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連載髙久史麿先生厳選 世界の医療情報

血液検査でアルツハイマー病鑑別が可能に?

公開日

2021年03月24日

更新日

2021年03月24日

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2021年03月24日

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公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

アルツハイマー病の診断を血液の検査で行えるようになるかもしれないという研究結果が2020年7月28日のHealth Dayで「Blood Test Heralds New Era in Alzheimer's Diagnosis(血液検査はアルツハイマー病診断の新時代到来を告げる)」として報道されている。この記事では、同月下旬に行われたアルツハイマー協会バーチャル年次総会で発表された3つの報告を紹介している。その中で私が最も興味深く読んだ、スウェーデンのグループの報告を紹介したい。

その研究はスウェーデン、ルンド大学教授、Dr. Oskar Hanssonによって行われた。研究者たちは、タウタンパク のうち「p-tau217」の血中濃度を測定することによってアルツハイマー病と他 の認知症とを98%の確率で鑑別することが可能であるばかりでなく、アルツハイマー病になりやすい遺伝子変異がある人は症状が現れる20年前に診断が可能だと報告している。

Hansson教授らは700人のスウェーデン人を対象にしてp-tau217血液検査を行ったところ、アルツハイマー病鑑別の正確度は▽PETスキャンや骨髄液の検査と同等▽MRIスキャンや血中のアミロイドを調べる検査よりも高信頼性▽死後の解剖所見とほぼ同等の正確性――を有していたという。したがってp-tau217血液検査はアルツハイマー病の早期診断や研究に大きな希望をもたらすものであると、Hansson教授はルンド大学のニュースリリースで述べている。そして、この検査はさらに方法を改善してより多くの患者で試みる必要があるが、プライマリケアの現場での認識、診断、介護の改善に極めて有力な手段になると付け加えた。

この研究についてカリフォルニア大学サンフランシスコ校のアルツハイマー病研究者、Dr. Michael Weinerはニューヨークタイムズ紙に「アルツハイマー病の治療に関するものではないが、診断を正確に、しかも低価格で行うという意味で画期的な研究である」と称賛している。

アルツハイマー協会のMaria Carrillo 最高科学責任者は「PETや骨髄液の検査によってアミロイドβが増加していることが分かっても、タウタンパクが増加しているかどうかが分からないとアルツハイマー病の診断は下せない。しかしp-tau217血液検査では、(アルツハイマー病に重要な役割を果たす)アミロイド斑とタンパクのもつれの両方を見つけていると思われる」と述べている。

Carilloはまた「このテストは臨床の現場でアルツハイマー病の診断を確定することができる。5年前まではこのようなことは夢物語であった」とニューヨークタイムズ紙で述べている。

この研究を行ったHansson教授はアルツハイマー病の患者は血中のp-tau217のレベルが、例えば 前頭側頭型認知症や血管性認知症といった他の型の認知症、パーキンソン病のような神経障害のある人よりも7倍高いこと、したがってこのテスト結果はアルツハイマー病に特異的であると同紙に語った。

また、このような血液検査はアルツハイマー病に関する臨床研究を加速させるように働くと同時に、医師が認知症患者の中からアルツハイマー病を診断または除外するのに有効であるとも述べている。

アルツハイマー病のリスク要因とは

診断がついたとしても、今のところアルツハイマー病の特効薬はない。とすれば、アルツハイマー病にならない方法はないものであろうか。そうした関心に応える記事が2020年7月20日のHealth Dayに「Researchers Zero in on Alzheimer's Disease Risk Factors(研究者はアルツハイマー病のリスク要因に焦点を当てる)」として報道されているので紹介したい。

この研究を行ったのは中国・上海の復旦大学神経学教授、Dr. Jin-Tai Yuを中心とするグループである。アルツハイマー病の予防に関する約400の研究をレビューした結果として、医師が現場で利用できる21の予防法を挙げている。このうち約3分の2は、高血圧やコレステロール、ライフスタイルなどの危険因子を対象としている。

具体的にはまず、強い根拠のある10の提案として▽できる限り若い時から教育を受ける▽読書のような精神的な刺激を与える活動に関与する▽中年期の糖尿病、ストレス、うつ病、頭部外傷、高血圧を回避する――などを挙げている。

また、上述の各項目に比べると支持する証拠の少ない提案として▽高齢になっても定期的に運動をする▽質の良い 睡眠をとる▽高齢になっても健康な体重を保つ▽心疾患がない▽禁煙▽食事中によくビタミンCを取る――など9項目を挙げている。

また推薦できないこととして、更年期障害の治療として行われるエストロゲン補充療法、副交感神経を興奮させるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の服用を挙げている。

これらの内容は納得のいくものではあるが、上述のようなことを守ったとしてもアルツハイマー病にならないと保証はできない。アルツハイマー病を防ぐ方法の開発には、今後さらに質の高い無作為な観察研究が必要だと著者らは述べている。

なお私見であるが、若年性アルツハイマー病を除いて、アルツハイマー病発症の遺伝的な要因についての研究を私の不勉強のせいか目にしない。高齢者にみられるアルツハイマー病の発症にも遺伝的要因が関与していると思われるので、ご存じの方がおられればご教示願いたい。

悲観的思考はアルツハイマー病になりやすい?

上の研究とは逆に、認知症になりやすい条件というものもあるのであろうか。物事を悲観的にとらえてい続けると、認知症になりやすいという研究結果が2020年6月7日のCNN healthで「Negative thinking linked to dementia in later life, but you can learn to be more positive(マイナス思考は後の人生での認知症に関係、だがもっと前向きになることを学べる)」として報道されている。

この研究を行ったのはイギリス、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの精神科医、Dr. Natalie Marchantである。研究者たちは55歳以上の350人以上を対象に、2年間にわたって観察している。そのうち3分の1はPETスキャンで、アルツハイマー病を引き起こす脳中のタウタンパクとアミロイドβタンパクの蓄積を測定している。

観察の結果、悲観的に物事を考え続ける人は、そうでない人に比べて記憶力や認識力の低下が著しく、またタウタンパク、アミロイドβタンパクの蓄積もより多いことが判明している。

この研究では、不安と抑うつのレベルについてもテストしている。そして、不安神経症とうつ病の人は認知機能の低下が大きいことを発見した。その一方で、これらの人たちにタウタンパクやアミロイドβタンパクの増加は認めていない。この結果から、悲観的 な考えを長期にわたって繰り返し持つことが、不安神経症やうつ病がアルツハイマー病へと進行する主な理由であることを示しているとしている。
 

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公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。