綾瀬駅前 臼井クリニック 院長 臼井 健人 先生
不妊治療と聞くと、女性の場合は子宮や卵巣の状態を整える治療を思い浮かべる人が多いかもしれない。確かに、排卵誘発やホルモン療法など、子宮や卵巣に関わる治療が中心となるケースもある。ただ、妊娠に至るプロセスを医学的にひもといていくと、受精が成立する場として、卵管の役割にも目を向ける必要がある。
卵管はまさに妊娠の出発点ともいえる臓器だが、何か異常があっても自覚症状は少なく、検査や治療が後手になりがちだ。「不妊の背景には卵管が関わっている場合もあるので、子宮や卵巣に大きな問題が見つからなかったからといって、不妊治療そのものを諦めないでほしい」。そう語るのは、東京都足立区にある綾瀬駅前 臼井クリニックの院長であり、日本不育症学会 認定医などの専門医資格を持つ臼井 健人(うすい けんと)先生。臼井先生に、不妊治療における卵管の役割や治療の選択肢についてお話を伺った。
女性の患者さんから不妊治療の相談を受けていると、多くの方がまず子宮や卵巣の状態を思い浮かべていることを実感します。排卵を促す治療やホルモンの調整、子宮内膜の状態を整える治療など、説明の中心も子宮や卵巣に関わるものになりやすいからです。
ただ、妊娠に至るまでの過程を医学的にみていくと、卵子が排卵され、精子と出会い、受精卵となる最初のステップがあります。この受精が成立する場所は、子宮でも卵巣でもなく、卵管です。
卵管は非常に細く繊細な臓器で、炎症や癒着の影響を受けやすい一方、異常があっても痛みなどの自覚症状が出にくい特徴があります。そのため、子宮や卵巣に目立った問題が見当たらず、不妊治療が思うように進まないときには、卵管に原因が隠れている可能性も考える必要があります。
卵管の通過性を調べる検査(卵管造影、通水検査)を行うと、何らかの問題が見つかることがあります。医療の現場では卵管因子と呼びますが、簡単にいえば、卵子や精子の通り道である卵管が狭くなっていたり、何らかの原因でうまく機能していなかったりする状態です。
卵管因子がある患者さんの中には、卵管の通過性を改善する治療を検討できるケースがあります。卵管の狭い部分や通りの悪い部分にアプローチしますが体への負担も少なく、日帰りで行う方法が中心で、処置にかかる時間も長くはありません。
この治療によって、自然妊娠を含めた選択肢を再び検討できる状態に近づく方もいます。
ただし、卵管の通過性を改善する治療は、全ての方に適応できるわけではありません。卵管が完全に閉塞(へいそく)している場合や、炎症や癒着が強く、卵管そのものの機能が大きく損なわれている場合には、治療によって十分な改善が見込めないこともあります。また、卵管の状態だけでなく、年齢や卵巣機能、これまでの治療経過などを総合的に考慮する必要があります。
不妊治療に取り組むなかで、ある治療を試しても結果につながらないと、他に道がないと感じてしまう方もいると思います。特に体外受精で思うような結果が出なかった場合、その気持ちは強くなりがちです。
しかし、不妊の原因は1つではありません。卵管、子宮、卵巣はそれぞれが関わり合いながら、妊娠というプロセスを支えています。1つの治療で結果が出なかったとしても、それが不妊治療の終わりを意味するわけではありません。不妊治療として大切なことは原因を丁寧に探り、いろいろな選択肢を試しながら進んでいくことです。それが結果的にその方にとって納得のいく治療につながります。
今回お示ししたように、子宮や卵巣だけでなく卵管も含めて見直すことで、次の一歩が見えてくる場合があります。不妊治療を行う医療機関では、専門的な視点で原因を見極めながら、患者さんと一緒に治療の道筋を探します。不妊治療には多くの可能性があり、その一つひとつを丁寧に探していくことで、幸せに近づく道はきっと見えてきます。その可能性を、より多くの方に知っていただけたらと願っています。
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