連載地域医療の現在と未来

都市部で増える「救急の受け入れ難」 高齢化と若年層流入が同時に進む名古屋・金山エリアの医療体制とは

公開日

2026年05月18日

更新日

2026年05月18日

更新履歴
閉じる

2026年05月18日

掲載しました。
Dab471da4b

藤田医科大学ばんたね病院 院長 堀口明彦先生

名古屋市の副都心として賑わいを見せる金山エリアは、一方で独自の医療課題を抱えている。全国で人口減少が進むなか、ここでは若年層の流入によって人口が増え、医療需要が拡大している。さらに、高齢者人口の増加に伴い救急搬送も増えており、加えて都市部特有の小児救急ニーズも高いのだ。

こうした背景から、このエリアでは全世代に対応する急性期医療体制の整備が求められている。では、実際にどのような体制でこうしたニーズに応えているのか。金山駅近くに所在する藤田医科大学ばんたね病院(名古屋市中川区)の院長、堀口 明彦(ほりぐち あきひこ)先生に伺った。

名古屋の副都心・金山エリアが直面する、医療の「2大課題」とは?

ここ、名古屋市の金山周辺は、名古屋駅に次ぐターミナル駅である金山駅を中心に非常に活気のあるエリアとなっています。
一方で、医療の視点で見ると、切実な問題を抱えていることが分かります。

まず1つ目は、急速な高齢化と人口増加が同時に進んでいることによる、2次救急(手術や入院が必要な重症患者への救急医療)の増加です。現在、日本全体で人口減少が問題になっていますが、ここでは逆に人が増え、かつ同時に高齢化も進行しているため、若い世代からお年寄りまでに対応する体制が求められているのです。

そして2つ目は、複数の病気がある方の増加です。特にお年を召した患者さんは、心臓の病気もあれば足腰も悪いといった、複数の病気があることが珍しくありません。この状況に適切に対応する必要があります。

この2つの課題について、順番に説明していきましょう。

「断らない救急」がカギ

1つ目の課題である「さまざまな世代の救急ニーズの増加」に対しては、それを受け止められる病院の整備が重要となります。金山駅周辺エリアでは当院が中心的に救急患者を受け入れているため、お子さんからお年寄りまで全世代の2次救急を受け入れる体制を整えています。

金山駅周辺の救急医療の要という役割を全うするため、当院が最も大切にしているシンプルな原則があります。それは、「救急患者さんを断らない」ということです。
患者さんを断らずに受け入れるということは、患者さんやご家族、地域のクリニックや介護老人保健施設などとの信頼関係の基礎となるものです。しかし、これは精神論だけで実現できるほど甘いものではありません。
24時間365日、常に目の前の命を救い続けるためには、働く側の情熱を支える強固な仕組みが不可欠となります。

なぜ「断らない救急」が可能なのか

当院がどのような工夫で断らない救急を実践しているのか、その実例を紹介しましょう。

まず、当院ではナースプラクティショナー(NP)という、看護師の資格を持ちながら医師の指示のもとで一定の判断や処置を行える人材を救急現場に配置しています。彼らが医師とチームを組んで動くことによって、医師が少なくなりがちな夜間でも受け入れ体制を緩めることなく、質の高い初期対応が継続できるようになっています。

さらに、救急で運ばれた方をいかにスムーズに回復へとつなげるかという動線の効率化も重要です。
当院では、近年10床に増設したICU(集中治療室)からHCU(高度治療室)、さらに一般病床へと段階的にベッドを移動する際、無駄が出ないようコントロールするシステムを作りました。重症な方はまずICUで集中的に治療し、容体が落ち着けば順次一般の病床へ素早く移っていただくという流れを実現することで、より多くの新規の患者さんを受け入れられるようになっています。

また、1人の患者さんに効率よく医療を行うための独自の仕組みを導入しました。
それは、単に予定を詰め込むのではなく、術前から術後までを1つの「止まらないサイクル」として緻密に管理する仕組みです。

具体的には、まず手術前に歯科医師が介入して口腔(こうくう)ケアを徹底することで、術後の肺炎といった合併症を未然に防ぎます。さらに、全国的に不足している麻酔科医の時間を1分も無駄にしないよう、パズルを解くように緻密なスケジュール管理を行い、常に手術室がフル稼働できるようにシステムを整えました。また手術後は、定評ある藤田医科大学のリハビリテーションチームが手術直後から介入し、患者さんの早期回復を強力に後押しします。

