょう。

また、毎日の体重の記録をつけていただくのもよい手です。短い期間で体重が増えるときは、体に水分がたまって心不全が悪化しているサインの可能性があります。
薬は自己判断でやめたり減らしたりせず、必ず医師に相談してください。

繰り返しとなりますが、息切れやむくみを年齢の問題として気にしない方は本当にたくさんいらっしゃいます。昔できていたことができなくなってきた、健診で心雑音を指摘された、そんなきっかけがあったときは、一度立ち止まって循環器の受診につなげてください。
 

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