コロナ禍での生活で感じるようなストレスが血糖値のコントロールを難しくするという研究結果が2020年7月14日のHealth Dayで「Stressful Days, Worse Blood Sugar Control for People With Diabetes(ストレスの多い生活で糖尿病患者の血糖コントロールが悪化)」として報道されている。アメリカ・オハイオ州立大学ウェクスナーメディカルセンターの糖尿病・代謝研究センターの内分泌学者、Dr. Joshua Josephが報告している。
食料品を買いに行くような日常的な行動でも、新型コロナウイルス感染症にかかるかもしれないというストレスを感じる人が多い。そのような余計な緊張が、糖尿病患者の場合は血糖のコントロールを困難にしている。上述のようなストレスが、「ストレスホルモン」ともいわれる副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の分泌を促し、その結果血糖値の上昇と、糖を処理するインスリン分泌の低下をもたらすという。
Dr. Josephの説明によると、この反応はfight-or-flight response(闘争・逃走反応)の典型例である。たとえば、道路で突然熊に出合ったら走って逃げるであろう。そのときのエネルギーとして糖を必要とする。それに対応するためにコルチゾールが分泌されるのである。
Dr. Josephらは、45歳から84歳までの2000人以上を対象にして6年間にわたってこの問題を研究している。
通常、血中コルチゾール値は日中変動し、朝起きたときに一番高く、夕方になると下がり、夜になると低くなる。糖尿病の人ではその変動が見られず、一晩中同じ値であることをDr. Josephらのチームは見出している。同様に、ストレスのある人は夜になってもコルチゾール値が高く、同時に血糖値も高い。
コルチゾールはまた、食欲を増加させる。それもニンジンやブロッコリーではなくて、炭水化物や糖の多い食物を取るようにはたらきかけるとDr. Josephは述べている。そのような状態が続くと、当然糖尿病のコントロールが困難となり、その結果として視力障害や神経障害などが起こってくる。
Dr. Josephらは、現在自分に起こっていることに注意する(mindfulness)ことが糖尿病の患者には必要であり、定期的に運動する、7~8時間眠る、ヨガ、瞑想、音楽を聞く、健康によい食事を取る――ことなどによってストレスを低減させることの重要性を強調している。
この研究は、2020年7月13日のPsychoneuroendocrinology誌に掲載されている。
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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長
公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。