こうした「無駄を省き、回復を早める」合理的なサイクルがあるからこそ、増え続けるさまざまな世代の患者さんを断らずに受け入れ、地域医療の要として胸を張って立ち続けることができるのだと考えています。

全科連携で患者さんを診ていく

次に、この地域の医療の2つ目の課題である「複数の病気がある方への医療」についてです。

一般的に病院では、「循環器」「消化器」「脳神経」など、臓器別に診療科があります。しかし、その体制ではどうしても医療が縦割りとなり、さまざまな病気がある方へ効率的に医療を提供しにくくなる面があります。

これに対しては、1人の患者さんを1つの診療科だけで診るのではなく、病院全体が1つのチームとして機能し、最初から最後まで責任を持って診る総合的な体制の構築が必要となります。当院ではこの課題に対し、従前からさまざまなアプローチを行ってきました。

まず、私たちの病院では診療科同士の横のつながりを何よりも重視しています。その結果、1人の患者さんにとって何が最善かを全科で話し合い、総合的に診る文化が根付いています。

実例として、アレルギー疾患への多角的な対応を挙げましょう。
アレルギーは目や鼻、皮膚、そして消化器など、症状が全身のいたるところに現れるのが特徴です。そこで当院では、消化器内科、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)、眼科、皮膚科、さらには小児科という5つの診療科が手を取り合い、お子さんから大人まで一貫して診られる体制を整えました。それぞれの科にはアレルギーについて深く研鑽を積んだ医師がそろっており、現在では愛知県全体のアレルギーセンターの事務局としての役割も担っています。

ただ1つの症状を追うのではなく、診療科の枠を越えて患者さんの全身を総合的に見守る。その姿勢が、複数の病気がある方への医療にとって非常に大切なことだと信じています。

1つの病院でさまざまな治療を行い、治療が終わったら地域全体で診る仕組み

また、診療科の連携による医療をより効率化するには、そもそも病院内でさまざまな治療に対応できる環境を整えることが重要です。たとえば高齢者の増加に伴いがん治療が増加しています。当院ではがん治療では手術や薬物療法だけでなく、放射線治療まで完結できるよう、リニアック装置を10月から稼働するようにしました。仮にこれが「放射線治療だけは他の病院で受けていただく」という体制であった場合、どうしても患者さんの移動の負担を大きくしてしまいます。
その意味で、地域の大きな病院がさまざまな治療を行える環境にあることは、複数の病気がある方への有効なアプローチといえるでしょう。

しかし一方で、医療は1つの病院内で完結できるものではありません。発症直後の治療を担当する病院と、その後の医療を担当するクリニックや施設、これらが地域全体で1つのチームとなり、複数の病気がある患者さんを手を取り合って支えることが必要です。

我々病院は、地域の先生方と顔の見える関係を築き、地域の先生から「この症状なら、あの病院のあの先生へ」と迷わずつないでいただき、お戻しする最短のルートを作る必要があります。これは患者さんが適切な治療にたどり着くまでの時間を短縮する、究極の効率化といえるでしょう。
当院でも、各分野の医師自らが地域のクリニックを直接訪問し対話を重ねています。このような地道な方法こそ、このエリアの高齢化に対する効果的な処方箋であると考えています。

患者さんから学び、次世代の命を救う糧にする

私がいつも大切にしているのは、「患者さんから学ぶ」という姿勢です。医療というものは、教科書だけで完結するものではなく、目の前の患者さん一人ひとりが全て教えてくれるものだと思っています。

繰り返しとなりますがこの金山という地域のように、高齢化が進みながらも多様な世代が暮らしている環境では、救急医療と総合的な診療体制の両方が求められます。どちらか一方だけでは、地域の患者さんにとって本当に必要な医療にはならないでしょう。

そのなかで我々のような救急医療を担当する病院は、急な病気やけがでお困りの患者さんを確実に受け止め、次の医療へとつなげていく役割を果たし続けることが大切です。そうした一つひとつの積み重ねが、地域医療の未来を支えていくと信じています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

地域医療の現在と未来の連載一覧