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「つながる」キーワードに日本癌学会学術総会、9月に金沢で開催

公開日

2025年08月22日

更新日

2025年08月22日

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2025年08月22日

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日本癌学会・大島正伸理事長インタビュー【後編】

日本癌学会の理事長に2025年、就任した大島正伸先生(金沢大学がん進展制御研究所 腫瘍遺伝学研究分野 教授)は、同年9月に金沢市で開かれる第84回学術総会の学術会長も兼任します。金沢市での学術総会は1969年の第28回以来56年ぶりです。市民が参画し、がん研究支援者の育成を目的に毎年学術総会に組み込まれている「サバイバー・科学者プログラム(Survivor・Scientist Program:SSP)」が今回で10周年を迎えることから記念イベントなども準備されているほか、医学部の学生による研究発表プログラムや日韓ジョイントシンポジウムなど、さまざまな趣向を凝らしたプログラムが用意されています。学術総会の見所などについて、大島先生に伺いました。

立場、国境、世代を超えたつながりの場を提供

私は2025年3月に日本癌学会理事長に就任しました。巡り合わせで、9月25~27日に金沢市で開催される第84回学術総会の学術会長を務めることがそれ以前に決まっていました。

テーマは「未来への希望と共に、つながるがん研究」で、つながるというキーワードを強く意識しました。組織にとっても多様性が重要ですし、研究においても領域や分野、あるいは考え方の異なる多様な人々が議論することが推進力になります。企業の創薬研究者とアカデミアの研究者、400~500人ほど訪れる予定の海外の研究者と日本の研究者、あるいはシニアと若手など立場や国境、世代を超えてつながる場を提供することが新しい研究誕生の原動力になり、新たな診断・予防・治療の創出につながることを期待しています。

がん研究支援者の育成目指すSSP、10周年式典も

がん経験者・患者会リーダーと研究者のパートナーシップ構築を目的に、今回の学術総会でも「サバイバー・科学者プログラム(SSP)」を企画しています。SSPは、がんの基礎研究が一般の方々に理解されにくいという問題を克服し、がん研究のアドボケーター(支援者)を、がんサバイバー・患者会のリーダーとして育成することを目的に2015年にトライアルを開催。翌2016年の第75回学術総会で第1回のSSPが開催され、10年にわたり続けられています。SSPによって、患者さんやサバイバーにがんに関する教育や理解は広まってきた一方で、アドボケーターがなかなか育っていないという課題があるため、がん研究を支援してくれる方が育つようなシステムにしていくことが必要だと思っています。

SSPでは、基礎講座として最新・最先端のがん研究についての講演(6コース)を聴講するほか、シンポジウムの聴講、ポスターセッションへの参加もできます。さらに、あらかじめ決めてある2つのトピックスについて、専門の先生を交えてグループディスカッションし、最終日にプレゼンテーションの形でまとめて発表していただきます。

今年は10周年にあたり、記念イベントやSSPに関するワークショップも企画しています。

患者さんやサバイバー、ご家族との連携は日本癌学会の理念でも大きな位置を占め、SSPは重要なプログラムですので、より多くの方に参加していただけるよう努めています。オンライン参加は8月31日まで応募を受け付けています。詳細はウェブサイトをご参照ください。

「変化」楽しめるプログラムを考案

1941年創立の日本癌学会は長い歴史を持ち、過去の学術総会は成熟した“型”に合わせて運営されてきました。2023年に学術会長を務めた間野博行先生(国立がん研究センター理事長)が新しい風を入れ、2024年の九州・福岡に続いて地方で開催するにあたり、“中央”を気にせず変化を楽しんでもらえるプログラムを考えました。

今年の学術総会では、いくつかのシンポジウムで事前に各50分の「エデュケーショナルレクチャー」を設定しています。専門外の人や大学院生などテーマに関して詳しくなくとも、朝会場に入って昼までいれば、そのテーマの基礎から最新の情報まで理解できるようなプログラムになっています。

シンポジウムに関しては、これまでは学会側で演者を決めていました。今回は思い切って半分を公募したところ、思った以上に多数の応募があり、切り口も私たちが考えるのとはかなり違ったものを、若い人や日本癌学会の会員ではない人が出してくれました。定型からは外れるのですが、今回は個々の時間を短縮してできるだけ多くのシンポジウムを詰め込みました。

会長としてやりたかった企画

私自身が学術会長としてどうしてもやりたかった企画がいくつかあります。その1つが韓国癌学会(KCA)とのジョイントシンポジウムです。アジア各国の癌学会は米国癌学会(AACR)と1対1の関係を持っているのですが、特に基礎研究のネットワークがアジアの中ではあまりないため、構築していきたいと思っています。今回、アジアから約500人もの参加があるなかで枠組みを拡大して、日韓のほかに中国、シンガポール、カナダの先生にもご参加いただき、「Cancer Research in Asia」というタイトルで開催することにしました。

もう1つが「岡本肇記念シンポジウム」です。岡本先生は金沢大学がん研究所の初代所長で、56年前に金沢で初めて日本癌学会の学術総会が開かれたときの学術会長です。岡本先生はがん研究所で、免疫を活性化させてがん細胞を殺す成分を溶連菌から採取しOK-432という免疫賦活薬を開発しました。がん免疫療法のはしりといえる発見で、それをもとに企業が製薬につなげました。今回の学術総会では岡本先生の業績にちなみ、「出口志向のアカデミア発創薬技術」と題して製薬企業の研究者と共にアカデミア発の創薬研究をメインテーマにしたシンポジウムを行います。

若手育成策として今回、初めての試みで医学部の学生さんたちが発表する「研究者のたまご・ひよこセッション」を設けました。7、8人の医学部生が発表し、日本癌学会の会員も加わってディスカッションします。セッションには地元の高校生にも参加してもらい、将来を担う若い人たちにがん研究の魅力を知ってもらおうと考えています。

異分野の人とつながる機会にも

学術総会は、特にここ数年間の、世界における目覚ましいがん研究の発展、技術革新の勉強をする機会を作ることを目的にしています。それに加えて、「つながるがん研究」ということで、たとえばベンチャーキャピタルの人たちと連携を育むといったように、普段は接触することがないような異分野の人とつながる機会にもなります。プログラムにはあまり書いていないことを含めてさまざまな仕掛けを作っています。

また、演題数が2000を超え、おそらく過去最高になる予定で、参加者も5000人に達するのではないかと見込んでいます。海外の人も含めて多様なバックグラウンドの人たちが多彩な発表をする予定です。参加者には、せっかくの機会なので自分の研究領域だけではなく、臨床なら基礎、あるいは自分の専門と異なる臓器――など、違う領域のセッションに出て、積極的に異分野の先生と交流し、つながってほしいと期待しています。それががん研究の発展につながると思いますし、それができるようプログラムを用意しました。ぜひ、金沢にお越しください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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