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「半沢直樹」D、柔道井上監督…多彩なゲストと考える胸部外科の「未来のための今」

公開日

2021年10月19日

更新日

2021年10月19日

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2021年10月19日

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第74回胸部外科学会学術集会、10月31日から開催

「第74回日本胸部外科学会定期学術集会」は2021年10月31日~11月3日に東京都港区で開催されます。心臓、肺、食道という生命維持に不可欠な臓器を対象とする専門家集団による最新の情報交換の場で、今年はどのような話題が展開されるのでしょうか。会長の志水秀行先生(慶應義塾大学医学部外科学教授)に大会の見所などについてお聞きしました。

発展のため未来に投資を

今回のテーマは「未来のための今」です。もともとは、幕末の戊辰戦争で官軍と彰義隊が江戸・上野の山で戦っているさなか、遠くに砲声が聞こえるなかでも福沢諭吉が慶應義塾での講義を止めなかったというエピソードに基づく言葉です。「遠くで聞こえる『ドンパチ』よりも、君たちは未来に向かって今はしっかり勉強しなさい」という信念が、福沢にはありました。

今、日本でも世界でもさまざまなことが起こっています。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を始めとした困難に直面するなかで、日々の医療を堅実に行うことも大事です。しかしそれだけでは発展性がありません。個々人も学会という団体も、未来への投資が必要です。未来に向かって新しい技術を習得したり、課題を乗り越えるために環境を整えたりすることも大切だという思いを、この言葉に重ねました。

「胸部外科」という診療科はないため、一般の方にはなじみが薄いかもしれませんが、私たちは胸の中でも重要な臓器を手術するプロフェッショナル集団です。具体的には心臓、肺、食道を主な対象とします。3つの臓器の全てを手がけるドクターもいましたが、今は専門化が進んでそれぞれの分野が分かれつつあります。それでも隣り合った、どれも重要な臓器なので大きなグループを作っています。

私たちにとっては、日本外科学会に次ぐ大きな、伝統ある学会です。

4学会理事長“そろい踏み”登壇も

学術集会の多岐にわたるプログラムの中で目玉の1つは「特別企画5 胸部外科医育成のための新たなる挑戦」です。心臓外科や呼吸器外科の専門医育成機構で資格審査にかかわっている先生方も交えて、シミュレーターや、「カタバートレーニング」といって献体いただいたご遺体を使ったトレーニングなどについてディスカッションします。

ここに、柔道の井上康生さんをゲストにお招きいたします。井上さんは2000年のシドニーオリンピックで金メダルを獲得し、先日幕を閉じた東京オリンピックでは全日本男子監督として史上最多5個の金メダル獲得の原動力となったことは記憶に新しいところです。科学的トレーニングとデータ分析など新しい指導方法を取り入れ、監督就任前のロンドンオリンピックで金メダルゼロに落ち込んだ“日本柔道”を復活させました。指導者として出した素晴らしい結果に加え、時の人でもあり、このセッションにぴったりのゲストと考えています。

もう1つの目玉が「特別企画8 JATS/胸部外科学の未来予想図<4学会理事長対談>」です。胸部外科学会の澤芳樹理事長(大阪大学大学院医学系研究科保健学科未来医療学寄付講座教授)を筆頭に、日本心臓血管外科学会、日本呼吸器外科学会、日本食道学会それぞれの理事長がそろって登壇し、胸部外科の未来を語っていただきます。

宇宙飛行士で外科医、向井千秋さんが語る未来は

特別講演も2題準備しています。

1つは“日本一視聴率を取れるディレクター”といわれる、TBSテレビの福澤克雄さんによる講演です。お名前を知らない人でも、平成時代のテレビドラマで最高視聴率を獲得した「半沢直樹」を手がけた、といえば分かっていただけると思います。

福澤さんは幼稚舎から大学まで慶應で過ごし、高校・大学時代はラグビー選手として名をはせました。1985年には大学選手権で優勝し、社会人日本一のトヨタも撃破して慶應ラグビー部として史上初めての日本一に輝いた時の主力選手で、日本代表にも選ばれたという経歴の持ち主です。

「未来の人を育てる」というイメージにもつながると思い、企画しました。福澤さんには、勇気や未来に向けてのメッセージをいただきたいと思っています。

もう1つは向井千秋さん(現東京理科大学特任副学長)の講演です。JAXAの宇宙飛行士としてスペースシャトルに2度搭乗して宇宙に滞在した向井さんは、もともと心臓外科医で私の医局の先輩でもあります。胸部外科学会の元会員でもあり、活躍する女性として“高い視点”から未来のための今を語っていただきたいと期待しています。

盛りだくさんの特別企画

そのほかの特別企画についても触れておきます。

「領域を超えた合同手術」は、まさに胸部外科学会ならではのセッションです。心臓、肺といった個別の臓器ではなく胸部外科3領域で力を合わせてあたる手術についてのディスカッションです。

「領域を超えて学ぶべき手術」は、自分の専門以外の領域についても互いに学びましょうというセッションで、来年の会長・分野会長に講演していただきます。

「未来医療の展望」は、内閣府の「AIホスピタル構想」を軸にスマートオペ室、慶應大学の未来医療など「未来系」の発表をしていただきます。

「COVID-19から学ぶ」は、JCVSD(日本心臓血管外科手術データベース)という、全国から心臓血管外科手術の情報を集積したデータベースからCOVID-19の影響を分析します。慶應大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授、慶應大学医学部出身で弁護士資格も持ちCOVID-19の情報を積極的に発信し続けている古川俊治参議員議員なども参加し、議論を深めます。

「SHDのカテーテル治療 外科医に何が求められるか」。SHDはStructural Heart Diseaseの略語で、弁膜症など心臓の構造に異常がみられる病気を指します。こうした病気に、TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)やMitraClip(経皮的僧帽弁クリップ術)などカテーテルを使った低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)治療が行われるようになっています。「ハートチーム」という内科、外科が診療科の枠を超えて治療にあたる時代に、外科医に何が求められるのかについて専門医機構の先生や若手代表にも参加してもらい、議論します。

さらに、サイエンティフィック・セクションは心臓、呼吸器、食道の各分野合わせて63の上級セッションを予定しています。コロナ禍にもかかわらず多くの演題登録をいただき、採択率40%台前後という“狭き門”を通ったものばかりなので、非常に高いレベルのセッションになるはずです。

仲間との情報交換集会の重要な役割

ご説明したように、プログラムは趣向を凝らし充実した内容になっています。COVID-19拡大の影響で、私たちに限らず誰もが1年半以上にわたって直接会い、ディスカッションする機会を作れずにいました。感染状況も落ち着いている状況で、ようやく対面で人が集まれる状況が生まれています。医師が集まって勉強をするのは決して「不要不急」ではありません。ディスカッションも対面のほうが充実しますし、仲間とプログラム以外のテーマ・話題で情報交換することも学術集会の大事な役割です。可能な方はぜひ現地に来てください。

ただ、COVID-19の状況が変わることもありますし、病院によってはいまだ大変なところもあるでしょう。そのような方のためにライブ配信やオンデマンド配信も高いレベルで準備をしていますので、現地参加できない方もオンラインでぜひ最新の情報に触れてください。
 

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