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連載髙久史麿先生厳選 世界の医療情報

心臓発作治療後の心不全予防につながる新たな再生医療の研究

公開日

2021年02月03日

更新日

2021年02月03日

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2021年02月03日

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公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

心臓発作後の傷を治療することで生存率が高まる?

これは、心筋梗塞(こうそく)などの心臓発作に血小板由来の成長因子(傷んだ組織の修復を促す物質)を使うという研究である。2020年1月3日のMEDICAL NEWS TODAYに「Heart attack: New protein therapy may improve recovery(心臓発作:新たなたんぱく質補充療法は回復を改善するかもしれない)」と報道されているのでご紹介したい。

研究を行ったのはオーストラリアのシドニー大学のJames Chong准教授で、心臓発作後の瘢痕組織(傷が治る過程でつくられる組織)を治療するという報告である。

通常、心筋梗塞ではカテーテルを使う再灌流(さいかんりゅう)療法(詰まった血管をもう一度血液が流れる状態に戻す治療)が行われるが、その後心不全を起こす患者が少なくない。Chong氏らは、心臓発作を人為的に起こした豚に対して、組換えヒト血小板由来成長因子-AB (rhPDGF-AB)の静脈内注入(1週間)の有効性について、rhPDGF-AB投与群と対照群それぞれ11匹を使い、1カ月後にMRIなどの方法を用いて観察した。

その結果、心臓発作後の28日後の生存率が対照群に比べて40%増加し、心筋梗塞を起こした左心室の駆出率が11.5%改善した。この調査結果は、Science Translational Medicine誌に報告されている。

なお、この治療によって梗塞部の瘢痕組織の大きさそのものは変わらなかったが、瘢痕部のコラーゲン線維の並び方や強度が改善していることを認めている。この問題に関しては、Chong氏の共同研究者であるオーストラリアのビクター・チャン心臓研究所のRichard Harvey教授が以前マウスを使って同じ結果を得ており、それを大型動物の豚を使って再現したとのことである。

この研究は10年以上にわたって続けられており、rhPDGF-ABの投与量、安全性を確認するためさらにいくつかの動物実験を行った後、直ちに臨床研究に進みたいと述べている。

なお、私の知っている限り、わが国では再生医療の1つとして多血小板血漿(PRP:自己血液を濃縮して生成するもの。成長因子を含み、傷んだ組織の修復を促す)が整形外科や皮膚科の領域でもっぱら使われている。上述の研究は私にとってまったく新しい知見であったのでご紹介した次第である。

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公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。