連載髙久史麿先生厳選 世界の医療情報

新型コロナ治療 レムデシビルの可能性は?

公開日

2020年06月19日

更新日

2020年06月19日

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2020年06月19日

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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年06月19日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

日本では緊急事態宣言が解除されたが、世界に目を向けると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束には程遠く、また、予想される第2波、第3波に向けて効果的な検査法や治療薬、ワクチンの開発は急務である。そうした努力と競争の一端が垣間見える研究を紹介する。

ウイルス複製を阻害 レムデシビルの作用

2020年4月18日発行のHealth Dayに、COVID-19にレムデシビルが有効なことが「Why remdesivir might be a good bet against Covid-19(新型コロナに対してレムデシビルが有望かもしれないのは?)」として報告されているのでお伝えしたい。この1週間前にNew England Journal of Medicineに掲載されたシーダーズ・サイナイ・メディカルセンターの研究者による報告では、53人の重症COVID-19患者にレムデシビルを使ったところ症状の改善がみられ、30人のうち17人が人工呼吸器を使う必要がなくなったとしている。

また本年の4月13日発行の Journal of Biological Chemistry(JBC)で、レムデシビルが新型コロナウイルスに対してどのように作用するかの研究結果が掲載されている。レムデシビルは2014年のエボラウイルス流行に対処するため開発された。レムデシビルはコロナウイルスに対してポリメラーゼ(ゲノムを合成する酵素)の強力な阻害剤で、ウイルスを複製できなくさせると、論文を執筆したカナダ・アルバータ大学のMatthias Götte医微生物・免疫学部長が主張している。Götteは動物や細胞を使った実験の結果、レムデシビルが新型コロナウイルスに対して直接作用する抗ウイルス剤であることを証明している。

レムデシビルが本当に有効かどうかは、もっと多くのCOVID-19患者に対する研究が必要であるが、本年の2月に報告したレムデシビルのMERS(Middle East Respiratory Syndrome)ウイルスに対する効力とその機序から、GötteはCOVID-19への有効性を楽観しているとのことである。

なお、わが国で開発されたインフルエンザ治療薬アビガンが一部のCOVID-19に有効なことが報道されていることは周知の通りである。

45分で結果が出る新検査法

続いても新型コロナウイルスについての話である。このウイルス感染を確認するためには綿棒を使って咽喉(いんこう)内の分泌物を取り、そのPCR(polymerase chain reaction)を行う。この検査には時間がかかることが問題になっている。2020年4月16日のHealth Dayでは、この問題について「New COVID-19 Test Could Give Results in Under 1 Hour(1時間以下で結果が出る新型コロナの新しい検査)」の題で報告しているのでご紹介したい。

この研究を行ったのはアメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校のDr. Charles Chiu。彼らは遺伝子編集技術の1つCRISPR法を用いてCOVID-19の感染を45分で検出できることを見出し、その方法を「SARS-CoV-2 DETECTR」と名付け4月16日発行のNature Biotechnologyに論文を掲載している。この方法はPCR法に比べてやや感度が低いが、特別な機器を必要とせず既製の化学薬品と一般的な装置を使用して事実上すべての実験室で実行できることに加え、妊娠検査のように検査紙の上に濃い線が出た時に陽性と判断されるので判定も容易である。アメリカ食品医薬品局(FDA)からの認可が出れば診療所、飛行場、学校などで広く利用されるようになるであろうとDr. Chiuらは述べている。

米FDA回復した患者に血漿提供を呼びかけ

もう1つの話題として紹介するのは、このウイルス感染から回復した患者の血漿(けっしょう)を重症の新型コロナウイルス患者に注射することを、アメリカが国をあげて行うという報告である。このことは4月16日のHealth Day「FDA urges COVID-19 survivors to donate plasma(FDA 新型コロナ感染症から回復した患者に血漿提供を要請)」で報告されている。

COVID-19の患者に対する回復期患者血漿が有効なことは、すでに中国で少数の患者で証明されていることをこのニュースで報告している。FDAが大学、企業との協同でこの研究を大々的に行うという報道である。回復期患者からの血漿の採集には赤十字社の協力が必須で、アメリカの赤十字社はウェブサイトで血漿提供者を募っているようである。

FDA長官のDr. Stephen Hahnによれば、メイヨークリニックが行っている「expanded access Protocol」にすでに1040以上の施設と950人以上の研究医師が参加の意思を示しているとのことである。

FDAは回復したCOVID-19患者に地域の採血センターに連絡して血漿を提供するようウェブサイトで呼びかけている。日本でも厚生労働省が中心になって医療界や日本赤十字社に呼びかけ、回復患者への血漿提供呼びかけを推進すべきであると考える。

献血の様子
写真:Pixta

血栓溶解薬でARDS抑止が可能?

もう1つ、新型コロナウイルスに関する記事の中で私にとって珍しく思われた報告があったのでご紹介したい。その報告は2020年4月17日のMEDICAL NEWS TODAYに掲載された「COVID-19: Vaccine may be ready by fall and other reasons for hope (新型コロナワクチンは秋までに準備、そのほかの希望がもてる理由)」の中の1項目である。この報告には、COVID-19に対するワクチンの開発状況や、レムデシビルの有効性についても書かれているが、私が特に興味を持ったのは、脳梗塞(こうそく)や肺塞栓の患者に投与する血栓溶解薬「Tissue plasminogen activator:tPA)」を、COVID-19患者の治療に使うという試みだ。ボストンのベス・イスラエル・ディコネス・メディカルセンター(Beth Israel Deaconess Medical Center:BIDMC)のDr. Michael B. Yaffeの研究で、COVID-19患者の肺の血管を詰まらせる微小フィブリン塊の発生を抑えることによって、急性呼吸窮迫(きゅうはく)症候群(ARDS)の発症を抑えるのではないかと推測、治験を進めている。

その治験の根拠としてDr. Yaffeらは、ARDSを起こしたCOVID-19の患者では、カテーテルや静脈内のチューブに凝固能亢進が認められていることを挙げている。tPAは日常的に良く使われる薬剤なので効果や副作用、使用のノウハウが蓄積されており、ARDSを起こした重症のCOVID-19患者に対するこの治験の結果が強く期待される。

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公益社団法人 地域医療振興協会 会長、日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。