連載髙久史麿先生厳選 世界の医療情報

犬の嗅覚が新型コロナ感染をかぎ分ける?

公開日

2020年07月07日

更新日

2020年07月07日

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2020年07月07日

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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年07月07日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

今回は犬を使って新型コロナウイルスの感染者を見つけるという2020年4月25日のMEDICAL NEWS TODAYの記事「Could dogs help detect COVID-19?(犬は新型コロナ感染検出に役立つか)」をご紹介したい。

3月末にイギリスのロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene & Tropical Medicine:LSHTM)、慈善団体「医療探知犬(Medical Detection Dogs)」、ダラム大学のグループが、医療探知犬を使って新型コロナウイルス感染(COVID-19)患者を見出す方法についての可能性を調査すると発表した。

この方法は犬の優れた嗅覚を利用したもので、この研究グループは以前の研究で犬がマラリア感染患者をかぎ分けたことを報告している。また、肺がん患者の血液サンプルを犬にかがせることで、肺がんを判別したことが既にほかの研究グループから報告されている。

研究者たちは、犬にCOVID-19患者のにおいサンプルをかがせ、患者を見分ける訓練を受けさせる。この試みが成功した場合、探知犬は6週間の訓練で呼吸器疾患をスクリーニングできるだろうと考えている。そして、訓練を受けた犬は1時間に250人を判定できる可能性があると研究者らは報告している。犬は皮膚温度の小さな変化にも敏感なので、空港におけるCOVID-19患者の発見にも有用であろうと示唆している。

ナノテクノロジーで「サイトカインストーム」抑制

重症の新型コロナウイルス感染症に対する新しい治療法が2020年4月28日のHealth Dayに「Nanotechnology Might Help Fight Deadly Cytokine Storm of COVID-19(ナノテクノロジーは新型コロナの致死的なサイトカインストームとの闘いに役立つ可能性)」として報道されている。この研究はフランスのパリ大学南校ガリアン研究所(Institute Galien Paris-Sud)のDr. Patrick Couvreurによって行われ、2020年4月27日発行のScience Advance誌にon-lineで報告されている。

壮健な若いCOVID-19患者が急に重症になった場合、患者の体内の免疫反応が制御不能の状態になっていることが見出されている。この状態が続けば多臓器不全から死に至ることが多い。個体の免疫が制御不能になる時、体内は「サイトカインストーム」と呼ばれる、炎症と酸化ストレスが同時に起こった状態になっている。このときに副腎皮質ホルモン(コルチコステロイド)のような抗炎症薬が有効なはずであるが、これは組織の再生に悪影響があるので適応がないとCouvreurは述べている。

そこで新しい方法として、強力な抗炎症化合物の「アデノシン」と、体内でもみられる脂肪の一種「スクアレン」を合わせて、ビタミンEの一種で強力な抗酸化物質「αトコフェロール」のカプセルに入れたナノ粒子を作成。そのカプセルを敗血症のような高炎症状態や、COVID-19によるサイトカインストームが起こった状態にしたマウスに投与した。投与後4時間で、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)の明らかな減少と抗炎症性のインターロイキンの上昇が肺や腎臓で認められたと報告している。

これはマウスを用いた実験であるが、新型コロナウイルス感染が最重要な問題になっている現状を考えると、早急に臨床の場に持ってくることが必要なのは言うまでもないであろう。

合併症ある患者の重症化に血液凝固メカニズムが関係か

新型コロナウイルス感染症と血液凝固に関する報告「Faulty blood clotting mechanism may explain COVID-19 severity(血液凝固メカニズムの欠陥で新型コロナの重症度を説明できる可能性)」が2020年4月23日のMEDICAL NEWS TODAYで報道されている。

高血圧糖尿病、心疾患、脳血管障害慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)などの肺疾患、腎疾患のある人が重症のCOVID-19になりやすいことは周知である。

COPDの患者さん
写真:Pixta


アメリカ・テキサス大学タイラー保健科学センターのDr. Hong-Long Jiらは、上述の疾患の患者に起こっている血液の抗凝固反応亢進が過剰な出血、COVID-19の重症化、更にその後の死亡に関与していることを見出し、Physiological Reviews誌に報告している。

彼らは重症COVID-19患者の血中にフィブリン分解物が認められ、更に血小板数が減少していることを確認、これはフィブリンの分解が亢進している所見であると報告している。フィブリンは血液凝固に関わるたんぱく質である。彼らは更に心臓、肺、腎臓病を合併しているCOVID-19患者ではフィブリンを溶解する「プラスミン」とその前駆体の「プラスミノーゲン」の値が上昇していることを認めている。

また、Dr. JiはCOVID-19患者の97%は血中D-dimer値が高いという文献を紹介している。血栓が溶解した際に形成されるD-dimerが、COVID-19が重症化した場合、特に急性呼吸窮迫(きゅうはく)症候群(acute respiratory distress syndrome =ARDS)を起こしていると上昇する。対照的に、COVID-19の生存者、特にARDSを克服した患者でD-dimer値が正常化するとDr. Jiらは報告している。

以上の結果から、血中プラスミン値とD-dimerの値がCOVID-19患者の重症度を判定する重要な指標になると結論している。さらにDr. Jiらは、抗プラスミン剤の投与が合併症を有するCOVID-19患者の臨床結果改善のための有効な戦略になるかもしれないと推定している。

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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。