日本小児科学会学術集会が2023年4月14日(金)〜16日(日)、グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール/グランドプリンスホテル高輪(東京都港区)で開催されます(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。遺伝子診断の進歩などで希少・難病疾患の診断・治療に希望が生まれる一方で、「僻地に小児科医がいない」「新生児科医を目指す若手が少ない」――など社会的な課題も多く存在します。会頭を務める清水俊明先生(順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授)に小児医療の課題やそれに対する取り組み、学術集会に向けた思いを聞きました。
「こどもまんなか社会」の実現を目指して、2023年4月1日に「こども家庭庁」が設立されました。日本小児科学会としても、子どもと子育て家庭を支援していく重要な契機だと考えています。日本をはじめとした先進国において、少子化は非常に深刻な問題であり、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)による婚姻率の低下などでさらに加速していると実感しています。子育てしやすい社会をつくるために、日本小児科学会としてできることを模索し、精一杯尽力したいと考えています。
小児医療における最近の注目トピックの1つは、遺伝子診断の進歩です。小児の病気には数多くの希少疾患・難病が含まれ、診断まで時間がかかることもあります。しかし、近年の遺伝子検査技術の進歩によって、こうした病気を診断し、治療につなげられる時代が到来しています。
小児の治療法を参考に、AYA(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)世代の治療成績が向上していることも大きな話題です。AYA世代の血液疾患では、成人の治療法よりも小児の治療法を用いたほうが高い効果が得られるという研究報告もあるためです。
また、小児期医療から成人期医療につなぐ「移行期医療」も以前にも増して普及しています。現在、国も移行期医療の推進に取り組んでおり、日本小児科学会でもスムーズかつ適切に成人期医療に移行できるよう、対象疾患ごとに綿密な検討を進めているところです。
一方で、今の日本における小児医療には、大きく2つの問題があります。1つは「医師の地域偏在」です。小児科医を志す医師は全国的に微増しているものの、地方、とりわけ僻地の小児科医不足は深刻で、十分な医療を受けられない子どもたちが存在します。
そこで、僻地における小児医療の助け船となるのが「総合診療専門医」です。総合診療専門医の必須研修には最低3か月の小児科研修が組み込まれています。私は昨年まで総合診療専門医検討委員会に所属し、総合診療専門医に小児医療の戦力となってもらえるよう、研修の推進に取り組んできました。
では、東京都などの大都市では小児科医が十分に足りているのかというと、実際はそうではありません。それにもかかわらず、新専門医制度で新たに設けられた「シーリング制度(採用数の上限設定)」によって東京都の小児科医が減らされている現状があるのです。少子化によって小児医療のニーズが減少しているのに対し、東京都の小児科医は多すぎるとの理由からです。我々はこのことに警鐘を鳴らし、厚生労働省や日本専門医機構に制度の見直しを訴えています。
もう1つ、新生児領域を目指す若手医師が増えていないことも大きな問題です。その背景には、夜間帯の仕事が多くハードワークである、NICU(新生児集中治療室)に関する特殊な技術・知識が求められる――などの理由があります。一方で、近年低出生体重児は増加しており、新生児医療へのニーズは高まっています。数少ない新生児科医でNICUを管理せざるを得ない状況から、いっそうのハードワークを強いられるという悪循環に陥っているのです。
こうした状況に対し、順天堂大学小児科では、全ての若手医師に関連病院で新生児医療を経験する機会を設けています。新生児医療は確かにハードワークではありますが、その分非常にやりがいのある分野です。これから研究を進めていかなければならないことも数多く残っています。新生児医療は魅力あふれた分野であることを若手医師に知ってもらい、ぜひ多くの小児科医にチャレンジしてほしいですね。
今年の学術集会のテーマは「Globalな視点で子どもたちの未来を考える」としました。新型コロナの世界的大流行によって、諸外国と連携し情報共有を行う重要性が再認識されています。日本小児科学会ではこれまでも国際的な活動に取り組んできましたが、本学術集会ではあらためて日本の小児医療についてグローバルな視点から議論したいと考えています。
また、私がこれまで多方面から小児医療に携わってこられたのは、出会った全ての人のおかげです。家族、友人、恩師、同僚、指導医、留学先の上司――そして一人ひとりの患者さんとご家族です。病気が治り喜んでいただけることも多い一方で、なかなか期待する治療ができない患者さんも数多くいました。そうした患者さんから学び得たことは非常に多く、心から感謝しています。会頭を務めるにあたり、これまで私に影響を及ぼしていただいた全ての人々への感謝の気持ちを糧にして、多くの患者さんや小児科医、今後の診療・研究に役立つ学術集会にしたいと思います。
学術集会は、小児科医をはじめ小児医療に関連するさまざまな職種、また医学生や初期臨床研修医が一堂に会し、子どもたちの医療や保健、あるいはご家族の心の問題などについて、臨床・研究成果を発表して討論する場です。本学術集会が子どもたちの明るい未来の一助となるように参加者一同努力していきます。
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