連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

肛門の病気だと思ったらクローン病? 早期治療が重要なクローン病の症状と診断とは

公開日

2025年02月26日

更新日

2025年02月26日

更新履歴
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肛門の病気の治療を受けているにもかかわらず症状が改善しない場合、特に痔ろうや肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)(肛門や直腸から細菌が入り肛門周囲が化膿したもの)を繰り返す場合には、クローン病に伴う肛門病変を疑う必要がある。
さらに、クローン病が原因で肛門に潰瘍(かいよう)裂肛(れっこう)(切れ痔)が起こると、肛門の痛みや出血が続いたり、肛門周囲に大きい皮垂(ひすい)(肛門部外側の出っ張り)ができる場合がある。早い段階での診断と適切な治療を行わないと、徐々に肛門機能の低下や肛門の変形につながる可能性もあるという。

炎症性腸疾患の診察と肛門手術の実績が豊富な錦織病院(奈良県橿原市)院長の錦織 直人(にしごり なおと)先生に、クローン病に伴う肛門病変の特徴と通常の肛門の病気との見分け方、その治療法などについて伺った。

指定難病になっているクローン病とは?

クローン病は炎症性腸疾患の1つで、口から肛門までの消化管に慢性的な炎症や潰瘍が起こる病気であり、国の定める指定難病です。遺伝的要因や動物性たんぱく質の過剰摂取、喫煙、過剰な清潔習慣などの環境因子や腸内細菌などが複雑に関与して発症するとされていますが、現在のところ科学的に明確な原因は解明されていません。

患者数は全国で10万人と推計され、多くは10歳代から20歳代の若い世代で発症し、性別では男性が女性の約2倍と報告されています。

クローン病が疑われる症状は?

クローン病は口腔(こうくう)から食道、胃、小腸、大腸、肛門まで全ての消化管に炎症を起こしますが、炎症を起こす場所によって現れる症状が異なります。
たとえば胃や腸などに炎症が起これば、腹痛、下痢、血便、微熱、体重減少などの症状が現れます。クローン病の炎症が小腸に生じると、栄養の吸収に影響を及ぼします。食べ盛りの若者がしっかり食べているのに体重が減少する場合は、クローン病を念頭に置いた診療が大切になってきます。

また、肛門に炎症や潰瘍が起これば、肛門の周りに膿がたまる肛門周囲膿瘍膿、それに引き続いて生じる痔ろうからの膿の流出が起こる場合があります。さらに、肛門部の潰瘍により、排便時の痛みや出血といった裂肛の症状が出る場合もあります。大きな皮垂(ひすい)という肛門部外側の出っ張りができることもあります。

クローン病

クローン病に伴う肛門疾患の特徴

痔ろうや裂肛や皮垂がクローン病によるものか、単なる肛門疾患なのかは、経験を積んだ医師でなければ見分けるのは困難です。
一般的な痔ろうは30歳代から40歳代の男性に多く、患部が肛門の背側にできやすいといった傾向があります。患者さんが10歳~20歳代と比較的若年者で、複数部位に痔ろうができている場合や何度も痔ろうを繰り返す場合、また手術後に(きず)が治らない場合はクローン病の合併が疑われます。
裂肛も多発したり、周囲の皮膚の浮腫(むくみ)がある場合、裂肛が肛門周囲の皮膚にまで連続して広がる場合もクローン病の合併が疑われます。

クローン病が原因である肛門疾患の治療法

近年、治療が進歩しているものの、発症の原因は分かっておらず、いまだ完治させる治療法は見つかっていません。そのため、適切な治療を継続することで炎症を抑え、炎症のない寛解状態(かんかいじょうたい)を維持することが重要です。
以下、クローン病の治療について、消化管における炎症(消化管病変)と肛門における炎症(肛門病変)に分けて解説します。

消化管病変の治療

脂肪分や刺激の少ないバランスのよい食事が基本ですが、症状が強い場合は腸への刺激が少ない栄養剤を服用したり、点滴による栄養管理を行ったりする場合もあります。また、薬物による治療も進んできており、炎症や過剰な免疫作用を抑えるための5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸)、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤などによる薬物療法が行われます。クローン病は再発を繰り返す「再燃(さいねん)」が多いため、症状が改善しても再燃予防のために継続した薬物療法が必要となります。特に近年、生物学的製剤等の多くの新規治療薬が使用可能となり、クローン病治療も大きく進歩してきています。

経過中に小腸や大腸の内腔が狭くなり、食事や便の通過に影響がでた場合は、内視鏡を用いて狭くなった部位を広げる治療や腸の切除を伴う手術が必要になります。また腸の穿孔(せんこう)(穴が開くこと)、お腹の中の膿瘍形成(膿がたまること)といった場合にも手術が必要になります。

肛門病変の治療

炎症や症状の強さである「重症度」に合わせた治療が必要です。

裂肛や肛門周囲の浮腫や皮垂があるだけで軽症の場合は、5-ASA製剤、免疫調節薬などの薬物療法を行います。
肛門周囲膿瘍や痔ろうの場合は外科手術が必要になります。肛門周囲膿瘍に対しては切開して膿を出す切開排膿術を、痔ろうに対しては肛門のダメージを考慮した手術が必要となります。適切な時期に治療を行わないと、肛門のダメージが蓄積し、排便機能の低下や肛門の変形が生じることもあります。

クローン病に伴う肛門病変に対する手術では、術後に傷が治りにくかったり、再燃したり、新規の病変が出現したりすることも多く経験されます。肛門部の炎症が軽度の場合は5-ASA製剤、免疫調節薬の投与を、重度の場合は生物学的製剤やJAK阻害薬といった新規治療薬の投与を検討します。
大切なことは、患者さんの排便や肛門感覚を中心とした肛門機能の維持を、長期にわたり保つことです。

体重減少・腹痛・微熱を伴う肛門の症状は早めの受診を

肛門疾患がある若い方で治療を続けているにもかかわらず改善しない、肛門の症状だけでなく体重の減少や腹痛や微熱を伴っているという方は、クローン病を念頭に置いた診療が大切です。クローン病に伴う肛門疾患の診断は難しい場合も多く、専門施設での早期の診断と治療開始が重要です。

繰り返しになりますが、クローン病に伴う肛門病変では肛門に対する治療だけでなく、クローン病自体の病勢を抑えるための薬物療法などが必要です。10歳代や20歳代で「肛門疾患がなかなか治らない」「体重が減少してきた」「腹痛や微熱が続いている」と感じた場合には、速やかに専門医療機関の受診をおすすめします。

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