新型コロナの話題については一休みして、今回は糖尿病についてもいくつかの研究を紹介したい。
最初は2019年12月5日のMEDICAL NEWS TODAYで報告された「Study reveals how diabetes drug promotes healthy aging(研究で判明 糖尿病薬が健康な老化を促進)」で、糖尿病薬「メトホルミン(一般名)」がインスリンに対する感受性を増加させることによって、糖尿病に対して有効なだけでなく健康寿命を延長させるという研究である。これはアメリカ・カリフォルニア州ラホーヤのソーク研究所、スクリプス研究所と、ニューヨークにあるワイル・コーネル・メディカル・カレッジの共同研究で、共同研究者の1人でソーク研究所のReuben J. Shaw教授がメトホルミンの健康長寿促進効果の機序を明らかにしている。
もともとメトホルミンは糖尿病の薬として60年前に開発された薬であるが、最近になって肥満、がん、メタボリック症候群、多嚢胞(のうほう)性卵巣症候群、非アルコール性脂肪肝にも有効なことが報告されるようになっている。
従来メトホルミンは細胞のエネルギーを調整する「AMPK」と名付けられた信号伝達経路を活性化することによって、上述のようなさまざまな効果を示すと考えられてきた。Shaw教授らはAMPK経路とは別に、メトホルミンはストレスに関連する「プロテインキナーゼD」と「MAPKAPK2」という2つの酵素の相互作用を介して健康的な老化の促進をもたらすのだと推測している。
Shaw教授らは、メトホルミンは2型糖尿病の患者だけでなくもっと多くの人に有効なのではないかと考え、更にどのような代謝経路がその効果を最大にしているかを研究中とのことである。
私自身のことを申し上げて恐縮であるが、私は10年以上前に空腹時血糖値とHbA1Cの上昇が認められ、それ以来メトホルミンを飲んでいるので、上述のやや難解な報告をあえて紹介させていただいた。
糖尿病に関するもう1つの話題として、ドローンを使って災害時にインスリンを配送する実験が行われたことが2020年3月30日のHealth Dayに「Doctors Describe First Drone Delivery of Diabetes Meds to Patient(ドローンによる初の糖尿病治療薬配送、医師が説明)」と報告されているので簡単にご紹介したい。
実験はアイルランド・ゴールウェー国立大学のDr. Derek O'Keeffeらが行い、Endocrine Society news releaseで報告している。
アイルランドでは近年、激しい嵐で医療へのアクセスが絶たれたことから、遠隔地で何日も治療を受けられなくなる糖尿病患者を救う方法が模索されていた。2019年9月に行われた実験では、沿岸から約20キロ離れたアラン諸島まで16分の飛行が行われた。
実験に先立ち、国際医療チームが1年にわたり計画を立て航空、薬剤、医療の関係当局から、試験飛行実施の了承を取ったという。研究者の1人は「ドローンで薬剤を配送するためには、いくつかの課題を克服する必要があった」と述べている。例えば、インスリンは冷蔵の必要はないが高温には弱いので、断熱容器に入れ、配送中は温度監視をしていたとのことである。なお、インスリンを運んだドローンで患者の血液を持ち帰り血糖値を測定することによって、血糖コントロールに利用することも可能だと述べられている。
災害の多いわが国の現状を考えると、このような形でドローンを利用する具体的な方策を検討すべきであろう。
糖尿病に関するもう一つのニュースとして、2020年1月13日のHealth Dayに報告された、ある種の糖尿病薬が痛風に有効かもしれないという報告「Certain Diabetes Meds May Lower Gout Risk, Too(特定の糖尿病薬が痛風リスクを低減させる可能性)」を簡単にご紹介したい。この研究はボストンにあるブリガム・アンド・ウイメンズ病院のDr. Michael Fralickらによって行われ、その結果がAnnals of Internal Medicineの1月13日号に掲載されている。
2型糖尿病の患者には痛風の原因となる血中尿酸値の高い人がよく見られる。この研究で言及されている糖尿病薬は「SGLT2阻害剤」という比較的新しい薬で、腎臓で尿中に糖を排出させることで血糖を下げる。また、服用によって低血糖症や体重増加を引き起こすことがない。ただ、この記事ではSGLT2阻害剤が痛風リスクを低減させる理由についての説明はなされていない。この先の研究進展によっては、血中尿酸値の高い人が2型糖尿病になれば、SGLT2阻害薬をまず服用すべきだということになるかもしれない。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。
公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長
公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。