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「副作用は我慢するもの」じゃなかった。がん治療の“もう1つの戦い”を支える専門科が静岡がんセンターに誕生

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2026年06月29日

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2026年06月29日

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2026年06月29日

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右から 静岡県立静岡がんセンター 総長 上坂 克彦先生、支持医療科部長 内藤 立暁先生

靴が履けなくなった。歩けなくなった。夜中に熱が出ても、どこに相談すればよいか分からない――。

がん治療の進歩は目覚ましい。しかし、その陰で、新しい治療薬がもたらす「新しい副作用」に苦しむ患者も増えている。
そうしたなか、静岡県立静岡がんセンターでは2026年4月、この問題に正面から向き合う診療科として「支持医療科」を開設した。

「副作用は自分で頑張るもの、と思っている患者さんが多かった。でも今は、専門家がいます」

そう語る同センター総長の上坂 克彦(うえさか かつひこ)先生と、支持医療科部長の内藤 立暁(ないとう たてあき)先生に話を伺った。

がん治療の進歩とともに、副作用も複雑化している

――近年、がん治療は大きく進歩しました。その結果、治療の際に生じる副作用について悩まれる方が増えているとききます。実際、そのような方は増えているのでしょうか。

上坂先生:近年、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など、新しいがん治療が次々に登場しています。その結果、以前より長く治療を続けられる患者さんが増え、副作用も非常に多様化し、複雑になっている側面は見逃せません。

従来の抗がん薬治療では、吐き気のような比較的よく知られた副作用が中心でした。しかし現在は、皮膚や爪の障害、重い口内炎、顎の骨が壊死(えし)する「顎骨壊死」、リンパ浮腫、内分泌障害など、日常生活そのものに大きく影響する症状が増えています。

内藤先生:がん治療が進歩したことで、多くのがんで生存期間が延びているのです。患者さんは「がんと共に生活する期間」が長くなっているんですね。
そうすると、上坂先生がおっしゃったような副作用をうまく対処していく方法がないと、治療そのものを続けることが難しくなってしまいます。

たとえば、皮膚や爪の障害が強く出て、靴を履けず外出できなくなってしまうといった、日常生活が大きく制限されるケースもあります。

上坂先生:もう1つ課題を挙げると、外来で治療を続ける患者さんが増えたことで、ご自宅で患者さん自身が副作用を管理しなければならない場面も多くなっています。

これを解決するには、医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士など、多職種で患者さんを支え、患者さん自身がどのように対処していくかをお教えする必要があります。

内藤先生:つまり、今は「がんを治療する」だけではなく、「生活しながら治療を続ける」ことを支える医療が必要な時代になっているのです。
こういった、患者さんが副作用とうまく付き合っていくために対処する方法を、支持療法といいます。

副作用を支えることが、がん治療そのものを支える

――ありがとうございます。支持療法によって、副作用への対応はどのように変わるのでしょうか。

上坂先生:実は、一部の分子標的治療薬では、皮膚障害が強く出るほど薬が効いている、ということが分かっているものがあります。
つまり、副作用が強いからといって単純に薬を止めてしまうと、患者さんにとって本来得られたはずの治療効果を失ってしまう可能性もある。
だからこそ、「どう副作用をコントロールするか」がとても重要になるわけですね。

内藤先生:実際、副作用が不安で治療を諦めてしまう方や、途中で中断してしまう方はいます。ですから、支持療法によって少しでも苦痛や不安が軽減され、「このサポートがあるなら治療を続けてみよう」と思っていただけるようにすることが、支持療法の大きな目標です。

上坂先生:もともと静岡がんセンターには「支持療法センター」があり、副作用への対応は行っていました。ただ、近年は副作用への対応そのものが、より専門的になってきています。そこで当センターでは、支持療法を含めた患者さんへの支援を専門的に提供する診療科として「支持医療科」を新設し、この問題に積極的に取り組むことにしました。

「支持療法」から「支持医療」へ――広がる役割

――なるほど。静岡がんセンターが今回開設されたのは「支持医療科」ですね。そもそも、支持療法と支持医療の違いはどこにあるのでしょうか。また、がん治療に伴う苦痛をやわらげる医療としては「緩和医療」もありますが、これとの違いも教えてください。

