連載トップリーダー 語る

日本産科婦人科学会5月に東京で開催―講演会会長に聞く、産婦人科医療をめぐる課題

公開日

2023年05月01日

更新日

2023年05月01日

更新履歴
閉じる

2023年05月01日

掲載しました。
E87f4237ce

第75回日本産科婦人科学会学術講演会が2023年5月12日〜14日、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催されます(現地開催・ライブ配信ありのハイブリッド形式)。女性と生まれてくる子どもの幸せのために、数々の課題に向き合っている日本産科婦人科学会。本学術講演会の会長を務める東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)産婦人科学講座 主任教授の岡本愛光先生に、現在の課題と学術講演会の開催に向けた思いを聞きました。

分娩できない地域も―産婦人科医の地域偏在

現在、産婦人科医療では、▽若手医師の育成▽医師の地域偏在▽セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights:SRHR)の浸透▽着床前診断の倫理▽分娩の保険診療化――など大きな課題を抱えています。学術講演会では、これらのテーマに関するプログラムを設けているので、活発な議論が生まれることを期待しています。

産婦人科医の地域偏在は、地域医療の崩壊につながりかねない重要な問題です。慈恵医大産婦人科では、医師の退職により分娩の受け入れ休止を余儀なくされていた和歌山県の病院に医師を派遣しています。これは和歌山県からの協力要請に応えたもので、約200人在籍している医局員の中から半年交代で赴任してもらうことにしました。地方のゆったりとした環境に身を置き、東京とは異なる医療を経験することで「とても勉強になった」と言って帰ってきます。同院には月に2回、当直医の派遣も行っており、少しでも地域医療の力になれればと思っています。

着床前診断をめぐる生命倫理

日本産科婦人科学会では着床前診断に関する倫理的問題にも向き合っています。着床前診断とは、体外で受精された胚(受精卵)の遺伝子検査を行い、病気を持たない可能性の高い胚だけを子宮内に戻すことです。対象となるのは原則、夫婦のいずれかまたは一方が遺伝子に病的変化を持ち、赤ちゃんが重篤な遺伝性疾患を持つ可能性がある場合です。医療機関からの申請を受け、日本産科婦人科学会で一例ずつ審査を行ったうえで検査を受けることができます。

問題は、命には関わらないものの、日常生活に大きな影響をきたす病気の取り扱いです。たとえば、目のがん「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」では、片目または両目の摘出を余儀なくされるケースがあります。死に至ることはまれですが、ご本人は大きなハンディキャップを背負うことになります。こうした可能性があらかじめ分かっている場合、胚を子宮に戻すか否かの判断は非常に難しく、日本産科婦人科学会としても慎重に検討していかなければなりません。

性と生殖に関する健康と権利「SRHR」が世界的テーマに

近年、世界的なテーマとなっているのがSRHRです。「性と生殖に関する健康と権利」という意味で、近年世界保健機関(WHO)や国際産婦人科連合(FIGO)が力を入れて取り組んでいます。一部の発展途上国で行われている女性器切除(FGM)と呼ばれる慣習など、女性が生殖の自己決定権を持てていない現状もあります。日本でも包括的性教育(生殖器や妊娠だけでなく、性交や避妊、ジェンダー、多様性、性暴力の防止などを含めた性教育)の遅れ、不妊症への理解不足、男性主体の避妊法、LGBTQに対する偏見、性暴力の問題など、SRHRに関する多くの問題が存在しています。

本学術講演会では、FIGO会長を務めるJeanne A. Conry氏にSRHRについて講演いただくほか、「日本におけるSRHRの諸問題〜どう解決していくか〜」と題し、4人の先生に講演いただく企画も用意しています。

笑いとパッションを大切に―脚本家・三谷幸喜氏の登壇も

若手医師の育成も日本産科婦人科学会の重要課題です。近年、海外への留学者数が減少傾向にあり、「井の中の蛙」となっている若手医師が少なくない印象を受けます。次世代を担う医師には、もっと世界に視野を広げて新しい知識や技術を取り入れてほしいという思いを込め、学術講演会では国際的なプログラムを多数用意しています。また、ドイツ、韓国、台湾、カンボジア、イギリス、日本の若手医師同士が共通のテーマについて議論する機会も設けました。若手医師が高いモチベーションを持ち、国際的なレベルを目指していくことを願っています。

臨床ではパッションを持ち続けることも大切にしてほしいと思っています。たとえば、進行卵巣がんの手術では、1回目の手術でどれだけ腫瘍を肉眼的に切除できるかで、生存期間が大きく変わります。そのために手術が長時間になったとしても、それが患者さんのためになるのであれば、医師は可能な限り腫瘍を切除することを諦めてはいけません。しかし最近、「医師の働き方改革」の影響で手術時間短縮に向けた風潮が出始めており、強い危機感を覚えます。

研究も臨床も楽しく行うのが1番です。これからを担う医師に「笑いを大切に楽しく生きてほしい」という思いを込め、特別トークセッションに脚本家の三谷幸喜氏をお招きしました。笑いを大切にされている三谷氏ならではの興味深い話が聞けることでしょう。

「慈心妙手」の精神伝える学術講演会に

今年の学術講演会のテーマは「慈心妙手」としました。慈心妙手は、慈恵医大産婦人科学講座の初代教授(1903年就任)である樋口繁次先生から代々伝わる教えです。信心深い仏教徒であった樋口先生が京都のお寺からいただいた言葉と聞いています。「患者さんに対して慈しむ心を持ち、優れた技術で物事に対応しなさい」という意味があります。

慈恵医大産婦人科では、手術の前に必ず患者さんの前で合掌する伝統があります。「今から最善を尽くして手術をします。そして、多くのことを学ばせていただきます。」と感謝するのです。

十人十色である一人ひとりの患者さんを慈しみ、日々技術を研鑽し続ける努力を怠らず、常に進化をし続けるプロフェッショナルであれ――この精神を伝えるべく、学術講演会のテーマに慈心妙手の言葉を選びました。私たちは患者さんのために、先達によって培われてきた教えを継承しながら、新しい知見・技術を身につけて進化を続けていかなければなりません。

日本産科婦人科学会は、女性と生まれてくる子どもを幸せにするために、1つ1つの課題に真摯に向き合っています。これからの産婦人科医療をよりよくする学術講演会にできればと考えています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

トップリーダー 語るの連載一覧