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心臓病、脳卒中の患者は新型コロナワクチンを接種すべきか

公開日

2021年01月26日

更新日

2021年01月26日

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2021年01月26日

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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年01月26日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

心臓の疾患や脳卒中の患者とCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンに関する記事が、「AHA News: What Heart and Stroke Patients Should Know About COVID-19 Vaccines(アメリカ心臓協会ニュース:心臓病や脳卒中患者が新型コロナウイルス感染症ワクチンについて知っておくべきこと)」として、2021年1月15日に報道されていたので紹介したい。アメリカ心臓協会(American Heart Association:(AHA)によると、心臓病や脳卒中の患者は、COVID-19ワクチンの接種を受けた方がよい、とのことである。

心疾患や心血管障害患者にも安全

AHAの会長でもある、コロンビア大学アービング・メディカルセンター教授、Dr. Mitchell Elkindは、「心血管の病気にかかっている人、また心血管障害のリスクを持つ人は、自分のためだけでなく家族を守るためにも、COVID-19ワクチンを接種した方がよい」と述べている。「アメリカ食品医薬品局(FDA)が承認したワクチンは、心血管障害の患者が接種しても安全である」とのことである。

AHAが発表した声明では、心血管リスク因子がある人、心臓病や心臓発作、脳卒中の病歴のある人は、できるだけ早くワクチンの接種を受けるように呼びかけている。

Dr. Elkindによると、上記のような基礎疾患を持つ人は、COVID-19による合併症を起こす可能性が高い。それを防ぐためには、ワクチンの接種が極めて重要となる。基礎疾患を持つ人にとっては「ワクチンの副反応よりもウイルスのリスクの方がはるかに高い」と彼は述べている。

ワクチンの副反応のリスクは?

ワクチンには副反応があるが、Dr. Elkindは接種によって合併症を起こす危険は非常に低いと述べている。また、彼はモデルナ社製ワクチンの最初の投与を受けており、自身に起こった副反応に関しても説明している。「最もよくみられる副反応は、腕の痛みである。数日間、ワクチンを接種した部分に殴られたような痛みがあった。しかし、腕を動かせない程ではなかった。私の場合の副反応はそれだけであった」とのことである。

インフルエンザのワクチンについて幅広い研究を行ってきたOrly Vardenyミネアポリス退役軍人ヘルスケア・システム/ミネソタ大学准教授は、COVID-19ワクチンの一時的な副反応について「特に驚くことではない」と述べている。FDAの承認を受けているファイザー/ビオンテック製ワクチンでは、一般的にみられる副反応として注射部位の痛み、倦怠(けんたい)感、頭痛、筋肉痛、悪寒、関節痛、発熱などが知られている。「これらの副反応は、体が免疫反応を起こしている兆候であり、ウイルスの感染から体を守るための抗体を作っていることを示している。したがって、かえってよいことである」とVardenyは説明している。

また、現在アメリカで認可されているワクチンには、生ウイルスは含まれていない。そのため心臓病の患者や、免疫機能が低下しているほかの疾患の患者についてもあまり心配することはないとも述べている。

Dr. Elkindは、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などの発症を防ぐために"血液をサラサラにする"抗凝固薬を服用している人にも、安全に投与できると述べている。ワクチン接種の注射針は細く、内出血を防ぐために1分ほどしっかり押さえれば問題ないとのことである。

現在認可されているCOVID-19ワクチンはまれに重度のアレルギー反応を起こす可能性があり、接種後15~30分間は様子を見る必要がある。Vardenyは、「ワクチンは何百万人もの人々に投与されており、ほかにもまれな副反応が報告される可能性がある。投与が進むにつれて、忍容性(薬物によって生じる副作用などに対し患者がどれだけ耐えられるか)や副反応について、さまざまなことが分かってくるであろう」と述べている。

信頼できる情報源に相談を

現在のところ、子どもについては試験を行っている最中であり、ワクチン接種は承認されていない。また、先天性心疾患がある成人についても、データは限られている。そのため、全員がCOVID-19ワクチンの接種を受けられるようになるまでには、まだ時間がかかる。しかしDr. ElkindとVardenyは「インフルエンザの予防接種を受けることで自分を守ることができる」と述べている。インフルエンザのワクチンによってCOVID-19を予防することは不可能だが、COVID-19に似た症状を起こし診断を妨げる症状を発症する可能性は低くなる。また、インフルエンザが起こす心臓関連の合併症からも守られることになる。

ただし、予防接種を行うタイミングには注意が必要である。米疾病対策センター(CDC)の暫定発表では、インフルエンザとCOVID-19ワクチンの同時投与は避けるべきだとしている。Vardenyによれば、14日ほど間を開けるのが望ましいとのことである。

またVardenyは、「ワクチンについては誤った情報もたくさんあり、信頼できる情報源を探すことが不可欠である。かかりつけ医や心臓の専門医、薬剤師、そのほかの医療関係者とよく相談することが必要であろう」と述べている。また、CDCはワクチンに関する情報を定期的に更新しているので、こちらも参考になると思われる。

"スピード開発"への疑念に対する回答

Dr. Elkindは、「COVID-19ワクチンが非常に速く開発されたため、安全かどうかをよく尋ねられる。特に、医学実験において“悲惨で不適切な”歴史がある黒人のコミュニティには、懸念する人が多い」と述べている。こうした疑念に対しては「COVID-19ワクチンは、パンデミックが始まってから1年もたたずに完成したが、その基礎となる技術は10年以上前から研究されてきた。したがって、開発期間が短すぎることへの心配はない。すでに多くの人々がワクチンの接種を受けており、これまでは予期していない重大な副反応は報告されていない。このことは我々全員にとってよいニュースである」とも述べている。

日本でも早期に接種開始を

私見であるが、新型コロナウイルス感染症制圧のために、わが国でも早急にワクチンの接種を開始すべきだと考えている。政府や東京都の専門家委員の方は、感染防止についてのお話は強調されるが、ワクチンについては触れられていない。

海外ではすでに接種が始まった国もあり、アメリカではバイデン新大統領も接種している。重大な副反応の割合も比較的低く、安全性が高いとのことである。

現在、新型コロナウイルスによって亡くなる方が後を絶たない。ワクチン担当相に河野太郎氏が任命され、ようやく接種に向けて動き出した感がある。わが国でもできる限り早期にワクチン接種を開始していただきたい。
 

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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。