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連載髙久史麿先生厳選 世界の医療情報

新型コロナ感染 若い患者は血栓に気を付けて

公開日

2020年06月23日

更新日

2020年06月23日

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2020年06月23日

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公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

アメリカの最近のHealth Newsもコロナの話題が大部分を占め、それ以外では麻薬と電子たばこなど日本ではあまり関心をもたれない話題しか報じられていない。そこで今回は、新型コロナウイルスに関して日本ではあまり報道されていない話題をいくつかピックアップしてご紹介したい。

嗅覚喪失ならば入院の必要性低い?

新型コロナウイルス感染症では嗅覚を失うことが報じられている。それに関連して2020年4月29日のHealth Dayで「Loss of Smell May Signal Milder Case of COVID-19: Study(嗅覚喪失は新型コロナ軽症を示すか:研究)」と報道されている。

この研究はカリフォルニア大学サンディエゴ校のDr. Adam DeCondeらが行ったもの。COVID-19陽性であった169人の患者のうち128人で味覚と嗅覚に関するテストが行われ、26人が入院している。これらの患者を比較すると、入院した患者で嗅覚の異常を訴えたのは27%、入院を必要としなかった軽症から中等度の患者の67%が異常を訴えた。同様の傾向は味覚でも認められたとのことである。

この研究はInternational Forum of Allergy & Rhinologyにon lineで4月24日に報告されている。この結果は鼻と上気道の免疫系が働いてそこでコロナウイルスを攻撃し、肺や循環器などの臓器に侵入するのを防いでいることを示唆していると論文筆者のDr. Carol Yangらは推定している。以上の知見から、嗅覚や味覚に異常のあるCOVID-19の患者はあまり重症でなく、入院の必要性はより低いとDr. DeCondeらは述べている。

若年者も脳卒中のリスク増

次の報告は新型コロナウイルス患者の脳卒中に関するニュースである。2020年4月29日のHealth Dayでは「COVID-19 Now Linked With Strokes in Young Patients(新型コロナと若年患者の脳卒中の関連)」として、若い患者さんでは脳卒中が多いと報道されている。別の研究で、新型コロナウイルス患者は血中プラスミン、プラスミノーゲン、D-ダイマーの値が高く線維素溶解が亢進しており、そのため出血しやすいとされた。今回は逆に血栓を起こしやすいという研究で、上述の報告と矛盾している。しかし、今回の研究は33~49歳という比較的若い人を対象としているため、このような相反する結果となったのではないかと推定される。

この研究は、New England Journal of Medicineの4月28日号で報告されている。対象となっているのはニューヨークのマウント・サイナイ・ベス・イスラエル病院で2020年3月23日から4月2日に治療を受けた5症例で、いずれも血栓のために脳卒中を起こしていた。最年少の症例は33歳の女性で、1週間にわたってせき、頭痛、寒気が続いた後に左半身のしびれと脱力のため来院。検査の結果COVID-19陽性に加え、脳動脈に血栓が認められたため、抗凝血薬(blood thinner)と抗凝固薬(anticoagulant)によって治療し、10日後にはリハビリセンターに移っている。

報告者の1人であるDr. Thomas Oxleyはワシントンポスト紙に44歳の男性患者の脳から大きな血栓を取り出したこと、またその際周りの血管にリアルタイムで新しい血栓が形成されつつあったことを認めている。

このほか、フィラデルフィアのトーマス・ジェファーソン大学病院とニューヨークのNYUランゴーン・ヘルスもコロナウイルス関連脳卒中について報告している。その報告によると、12人のCOVID-19患者が血栓による脳卒中を起こしている。またその中の40%の患者は50歳以下で、いずれも脳卒中の危険因子を有していなかったとのことである。この他、ジョージア州アトランタのエモリ―大学医学部准教授、Dr. Fadi Nahabは手足の深部静脈や肺に血栓を認めることから、COVID-19は他のウイルスとは異なり血液凝固促進能を有していると推定している。

