連載トップリーダー 語る

「モルック」体験会など参加型企画も―日本リウマチ学会、山形市で市民公開講座開催

公開日

2024年04月17日

更新日

2024年04月17日

更新履歴
閉じる

2024年04月17日

掲載しました。
F3ac4bebc6

第68回日本リウマチ学会総会・学術集会が2024年4月18~20日、神戸コンベンションセンターを会場に開催される。学術集会に関連して、今年は5月12日に山形市内で一般向けの市民公開講座が開かれる。公開講座ではリウマチについて正しい知識を得られるだけでなく、ウェルビーイング(Well-being)の視点から、近年知名度が向上しているフィンランド発祥のスポーツ「モルック」の体験会をはじめ参加して楽しめる企画も予定されている。会長を務める髙木理彰先生(山形大学医学部整形外科学講座教授)に、市民公開講座の見どころやリウマチ治療の進歩と内包する課題、リウマチ学の魅力などについて聞いた。

市民公開講座、地元出身クラリネット奏者の演奏会も

一般の方向けには、「リウマチとウェルビーイング」と題した市民公開講座を山形市内で開くべく準備しています。ウェルビーイングは、well(よい)とbeing(状態)からなる言葉です。世界保健機関(WHO)は、ウェルビーイングを「個人や社会が経験するポジティブな状態のことである。健康と同様、日常生活の資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決定される」と紹介しています。ウェルビーイングとはどのようなことなのか、自分にとってのウェルビーイングとは何なのか、それぞれの考え方があるでしょう。患者さんやそのご家族、彼らを取り巻く社会がよりよい状態になることで健康になろうということも、市民公開講座のテーマに含めています。

従来、市民公開講座は半日でしたが、今年は2部構成にし、リウマチという病気や健康な生き方について学んでいただくだけでなく、ウェルビーイングの視点から、フィンランド発祥の「モルック」というスポーツの体験会など、参加して楽しめる企画も用意しました。

関節リウマチはとても有名ですが、リウマチ性疾患には他にも膠原病(こうげんびょう)や高齢の方がとても困っている変形性関節症、脊椎関節炎など多様な症状を呈する病気が含まれます。そうした全体像を知っていただいたうえで、金子祐子教授(慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科)に関節リウマチや膠原病の薬物治療の進歩についてお話しいただきます。

リウマチと変形性関節症を中心に超高齢社会で患者さんが抱える問題点や、さまざまな要因で体調が悪くなるといったお話の後、地元の開業医の先生や山形大学の内科医を交えて総合討論をします。

今、インターネットを通じてさまざまな“講座”を見られるようになったなかで、市民公開講座の在り方は変わってくるのではないかと思っています。その実践として、体を動かしたり、地元・山形出身のクラリネット奏者と出身中学の吹奏楽部による演奏を楽しんでいただいたりする参加型イベントも予定しています。

オンライン開催では著作権や情報保護などの課題があり、残念ながら今回は現地開催のみとなります*。

*市民公開講座は2024年5月12日10時~15時35分、山形市双葉町1のやまぎん県民ホールで開催。入場無料。定員500人(先着順)。チラシ記載の2次元コードもしくは電話(023-664-0295)で申し込む。

「本質をとらえる」目指すテーマ、ポスターに“3つの意味”

今回のテーマは「流心をとる Catch the essence」としました。川面は非常にフラットに見えますが、実はその下に流心という“川の中心”があります。そこにフライ(毛ばり)を流さないとサケに出合えないという故郷のある老練な釣り師の言葉から、見えるものと見えないもの、あまたある情報の中から本質をとらえる力を養ってもらいたいという思いを込めて決めました。米国ミネソタ州に住んでいる釣り仲間に相談したところ「Catch the essence」という英語のタイトルを贈ってくれました。

ポスターには3つの意味が込められています。写っているのは山形県を流れる早春の赤川の河口付近。遡上するサクラマス(チェリーサーモン)を釣りに行った際、袖浦橋から見た日本海に沈む夕陽があまりに美しかったので撮影した写真です。リウマチの語源は、流れるという意味のギリシア語「rheuma(リューマ)」に由来し、テーマの「流心をとる~Catch the essence~」のほかに、リウマチ患者さんやそのご家族の気持ちに寄り添うということも表しています。また、リウマチ学は炎症をいかに抑えるかが大きなテーマです。沈みゆく夕陽は炎症を抑制することの象徴です。ポスターの下には開催地・神戸市の美しいウォーターフロントの夜景を配しました。震災から復興した街並みにリウマチの炎症で傷んだ組織再生への願いも重ねてみました。

