女性と生まれてくる子どもたちの健康と幸せを守る産婦人科医。第77回日本産科婦人科学会学術講演会が2025年5月23~25日、岡山コンベンションセンター(岡山市)他で開催されます(現地開催・オンデマンド配信ありのハイブリッド開催)。会期中の5月24日には日本癌学会主催の市民公開講座「女性のがんと予防」も同時開催されます。学術集会長を務める増山寿先生(岡山大学学術研究院医歯薬学域 産科・婦人科学 教授)に学術講演会の見どころ、現在の産婦人科医療の課題、今後に向けた思いを伺いました。
本学術講演会では、松尾芭蕉が示した俳諧の理念である「不易流行(ふえきりゅうこう)」をテーマとして掲げました。これは私が責任者を務める岡山大学学術研究院医歯薬学域 産科・婦人科学教室の基本方針でもあり、いつまでも変わらない本質的なものを大切にしながらも、新しい変化を積極的に取り入れて次の世代へつないでいく姿勢と考えています。近年、産婦人科の医療は著しく進歩していますが、ポストコロナ時代の到来、また医師の働き方改革の施行もあり、混沌とした時期でもあると思います。こうした時代の中では、あふれる情報をいかに俯瞰(ふかん)して、私たちが守るべき本質を見失うことなく、次の世代に何が必要か見極めていくことが非常に重要です。プログラムを検討する際にはこのような考え方を基本的なコンセプトとして大切にしてきました。
5月24日には、岡山大学鹿田キャンパスで日本癌学会主催の市民公開講座「女性のがんと予防」が開催されます。招請公演にも登壇いただく日本癌学会前理事長の間野博行先生(国立がん研究センター研究所)、そして小川千加子先生 (岡山大学学術研究院医歯薬学域 周産期・小児救急医療学講座)、細野祥之先生 (岡山大学学術研究院医歯薬学域 薬理学分野)、三木義男先生(筑波大学 プレシジョン・メディスン開発研究センター)にご講演いただきます。5月21日まで参加申し込みを受け付けていますので、多くの皆さんのご参加をお待ちしています。
少子高齢化社会における産婦人科医のミッションは、女性の健康を生涯にわたりサポートし、さらに健やかな次世代を育んでいくことだと考えています。現状、初めて産婦人科を受診される契機としては妊娠のタイミングが多いのですが、できればHPVワクチンの接種が始まる小学校6年生から中学3年生頃の時期からかかりつけの産婦人科医を持っていただきたいです。妊娠・出産の時期を過ぎた後の更年期や老年期においても女性のヘルスケアは非常に重要ですので、ぜひ気軽にかかりつけの産婦人科医にご相談いただけたらと思っています。
日本癌学会より許可を得てウェブサイト(https://cgm.hsc.okayama-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/04/20250524%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%99%8C%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E5%B8%82%E6%B0%91%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%AC%9B%E5%BA%A7.pdf)から転載
今回の学術講演会では、会長講演、招請講演、シンポジウム、教育講演、ハンズオンセミナーなど3日間に渡り、多彩なプログラムを用意しました。
会長講演のテーマは「次世代を育む」としました。私の専門は周産期医療ですが、日本の周産期死亡率と妊産婦死亡率はともに低く、その医療レベルは世界でもトップクラスです。近年の研究により、胎児や生まれてすぐの赤ちゃんの頃の栄養状態が、大人になってからの健康に影響を及ぼすことが明らかになってきました。そのため、これまで周産期は、妊娠中から赤ちゃんが生まれて間もない時期の医療を意味していたのですが、これからはより視野を広げて、次の世代の健康管理まで考えて周産期医療を行っていくことが重要であると考えています。また、幅広い視野を持つ産婦人科分野を担う次の世代の医師を育成していくことも大切ですので、こちらもしっかり取り組んでいきたいと思っています。
招請講演は3つ用意しています。1つ目は那須保友先生(岡山大学学長、泌尿器科医)の「不易流行~ヒト・地域・地球の健康を考える~」です。2つ目は岡山県高梁市ご出身で日本癌学会の前理事長である間野博行先生に「ゲノム情報で変革するがん研究・がん医療」についてご講演いただきます。そして3つ目は岡山県倉敷市にある大原美術館から三浦篤館長をお招きして「大原美術館とこれからの芸術研究」についてお話しいただく予定です。
国際産婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics : FIGO)、アメリカ産婦人科学会(The American College of Obstetricians and Gynecologists : ACOG)などから登壇者をお招きした特別セッション(Plenary Lecture)「女性リーダーからのメッセージ(Message from Women Leaders)」も企画しています。日本産科婦人科学会を含め、これら3つの団体のリーダーは全員女性であり、これからのリーダー像について語りあっていただけることを期待しています。
また、国際交流という面では、韓国、台湾、ドイツ、アメリカなどさまざまな国から若手の先生方が参加され、ワークショップを行う予定になっています。今回は一般演題として1300演題ほどの公募がありましたが、そのうち400演題ほどは国際セッション(International Session)です。岡山を舞台に、海外の方を交えて英語で発表や討論ができる点は非常に喜ばしく思っています。
今回は岡山での現地開催とWebでのオンデマンド配信を併せて行うハイブリッド開催を予定していますが、可能であればぜひ現地に足を運んでいただき、岡山ならではのおもてなしを楽しんでいただけたらと思っています。皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
日本産科婦人科学会は、日本の産婦人科関連の学会の中で最も大きな規模を誇ります。そのため、周産期医学、婦人科腫瘍、生殖内分泌、女性ヘルスケアといった全ての専門領域で非常に多岐に渡るテーマを扱っています。
周産期医療においては、妊婦の高齢化や合併症妊娠、技術の進歩の著しい体外受精などの生殖補助医療による妊娠例が増加しており、少子化が進行する中でもハイリスクの妊産婦さんの割合は急激に増加しています。そのため、安全に分娩できる体制をどのように維持していくかは重要な問題で、特に地方においては喫緊の課題です。2024年4月から施行された医師の働き方改革によって医師の時間外労働時間に上限規制が設けられるなか、医療安全を確保していくためには、それぞれの地域の実情に合わせた丁寧な議論が不可欠です。今はまさにその転換期にあり各地域で模索が続いています。日本産科婦人科学会はさまざまな地域の状況を調査し、他の地域の参考になる好事例(モデルケース)を紹介しています。学会のさまざまな調査結果に基づき、地域の状況に応じた持続可能な産婦人科、特に周産期医療体制の構築に向けて、日本産科婦人科学会から厚生労働省へ政策提言を引き続き行っていく必要があると思います。
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