一方、アメリカの多くの脳卒中センターで患者の減少を認めている。センターの関係者は、脳卒中の患者の中にはCOVID-19感染を恐れて病院に来るのを恐れた結果、より重症になって来院するのではないかと心配している。実際にそのような症例があったことをマウント・サイナイ・ベス・イスラエル病院の医師たちが報告している。前の報告と今回の報告をまとめれば、「若いCOVID-19患者の場合、血栓に気を付ける」ということになるであろう。

T細胞の数で重症度判定が可能か

患者の血液中の免疫に関与するリンパ球の一種、T細胞の数が問題だということが2020年5月1日のHealth Dayで「Blood Count May Offer Clues to Treatment of COVID-19:Study(血球数が新型コロナ治療の糸口を提供する可能性:研究)」と報告されていた。この研究を行ったのは中国人民解放軍第三軍医大学のDr. Yongwen Chen。集中治療室(ICU)で治療を受けているCOVID-19重症患者の血中T細胞の数が、ICUに入らなかった患者より少ないこと、またその重症患者の中でも60歳以上の人でT細胞の減少が最も顕著であったと報告している。

Dr. Chenらは、COVID-19患者に起こった一種の免疫の暴走「サイトカインストーム」がT細胞減少の原因であろうと推定している。これはFrontiers in Immunologyで5月1日に報告されている。

感染抑制に最適な湿度条件とその理由

6月の街の様子
写真:Pixta


次に、空気中の湿度が新型コロナウイルスの感染に影響を与えるという2020年4月2日のMEDICAL NEWS TODAYの報告「How humidity may affect COVID-19 outcome(湿度が新型コロナの伝染性に与える影響)」をご紹介したい。この研究はアメリカ・エール大学の岩崎明子教授によって行われ、最終稿は同年9月のAnnual Review of Virologyに報告されることになっている。

彼女らは過去のSARSや今回のCOVID-19はいずれも冬に始まっていることを指摘し、冬に冷たい空気が室内に入ってきて温められると室内の湿度が20%低下する。それによって空気中のウイルスの移動度が高まる一方、気道の表面を覆っている繊毛(cilia)はウイルスを排除しにくくなる。岩崎教授はその証拠として、10%の湿度下におかれたマウスは50%湿度下のマウスよりもインフルエンザウイルスを排除しにくい、またウイルスに対する免疫反応も乾燥した条件下では働きにくいという2つの文献を引用している。

緊急事態宣言解除後の6月は空気中の湿度も上がり、新型コロナウイルス感染の恐れから解放されることを強く期待したい。

喫煙は新型コロナ発症・死亡にも関与

新型コロナウイルス感染症と喫煙との関係について、2020年5月5日のHealth Dayは「AHA News: Why Lighting Up and COVID-19 Don't Mix(アメリカ心臓協会ニュース:喫煙と新型コロナはなぜ相性が悪いのか)」で報告している。新型コロナウイルス感染症が世界中に拡大するに従って、喫煙がこの疾患の進行を促すと言われるようになった。世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病対策センター(CDC)は、喫煙が新型コロナウイルス感染症の発症、死亡に関与することを報告している。

喫煙する男性
写真:Pixta


中国・武漢のデータでは、喫煙者は非喫煙者に比べて1.4倍重症になりやすく、また集中治療室での治療、人工呼吸器の使用、死亡の割合が2.4倍になることが認められている。

喫煙によって肺がウイルスに感染しやすくなると共に、喫煙によって動脈は硬化しているので、それによる血栓症が加わると、新型コロナウイルスに感染した喫煙者は心筋梗塞(こうそく)脳梗塞の発症頻度が高くなることが十分に予想される。この問題についてはアリゾナ大学のDr. Irving Kronが本年1月にNature誌に発表しているので、詳細を知りたい方は参照されたい。

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公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長

髙久 史麿 先生

公益社団法人地域医療振興協会 会長 / 日本医学会 前会長。1954年東京大学医学部卒業後、シカゴ大学留学などを経て、自治医科大学内科教授に就任、同大学の設立に尽力する。また、1982年には東京大学医学部第三内科教授に就任し、選挙制度の見直しや分子生物学の導入などに力を注ぐ。1971年には論文「血色素合成の調節、その病態生理学的意義」でベルツ賞第1位を受賞、1994年に紫綬褒章、2012年には瑞宝大綬章を受賞する。