研究・臨床通しリウマチ学発展への貢献目指す

リウマチは治療薬の発達で治癒が期待できる病気になりましたが、こうした新しい薬は高価なため治療に乗り出すには高いハードルがあります。リウマチの炎症は組織を破壊するため、早く治療を始めたほうが予後はよいのですが、新しい薬を使い始めるには二の足を踏む方も少なからずいます。ときに経済や家庭環境などの要因で治療に積極的になれないというのが現実もあります。

リウマチをはじめ若い時期に発症する病気も含まれ、患者さんの高齢化と合わせると、リウマチ性疾患による社会の負担は非常に大きいものがあります。高額ですが、うまく薬を使って治療すれば、より予後の改善が見込める時代となりました。それによって社会復帰やより積極的な社会参加が可能になり、社会が好循環するという面に目を向けることも大切だと思います。患者さんやそのご家族、治療を担う医療体制を社会全体で支えていくことはとても大切と考えています。薬の治療をはじめリウマチ治療全般についても医師と患者さんだけの問題ではなく、社会全体で考えてもらいたいと思っています。社会経済的な側面にも配慮しながら、リウマチ性疾患の研究・臨床を通して日本のリウマチ学の発展に貢献すること、リウマチ診療のいっそうの向上を図ること、多職種・多分野連携、国際化といった”流れ”が、今の日本リウマチ学会に求められる大きな役割だと思っています。

患者が治療で取り戻した笑顔が原動力に

私が整形外科医を志すきっかけは、痛みで体が動きにくくなった患者さんが治療で笑顔を取り戻して社会に復帰する姿を、学生時代を含めて目の当たりにしてきたことでした。一方で、医師免許を取った1986年ごろはリウマチの治療がうまくいかず、地方の大学病院の整形外科病床には、関節リウマチを長期間患って動けなくなった患者さんが非常に多く入院していました。整形外科医の視点からリウマチ性疾患に苦しむ患者さんやご家族の役に立ちたいと思い立ったことが、リウマチ学を志すきっかけになりました。

リウマチの患者さんの診療を始めた当初は、いくつかあった薬も効果の実感は乏しく、外来で患者さんと言葉もなく悩む、といった時代でした。それから10年ほどしてメトトレキサートという薬が使えるようになり、治療に期待ができるようになりました。さらに2000年代に入ってからは生物学的製剤、10年ほど前にはJAK阻害薬が使えるようになり、薬剤療法が目を見張るほど大きく変わっていく時代を、身をもって経験してきました。

大学院生時代にフィンランドに留学の機会を得たことも大きなきっかけです。当時フィンランドは世界で初めてリウマチ患者専用の病院をつくり、患者さんを支える社会体制も整備されていました。その国で整形外科とリウマチ科両方の教授に師事することができ、研究を通して世界中の方々と知己を得る機会に恵まれたことは大きな財産になっています。

炎症を扱うので、リウマチ学は学問的にも非常に面白い分野だと思います。もう1つ大切なのは、リウマチ学に関わる領域は非常に裾野が広く、内科、整形外科だけでなく小児科やリビリテーションなど、医学分野はもとより社会医学も含めて学際的に多くの分野の方々が関わっているということです。小児でリウマチ性疾患を発症する方もいますし、高齢の患者さんではリハビリテーションを担当する理学療法士や作業療法士、看護師、介護士の方などいろいろな方との連携が大切になってきます。リウマチ学を志す若い人たちには、リウマチ学は学際分野であることを念頭に、自分の得意な分野を中心に幅広く学んでほしいと願っています。それはおそらく、社会を勉強することにもなるでしょうし、患者さん一人ひとりと深く向き合うことにもつながり、若い先生の医師としての裾野が広がると思います。ともすれば、整形外科医は手術だけやっていればよいと考える若手も増えていますが、患者さんとしっかり向き合うという、医師としての基本姿勢を学ぶことができるのもリウマチ学の魅力ではないでしょうか。

現在、個人として目指していることは、専門分野にとらわれず、リウマチ性疾患に興味を持って診療や研究にあたってくれる若手を増やすことです。特に東北地方はリウマチ診療に携わる医師が少なく、底上げを図っていければと念じています。

「来て楽しかった」と思える市民公開講座に

先に少し触れたモルックという競技は、数字が書かれた木のピンを倒すというゲームで、関節に障害がある方も楽しめます。最近、バラエティー番組などで取り上げられて日本での知名度も上がりつつあるようで、8月には北海道函館市で世界大会も開かれます。現実的で、ときには深刻な話を聞くだけではなく「来て楽しかった」と思えることが大切と思います。モルック体験会などで体を動かして楽しむ機会も用意していますので、多くの方が市民公開講座にご参加いただけるよう期待しています。
 

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

トップリーダー 語るの連載一覧