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白血病治療の現状や未来 市民公開講座で解説―日本血液学会学術集会4年ぶり東京で開催

公開日

2023年10月12日

更新日

2023年10月12日

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2023年10月12日

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「再会」をテーマに第85回日本血液学会学術集会が2023年10月13~15日、東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内)で開かれる。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の5類移行後最初の同学会学術集会は“満を持して”完全オフライン(現地開催)となる。会長を務める豊嶋崇徳教授(北海道大学大学院医学研究院内科部門内科学分野血液内科学教室)に、学会に参加する意味や血液内科学の現状と課題、一般向けの市民公開講座などについて聞いた。

テーマ「再会」に込めた思い

今集会のテーマは「再会(REUNION)」です。会長に決まった時、今年はそういう年になるだろうとイメージしていたのがピタリとはまりました。外国からの演者もほぼ全員が現地に来るし、国内関係者の熱い思いも感じています。この熱気を感じながら、学術集会の「再起動」を図りたいと思います。

求められていた学会、完全現地開催で

茨城県つくば市で2023年7月に開催された日本血液学会の国際シンポジウムは若手も含めて多くの人が集まり、これまで見たことがないほど盛況でした。新型コロナのまん延で交流の機会は限られていたけれど、皆が知識を、高いものを求めているということがよく分かりました。自ら高いものに触れ、感じることが医療の原点であり、それによって医療の質が高まります。

そうした雰囲気の中で10月に東京で開かれる学術集会はとてもタイムリーです。東京での開催は、台風で2日目のプログラムが中止になった2019年10月の第81回以来。翌年から新型コロナの影響でオンラインになったり、ハイブリッドの地方開催になったりし、東京での現地開催は4年ぶりです。

今回、過去最高に匹敵するほどの演題が集まりました。よりよい医療を勉強し、患者にフィードバックしたいという熱い思いをひしひしと感じます。そういう状況ですから、思い切って今回の学術集会はハイブリッドなしの現地開催としました。もちろん、教育講演のような若手の勉強のためのコンテンツはウェブ配信しますが、一般演題は配信せず現地で見て、聞いて、全身で感じてもらおうと思っています。

学会に参加する意味は「現場の熱量、インパクトを肌で感じること」

私が九州大学で医師として血液内科の分野に入った時、第一内科の原田実根講師(当時)から「米国血液学会ASHに参加しなさい」と言われました。まだ若いころで、なぜ行く必要があるのか分かりませんでした。すると原田教授にこう言われたのです。「論文でしか名前を見たことがない大御所の顔を見てきなさい。どのような風貌で、どのような話し方をするのか、聴衆がどんな表情で聞いたか、現場の熱量、インパクトを五感で感じることに意味がある」と。それで納得しました。また学会というのは、人の輪を作る場でもあります。激務で重積を負う血液内科医です。笑顔で会って会話して人の輪を広げ、元気になって明日からの診療に励んでほしい。そのためのface to faceです。

白血病治療の現状や未来を分かりやすく―市民公開講座

最終日の10月15日には一般の方が参加可能な公開シンポジウム「いのち・愛・かがやき」*が予定されています。今年のテーマは「日本白血病研究基金設立30周年記念講演」として、節目の年を記念した内容になっています。

第1部は同基金臨床医学特別賞を受賞した安達慶高氏(University of Michigan School of Medicine)による講演「がん免疫療法によるがん細胞死の耐性メカニズムの解明」と表彰式が行われます。第2部は基金を見守ってきた市民・ボランティアの橋本明子氏(血液情報広場つばさ)、井上富美子氏(ミルフィーユ小児がんフロンティアーズ)の話を聞きます。第3部は記念講演で小川誠司教授(京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座)、加藤元博教授(東京大学医学部附属病院小児科学教室)、それに加え私が白血病治療の現状や未来などについて、一般の人にも分かりやすく発表します。

*2023年10月15日13時20分~16時、東京国際フォーラムホール棟5階ホールD5で開催。「日本白血病研究基金」「白血病研究基金を育てる会」との共催。事前申し込み不要、入場無料。

揺らぐ地域医療のサステナビリティ―

さて、いよいよ人口減少に転じた日本の医療が差し掛かる“境目”を意識しないといけない時代になりました。新型コロナ禍が明けてみると、さまざまな職種において、人材・資源不足、交通網の縮小、地方の衰退などの問題が一気に顕在化しました。これまでの医療はずっと、皆が高みを目指して進んで来たけれども、そろそろ限界に近付いてきました。とくに「働き方改革」による労働時間短縮の一方、「専門医制度」などにより、地方の医師の確保はすでに非常に困難になっています。超高齢化が進み、国内人口の3分の1が65歳以上になるとされる2030年問題が現実になりつつあります。このような中で、専門医制度や資格制度の高度化を進めることにも限界が来て、医療体制自体がサステナブルではなくなってきたと感じています。

高度医療は「センター化」すべきか?

白血病治療の関連で医療は今、岐路にあります。

造血幹細胞提供推進法(移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律)が2012年に成立し、骨髄バンクや臍帯血バンクなどを国がサポートすることになりました。これに呼応して、専門医やコーディネーターを養成し、の各病院に配置など全体を底上げしようという目標を立てました。しかし10年たって何がこったかというと、とくに地方での人材確保が困難となり、このままでは地方での造血幹細胞移植医療の維持が難しい時代になってしまいました。

今、国民には2つの選択肢があります。1つは、大都市に行かないと造血幹細胞移植を必要とするような治療を受けられなくなる社会。もう1つは今と同じように地方での医療も維持していく社会です。どちらを選ぶか、本気で考えなければならない時代になっているのです。

その判断をする際に、気を付けなければいけないのは、こうした高度医療は“結果”を伴わない人も多数いるということです。遠路はるばる大都市に出てゆき、その結果治療がうまくいかないと帰れなくなるし、いよいよとなった時に家族がそばにいられるかも分かりません。だから私は、地方で治療をできる体制の維持が望ましいと思っています。

高度医療の拠点を作って医師も患者も集約する「センター化」が言われていますが、それは地方の患者を見捨てることにもなりかねません。血液内科は高度な医療ですが、発病から治療、最期の見取りまで全て1人の医師が診ることが多く、患者さんとその家族の皆さんと強い絆で結ばれている血液内科医だからこそ、ぜひとも地域での血液内科医療を守りたい。

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