最近、大腸内の細菌叢(さいきんそう)(=microbiome:マイクロバイオーム)がさまざまな病気の発生と関係することが多く発表されている。その中で目についた報道をご紹介したい。
最初に、2020年2月19日にHealth Dayに報告された「Healthy 'Mediterranean Diet' Is Good for Your Microbiome(健康的な「地中海食」はマイクロバイオームによい)」をご紹介したい。
この研究はアイルランド国立大学コーク校のDr. Paul O'Tooleのチームが行ったもので、フランス、イタリア、オランダ、ポーランド、英国に住む65~79歳の612人を対象にしている。試験開始前と開始12カ月目に、通常の食事を取った人と地中海食を取った人それぞれの腸内細菌を調べている(地中海食の特徴は、果物、野菜、ナッツ、豆類、オリーブオイル、魚が豊富で、赤身肉と飽和脂肪が少ないこと)。
その結果、地中海食を取った人の腸内細菌の種類が対照者に比べて多いことを見出した。従来、腸内細菌の種類が多い人のほうがより健康であると考えられている。また、地中海食を取った人は高齢の方の身体的・精神的な健康によいとされている善玉菌が多く、一方で、体に炎症を起こす悪玉菌は少ないと研究者らは報告している。
さらに、地中海食は体によいといわれている短鎖脂肪酸を作る善玉菌を増加させ、一方で、特定の胆汁酸を作る悪玉菌を減少させることが分かっている。この胆汁酸は大腸がん、インスリン抵抗性(糖尿病と関連する)、脂肪肝の危険因子となることが知られている。地中海食が健康によいことは周知なので、我が国のコンビニで“地中海弁当”を売り出せばかなり売れるのではないかと思う。
もう1つ、腸内細菌とがんの関係に着目した研究で、2020年3月20日のMEDICAL NEWS TODAYで報告された「Gut bacteria may boost cancer therapy by colonizing tumors(腸内細菌は腫瘍にコロニーをつくることでがん治療を後押しするかもしれない)」をご紹介したい。
この研究は米国、テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターのYang-Xin Fu教授と、シカゴ大学ルートヴィヒ転移がん研究センターのRalph R. Weichselbaum教授の共同研究で、その結果はJournal of Experimental Medicineに掲載されている。
彼らはマウスを使った実験で、ビフィズス菌に属する細菌は腸管免疫反応を活性化することによってがんを制圧することを見出した。これらの細菌を注入すると、腫瘍の中に入ってはたらき、CD47遮断免疫療法(CD47 blockade immunotherapy)と呼ばれるメカニズムによって腫瘍細胞を消滅させると報告している。
このメカニズムは次のようなものである。腫瘍細胞はCD47たんぱくを免疫細胞の膜に組み込むことで免疫細胞の攻撃を防いでいるが、ビフィズス菌がその過程を阻害するため、免疫が腫瘍細胞を攻撃する力を保てるということだ。これは、2018年のノーベル賞受賞で話題になった免疫チェックポイント阻害剤と同じようなはたらきである。
上述の研究者はさらに、ビフィズス菌に反応しないマウスを反応するマウスと同じケージの中に入れるとやがて反応するようになること、また、マウスの場合はビフィズス菌がSTING(STimulator of INterferon Genes)と呼ばれる免疫経路を介して反応しており、STING経路を遺伝的に持たないマウスでは上述の免疫治療には反応しないことを示した。研究者によれば、ビフィズス菌は毒性が低く正常組織での生存の可能性が低いことを考えると、臨床的に応用するのに適した腫瘍標的細菌となる可能性があるという。
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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長
公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。