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コロナ禍の教訓生かし感染症、自然災害に強い日本へ―横倉義武・前日本医師会長の思い

公開日

2021年09月06日

更新日

2021年09月06日

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2021年09月06日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年09月06日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

世界で感染者数が2億人を超えた新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)。ワクチン接種が進む一方で、国内では変異型の流行により感染者数が急増し、医療の逼迫(ひっぱく)が危惧されています。未曾有の感染症との闘いを経て、医療・社会のあり方を問い直す必要が出てきました。将来を見据えて感染症と自然災害に強い社会をつくるべく「ニューレジリエンスフォーラム」を設立した日本医師会名誉会長(前日本医師会会長)の横倉義武先生に、コロナ禍で浮き彫りになった課題と今の思いを伺いました。

日本の医療は「ギリギリの状態」で回っていた

コロナ禍で明らかになったのは、これまで日本の医療が「ギリギリの状態」で回っていたことです。平時には問題なかったはずの医療提供体制、人材・資材などの医療資源は、未曾有の感染症に対応するには不十分でした。

たとえば第1波の頃は検査体制の整備が十分でなく、検査が必要な場合でもすぐに対応できない状況が続きました。これでは、感染対策の鉄則である「早期発見/診断と陽性者の隔離」が困難です。これに対しては、総理大臣など関係者に拡充のお願いを続けてきました。また、マスクや手袋、フェイスシールド、ガウンなどの感染防護具が医療現場で枯渇し、感染疑いの方を診る医療機関を限定せざるを得ませんでした。これも早期発見・診断を困難にさせる一因となり、さらには患者さんの不安につながってしまったと思います。

都道府県の枠を超えた医療提供体制の構築へ

今後のあり方として、平時から医療資源の充足度を上げておくことは当然重要です。さらに現在のような都道府県単位の医療提供体制ではなく、都道府県という枠を超えた体制を構築する必要があるでしょう。

たとえば地域別の体制構築のモデルケースとなるのは、神奈川県の例です。同県では、体外式膜型人工肺(エクモ:ECMO)や人工呼吸器が必要となる重篤な方は大学病院などの高度医療機関が対応し、酸素投与+αを要する中等症の方を重点医療機関(新型コロナ患者専門病床・病棟のある医療機関)などで診療する「神奈川モデル」を構築。早くから新型コロナウイルス感染症の診療にあたってきました。

MN作成

現在では、多くの地域で同じようなシステムが採用されています。今後はさらに都道府県の枠を超えて平時からの体制・ネットワークを構築し、有事の際に全ての医療機関が迅速に協力できる体制を目指します。

医療界のICT・PHR利活用の遅れ

もう1つの大きな課題は、日本の医療界の情報通信技術(ICT)の遅れです。

実際、いまだに多くの医療現場で紙ベースの情報が扱われています。電子カルテなどデジタル化が進んだ部分もありますが、データの標準化が進んでいません。このままでは蓄積したデータが医療機関の間で共有できず、活用する術がないのです。プラットフォームを統一するために、今後は供給元の認証制度などを設定する必要があるでしょう。

また、パーソナルヘルスレコード(PHR:個人の健康・医療・介護などの情報)の利活用もまだまだ進んでいません。今、新型コロナワクチンの接種記録が紙ベースで行われていることがそれを象徴していますね。今後の緊急事態に備え、マイナンバーカードを介したPHRの活用を進める必要があります。

法的整備やコミュニケーションにも課題

法的整備や情報伝達・コミュニケーションについても課題が残ります。

第1波の頃は初めての事態に対する国民の不安から、緊急事態宣言は効果を示しました。しかし繰り返される緊急事態宣言にだんだんと緊張感が薄れ、また、精神的にも社会生活の維持においても「もう我慢できない」という方が出てきて、今はもう国からの要請では国民に声がうまく届かず、行動変容を促せない状況です。こうなると、もはや要請ではなく法的整備を考える必要が生じてきます。

同時に、国民へのメッセージをより科学的・具体的に伝えることの重要性も感じています。たとえばCOVID-19の主な感染経路は口ですから、単に「外出しないで」と制限するよりも「感染経路となる口、唾液、飛沫などをブロックする重要性」を伝え、その方法として「酒類を伴う飲食の時間の短縮」を徹底する――。このような科学的見地に基づいた具体的なメッセージを伝えることが重要と認識しています。

PIXTA:MN購入

写真:PIXTA

感染症と自然災害に強い社会へ

コロナ禍を契機に、感染症と自然災害に強い社会をつくるべく2021年6月にニューレジリエンスフォーラムを設立しました。医療・経済界、防災・自治体関係などさまざまな団体が一体となり、感染症や自然災害などの緊急事態に対応するべく議論を行っています。レジリエンスとは、「弾力」「復元力」という意味で、すなわち困難な状況にうまく適応する能力を指します。

日本はこれまでに地震や水害などの天災に数多く直面し、さらに世界的なパンデミックとなったCOVID-19で社会は大きく混乱をきたしました。とりわけコロナ禍では、医療のあり方が強く問われていると感じています。

ワクチン接種も進み、発熱外来の設置や陽性者の対応方法など、COVID-19の対策はだいぶ進んできました。ただし、温暖化の進む地球の状況を考えると、新型コロナウイルスが収束したとしても近い将来再びパンデミックが起きる可能性は十分にあります(温暖化による気温や降水の変化、媒介生物の生態の変容などが感染症の流行に影響するため)。また、そのほかの自然災害やテロなどの人為災害によって「緊急事態」が発生することもあるでしょう。

そのようなとき、我々は迅速に緊急時の体制へ移行し、国民の生命・健康を守らなければならない。それが医療界としての使命です。不測の事態において人命と健康を守るために、当フォーラムを通じて平時からの議論と体制構築に努めます。

総会の様子

フォーラム設立総会の様子(横倉義武先生)

日本医師会会長退任から激動の1年 今思うこと

コロナ禍で人命vs経済、リベラルvs保守などに見られる「社会の分断」が指摘されています。このまま分断が進めば、国のあり方としては望ましくない状況に陥るでしょう。

社会の分断を回避するのに必要なものは、人々が互いに助け合うこと。それを実現するためのツールの1つが「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:全ての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態)」です。社会の分断が危惧される今こそ、その重要性が増すのだと思います。

医療は何のために、誰のためにあるのか?――それはひとえに「国民のため」です。私たちは今一度そのことを認識し、国民に寄り添う医療を追求しなければなりません。医療は人生のさまざまな場面に関わるもの。どんな場面でも、その人に寄り添う医療でなければならないのです。

医療は「医療者と患者との信頼関係の上に成り立つもの」ですから、あらためて我々が身を律していく必要性を感じています。そして国民の皆さんには、専門家を信頼し、方策を実施していただきたいです。自分や大切な人を守るために、共に頑張りましょう。

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