内藤先生:「療法」は、もともとは“治療の手段”を指しており、たとえば外科療法、薬物療法というように、ある特定の治療方法を指す言葉です。一方、「医療」はより大きな概念で、治療手段である「療法」は「医療」の中に包括されると考えています。

また、緩和医療と支持医療はオーバーラップする領域を含んでいると思いますが、静岡がんセンターでは、できるだけこの二つを分けて考えるようにしています。すなわち、がんそのものによって生ずる苦痛の治療を担う分野が緩和医療であり、治療によって生ずる副作用や合併症に対処する分野が支持医療であると考えています。支持医療という場合は、単なる副作用の対策だけではなく、患者さんががんと共に生活していくための支援全体を含む、という整理となります。

上坂先生:さらにいえば、「支持医療」という言葉は予防や原因の追究、研究、実際の治療まで含めた医療全体を含んでいます。たとえば、ある副作用について、なぜ起きるのかを研究したり、新しい治療法を開発したり、場合によっては治験を行ったりします。

診療科として「支持医療科」を作ることで、そうした医療の発展も含めて患者さんを支えていくことができるのではないかと考え、当センターではこの診療科を開設するに至りました。

国内3施設目、多職種で支える「支持医療科」

――「支持医療科」がある医療機関は、全国でどのくらいあるのでしょうか。

上坂先生:支持医療科という診療科そのものが、全国でもまだ非常に少ない状況です。静岡がんセンターが支持医療科を設置する前に支持医療科を緩和医療と独立して標榜しているのは国内で2施設だけでした。

そもそも支持医療という言葉自体、まだ十分に広まっているわけではありませんし、「支持療法を含めた患者さんへの支援を専門的に提供する」という発想も、まだ一般的ではありません。

また、支持医療は非常に範囲が広く、診療科として形を作るのが難しい分野でもあります。どんな患者さんを紹介すればよいのか、医療関係者の中でもまだ戸惑っている方は多くおられるでしょう。静岡がんセンターでは、他院で治療を受けている患者さんが副作用で困っている場合、その病院で治療を受けながら、支持医療科で副作用対策を引き受けます。2つの病院で連携しながら治療を進めるわけですが、是非活用していただきたいと思います。

ただ、今後がん治療がさらに長期化していくことが予想されるなかで、支持医療の必要性はますます高まっていくと思っています。ですから、「副作用を専門的に診る診療科がある」ということを、ぜひ知っていただきたいですね。

「何でも屋」にしない――静岡がんセンターが目指した形

――支持医療は非常に幅広い分野とのことですが、その場合、「何でも屋」のようになってしまう難しさはないのでしょうか。

上坂先生:そうですね。支持医療が対処すべき患者さんは、本当に多くの方が含まれます。ですから、支持医療の診療科を作る際、「がんの副作用でお困りでしたら何でも来てください」という形にすると、広く浅くなりすぎて、専門的な対応ができなくなってしまいます。

そこで我々は、静岡がんセンターだからこそ提供できる支持医療にフォーカスしようと考えました。
たとえば、抗がん薬による皮膚障害は、一般的な皮膚の病気とはかなり違います。長くがん医療に関わってきた皮膚科医だからこそ対応できる部分があります。
口腔粘膜炎(こうくうねんまくえん)についても同じです。がん治療に関連した口内炎を多く治療している歯科医師がいる。

そうした「静岡がんセンターががん医療の現場で積み重ねてきた経験」を生かせる領域に、できるだけ焦点を当てているのが、当センターの支持医療の特徴です。

内藤先生:そのため、我々は「皮膚・爪障害外来」「口腔ケア外来」「カヘキシア(悪液質)外来」「リンパ浮腫外来」「漢方外来」「セルフケア支援外来」の6つの外来を設置することにしました。

「セルフケア支援外来」が担うハブ機能

――なるほど。その6つの外来の中で、「セルフケア支援外来」は特定の症状に対処する外来ではないようですが、どのような医療を提供しているでしょうか。

内藤先生: この外来は、患者さんやご家族が、自宅で症状を管理できるよう支援する外来です。
看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士など、多職種が関わりながら、「どういうときにどこへ相談したらよいか」「どう予防したらよいか」といったことを一緒に考えていきます。

現在のがん治療は外来で通う形が普通になっています。つまり、患者さんは病院ではなく、自宅で治療を続ける時間のほうが長い。
しかし、夜中に熱が出ることもありますし、土日に発疹(ほっしん)や口内炎が悪化することもあります。

