連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

運動中の「違和感」は受診すべき? 痛みが出る前に見抜く“オーバーユース”のサイン

公開日

2026年02月16日

更新日

2026年02月16日

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2026年02月16日

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羊ヶ丘病院 理事長・病院長 倉秀治先生

スポーツに打ち込む全ての人にとって、けがは避けて通れない問題だろう。
中でも注意が必要なのが、運動中に感じるわずかな痛みや異変を「これくらい大丈夫」と見過ごした結果、選手生命に関わるほどの重大な故障につながるケースだ。

本格的な痛みとして現れる前の「違和感」こそが、体が発する重要なサインだという。では、そのサインをどのように見極め、どのような医療機関を選べばよいのか。

プロアスリートから学生まで、数多くの患者の治療に携わってきた羊ヶ丘病院(札幌市厚別区)の理事長・病院長である倉 秀治(くら ひでじ)先生に、経験に基づく実際の考え方を伺った。

スポーツで起こる障害は「外傷」と「オーバーユース」の2種類

スポーツで起こる整形外科領域の病気は、大きく2つに分けることができます。1つは、骨折や靱帯損傷(じんたいそんしょう)といった一度の大きな力で起きる「外傷」(スポーツ外傷)です。もう1つが、繰り返しの動作によって発症する「オーバーユース」(スポーツ障害)、いわゆる「使いすぎ」です。

オーバーユースは、腱や、腱が骨にくっつく「腱付着部」といった部分に起こりやすいのが特徴です。たとえば、マラソンランナーに多いすねの内側の痛みである「シンスプリント」や「アキレス腱炎(けんえん)」、膝の外側におきる腸脛靱帯炎、サッカー選手を悩ませる足の小指側の「ジョーンズ骨折」などがその代表でしょう。

シンスプリント、アキレス腱炎、ジョーンズ骨折の部位
シンスプリント、アキレス腱炎、ジョーンズ骨折の部位

 

競技の特殊な動きが原因となる障害も少なくありません。野球の投球動作による「野球肩」や「野球肘」、バレエダンサーがつま先立ちを続けることで足首の後ろを痛める「三角骨障害」なども、特定の動きによる使いすぎが原因といえるでしょう。

また、特に成長期のお子さんの場合は注意が必要です。この時期のお子さんには、骨が伸びるための軟骨層である「骨端線」が存在します。この骨端線にストレスがかかることで、膝のお皿の下が痛くなる「オスグッド・シュラッター病」や、かかとが痛む「シーバー病」といった、いわゆる「骨端症」が起きてしまいます。

骨端線とは(画像提供:PIXTA)
骨端線とは(画像提供:PIXTA)

 

体からのサインは「痛み」ではなく「違和感」

これらのオーバーユースによる障害で、注意していただきたいのは「痛み」が出る前に現れる「違和感」です。

本格的な痛みが出たことを機に来院された患者さんにお話を伺うと、「そういえば1か月くらい前から、何か変な感じがありました」「反対側の足と感覚が違う気がしました」などと多くの方がおっしゃいます。ただ、違和感があるだけの段階ではまだ痛くはないので、そのまま練習を続けてしまうわけです。

そして本格的なオーバーユースとなり、歩くのもつらいほどの痛みが出てから病院に来られます。こうなると、治るまでに2ヵ月ほどかかってしまうこともあります。違和感がある段階で受診していただけていたら、もっと早く競技に復帰できたかもしれません。

この初期段階の診察で力を発揮するのが「スポーツ整形外科」です。というのも、オーバーユースの1つである疲労骨折は、初期はX線写真には写らないことが多く、一般の整形外科では「異常なし」と診断されがちです。
一方、スポーツ障害を専門とする医師であれば、初期の段階から疲労骨折を疑い、MRIなどの適切な検査を行うことで早期発見につなげることができます。

医療機関選びと、一人ひとりに合わせた治療のゴール

では、どうやって信頼できる医療機関を選べばよいのでしょうか。今はインターネットで医師のプロフィールを確認できますから、「日本スポーツ協会公認スポーツドクター」といった資格を持つ医師が在籍しているかどうかは1つの目安になるでしょう。

ただし、肩書だけで判断せず、自分の目的(競技レベルや復帰までの希望時期)を共有できるかを確かめてください。
治療の方向性は、その目的によって変わります。たとえば、休養をどの程度取れるのか、学業や大会の日程をどう考えるのかで、提示できる選択肢は変わります。医師側もその事情を踏まえて、一緒に方針を組み立てていきます。

また、医師としては落ち込んだ気持ちへの配慮も大切です。患部に負担をかけない範囲で取り組める練習や課題を見つけ、競技から離れすぎないよう支えることも私たちの役割です。指導者の方が休ませてくれないケースでは、診断書を活用して選手を守ることもあります。
治療のことなら何でも、医師に相談をしていただければと思います。

スポーツ整形外科が提供する「競技復帰」のためのリハビリテーション

スポーツ整形外科と一般の整形外科の違いは初期診察だけではありません。個人的に最も大きく違うと考えているのは、リハビリテーション(以下、リハビリ)のゴール設定です。一般の整形外科のゴールが「日常生活に支障がなくなること」であるのに対し、スポーツ整形外科のゴールは「スポーツ競技に復帰すること」です。

目指すゴールが違えば、リハビリの内容も期間も変わります。競技の特性や選手の置かれた状況に合わせて、通院頻度やメニューを調整し、復帰後に力を発揮できる状態まで伴走します。

なお、スポーツ整形外科のリハビリは、単に患部の治療をするだけではありません。その方の体の使い方を分析し、「体幹の弱さが膝の靱帯のけがにつながっているのだ」というように、けがの根本的な原因を見つけ出す場でもあります。原因を改善し、再発しにくい体づくりを指導する。これもスポーツ整形外科の重要な役割です。

将来に向けた視点

ここまで、スポーツ障害の治療について説明をしてきました。しかし、そもそも望ましいのは、治療が必要な状態にならないことではないでしょうか。

予防への取り組みとして、たとえば当院では、高校や大学の運動部を対象に、年に一度「メディカルチェック」を行っています。選手全員の柔軟性や筋力を測定し、「けがをしないために、この部分を鍛えるといいよ」といったアドバイスを送るのです。

また、当院ではお子さんが将来、スポーツでより大きな成果を出すための取り組みもしています。その例として親御さんに対し、幼い頃から1つのスポーツやポジションに絞り込み過ぎない視点をお伝えします。特定の部位に負荷が偏ると体のバランスが崩れやすいからです。
このように、スポーツ整形外科には「運動をする方の将来のために」という視点があることも、特長といえるでしょう。

「続けるための医療」を味方に

スポーツをされている方なら、けがをした際に、競技を続けるか一度立ち止まるか、迷う場面もあるでしょう。そんなときこそ、スポーツ整形外科の診療室は作戦会議の場所になります。また、治療や再発予防だけでなく、復帰までの道筋を作り、練習の組み立てについてもアドバイスを送ることができます。

スポーツをしていて迷ったとき、困ったときは、独りで抱え込まずにスポーツ整形外科へ相談してみてください。早めの一歩が将来の選択肢を広げ、あなたの競技人生を支える力になるはずです。
 

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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