武蔵小杉あがわ内科・消化器クリニック 院長/阿川 周平 先生
みぞおちのあたりがなんとなく重い。背中に鈍い違和感が続いている。そんな変化があっても、病院に行くほどではないだろうと様子を見てしまう人が多いかもしれない。
膵臓(すいぞう)は、消化や血糖調整を担う重要な臓器でありながら、異変があってもはっきりした症状が出にくいことで知られている。膵臓の病気の代表格である膵炎(すいえん)や膵臓がんは、初期には自覚症状がほとんどなく、健診での数値異常や画像検査で偶然見つかることもある。
神奈川県川崎市中原区にある武蔵小杉あがわ内科・消化器クリニック(新丸子駅)の院長・阿川 周平(あがわ しゅうへい)先生は、日本消化器病学会認定の消化器病専門医・指導医として膵臓の病気の研究や診療に携わってきた医師だ。そんな阿川先生に、膵臓の病気や見逃されやすいサイン、受診の目安などについてお話を伺った。
膵臓は、胃の裏側に位置する長さ15cmほどの臓器です。食べ物を分解する消化液を分泌し、さらに血糖値を調整するインスリンなどのホルモンをつくるという、2つの重要なはたらきを担っています。
消化と血糖調整という生命維持に欠かせない役割を持ちながら、日常生活の中で膵臓を意識する機会はほとんどありません。肝臓や腎臓のように数値で話題になることも少なく、痛みが出やすい臓器でもないため、異変が起きていても気付きにくいのです。
だからこそ、膵臓の病気は「知らないうちに進んでいる」という印象を持たれやすい臓器でもあります。
膵臓の病気は、急性膵炎や慢性膵炎などの「炎症性疾患」と、膵臓がんなどの「腫瘍性疾患(しゅようせいしっかん)」に分類されます 。
急性膵炎は、膵臓の消化酵素が膵臓内で活性化し、自分自身の組織を傷つけてしまう病気です。みぞおちから背中にかけての強い痛みをはじめ、吐き気や嘔吐、発熱などを伴います。重症化すると、血圧低下や呼吸障害などによって全身状態が悪化することもあります。原因としては、男性ではアルコールの多飲が最も多く、次いで胆石が挙げられます。
慢性膵炎は、小さな炎症が長年にわたって繰り返されることで、膵臓の組織が徐々に破壊され、機能が低下していく病気です。男性ではアルコールが関与しているケースが多い一方、女性では特発性(原因不明)の割合が高いことが特徴です。そのため、特に女性の場合は「お酒を飲まないから膵臓の病気にはなりにくい」とは一概にはいえず、飲酒習慣のない方でも注意が必要です。
初期の症状は、みぞおちから背中にかけての痛みが中心ですが、進行すると消化酵素やインスリンの分泌が減少し、脂肪便や体重減少、糖尿病などを伴うことがあります。また、慢性膵炎を長期間放置すると、膵臓がんのリスクにつながる可能性があるとされています。
膵臓がんは初期症状に乏しいことで知られており、みぞおちや背中の違和感、食欲低下、体重減少、黄疸(おうだん)などが現れたときには、すでに進行している場合もあります。そのため、慢性的な炎症の段階で適切な治療や生活習慣の見直しを行い、継続的に状態を確認していくことが重要です。
いずれの病気にも共通しているのは、「はっきりとした症状が出にくい時期がある」という点です。
実際の外来では、激しい腹痛よりも、健診の再検査をきっかけに膵臓の病気が発見される方が少なくありません。
血液検査で膵酵素のアミラーゼやトリプシンが少し高いと言われた。腹部エコーで膵臓に嚢胞があると指摘された。これまで問題なかったのに、急に血糖値が不安定になった。どれも日常生活に大きな支障はなく、痛みもないため様子を見てしまいがちです。しかし、慢性膵炎や腫瘍性病変の初期では、こうした数値の変化が唯一の手がかりになることがあります。
また、なんとなくみぞおちが重い、背中に鈍い違和感が続く、飲酒や脂っこい食事の後に痛みが強くなる、体重が少しずつ減っているといった変化も見逃せません。
膵炎や腫瘍が疑われる場合、確定診断には造影CTなどの精密検査が有用とされています。ただし、全ての方に高度な検査が必要になるわけではありません。地域のクリニック(かかりつけ医)で行われる血液検査や腹部超音波検査でも、一定の評価を行うことは可能です。
急性膵炎では膵酵素の上昇や炎症反応がみられることがあり、慢性膵炎では膵管の拡張や膵石が確認されることがあります。診察や検査結果を踏まえ、かかりつけ医が必要に応じて速やかに専門的な医療機関へ紹介することで、患者さんを適切な治療につなげているのです。
膵臓は自分から強く訴えてくれる臓器ではありません。だからこそ、健診結果や体の小さな変化を軽く見ないことが大切です。早めに相談することが、未来のご自身を守ることにつながります。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。