だからこそ、「症状が出てから対応する」のではなく、「症状が出る前から準備しておく」という視点が非常に重要であり、それを担うのがセルフケア支援外来です。

また、この外来はそれぞれの症状に対処する「専門外来」をつなぐ“ハブ”になる外来でもあり、多くの患者さんが「セルフケア支援外来」を受診できるようにします。

漢方外来も設置――さまざまな症状に向き合う

――支持医療科の専門外来の中では、「漢方外来」も特徴的だと思います。そもそも、がんの治療に漢方はよく使われるものなのでしょうか。

内藤先生:漢方をがんの支持療法として活用する取り組みは、近年かなり進んできています。特に、疲労感、しびれ、食欲不振など、現代医学だけでは十分な治療法がない症状について、漢方薬を処方する場面があります。

実際に、がんの支持医療の研究や発展を担う「日本がんサポーティブケア学会」では、漢方部会も設置され、研究やエビデンスの蓄積も進んでいます。

ただ、これは「がんそのものを漢方で治す」という話ではありません。あくまで、がんや治療に伴う症状を和らげ、患者さんが生活しやすくなることを目指すものです。

全てを解決できるわけではない――それでも前に進むために

――支持医療科は何でも屋ではない、というお話がありましたが、実際に支持医療科でも対応できない患者さんはいらっしゃるのでしょうか。

内藤先生:たとえば抗がん薬によるしびれは昔から大きな問題ですが、いまだに十分な治療法が確立されていません。当センターの支持医療科に相談いただいても、劇的に改善できないケースはあります。

私たち自身、肝に銘じているのは、支持医療は万能ではないということです。だからこそ、「支持医療にはまだ課題がある」ということを明確に認識し、それを克服すべく研究や開発につなげていきたい。これも支持医療科の大切な役割だと思っています。

日本発の取り組みが、アジアにも広がっている

――先ほど、支持医療という言葉は日本ではまだそれほど広まっていないと話されていましたが、世界に目を向けると、支持医療はどのように発展しているのでしょうか。

内藤先生:支持医療は、世界的にみても新しい医療です。これに関する国際的な学会は1990年になって欧米で初めて設立されました。

日本では2015年に日本がんサポーティブケア学会が設立されました。現在では、韓国や中国をはじめ、各国に支持医療の学会設立が広がってきています。
韓国の学会は、日本の学会をモデルに設立された経緯もあり、現在は両国で合同シンポジウムも行われています。日本で積み重ねてきた支持医療の考え方や体制づくりが、アジア各国にも広がりつつある状況です。

上坂先生:現在の支持医療の世界での広まりをみていると、日本でもこれから、支持医療はもっと広まっていくだろうと考えています。

――今後、静岡がんセンターの支持医療科はどのように発展していくとお考えでしょうか。

内藤先生:現在も、静岡県内だけでなく、県外の医療機関から患者さんをご紹介いただくケースがあります。特に、「副作用への対応だけでも相談したい」という形でご紹介いただくことも増えており、実際、静岡がんセンターで支持医療を行いながら、抗がん薬治療そのものは地元の病院で継続する、といった形で治療をされている患者さんはいらっしゃいます。

ただ、支持医療科が対応することだけのために、患者さんが遠方からずっと静岡がんセンターへ通い続けるのは難しい場合もあります。ですから今後は、地元の病院でがん治療を続けながら、必要なときにオンライン診療などを活用しながら支持医療の専門家がサポートする形へと広げていきたいと考えています。

「副作用は我慢するもの」ではない

――最後に、この記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします。

上坂先生:新しいがん治療が増える一方で、副作用に苦しむ患者さんもたくさんいらっしゃいます。支持医療科は、そんな方の悩みに向き合い、副作用を専門的に扱う診療科です。もし今の治療で困っていることがあれば、「こういう診療科がある」ということを知っていただきたいと思っています。

内藤先生:これまで、「副作用は自分で対処するもの」と思っていた患者さんも多かったと思います。でも今は、支持医療という領域があって、そこには専門家がいます。

もちろん、全てを解決できるわけではありません。それでも、「もっと楽に治療を続けられる方法があるかもしれない」と知っていただくことは、とても大事なことだと思っています。

治療を続けるなかで困っていることがあれば、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。支持医療という選択肢が、治療を支える力になれるかもしれません。
 

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