日本呼吸器学会は2023年4月28~30日、東京都千代田区の東京国際フォーラムで第63回学術講演会を開催。期間中、オリンピアンを含むトップアスリートを招いて呼吸器学の観点からの健康づくりやスポーツの重要性などを学べる市民公開講座も開かれます。大会長を務める順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長/呼吸器内科学教授、髙橋和久先生に市民公開講座の見どころや呼吸器内科学の魅力などを聞きました。
今回の学術講演会では市民公開講座に一番力を入れています。「健康で潤いのある人生を目指して―アスリートと医師とともに考えましょう―」と題して、トップアスリートの講演、NHKテレビで放送されていた「筋肉体操」や呼吸リハビリテーションの実演など盛りだくさんのプログラムを予定しています。呼吸器学の観点から「肺をいかに鍛えるか」や、スポーツの重要性について理解し、なるべく病気にならない体をつくり、潤いのある生活を目指していただけるような内容にしています。
第1部の基調講演はスポーツ庁の初代長官を務めた順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構機構長、鈴木大地氏(ソウル五輪100m背泳ぎ金メダリスト)が「スポーツ庁のスポーツ健康施策と順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構について」と題してお話しします。
続く第2部には、▽ハンマー投げの室伏由佳氏(オリンピアン、順天堂大学スポーツ健康科学部准教授)▽陸上短距離の福島千里氏(女子短距離走日本記録保持者、同学部特任助教)▽テレビ番組「みんなで筋肉体操」で指導・出演した谷本道哉氏(同学部先任准教授)▽ラグビー・ワールドカップ日本代表チームにスポーツドクターとして帯同した経験を持つ髙澤祐治氏(順天堂大学医学部スポーツ医学研究室先任准教授/スポーツ健康科学部教授)――といったスポーツの第一線で活躍した面々が出演。さらに呼吸リハビリテーションが専門の理学療法士、佐野裕子氏(順天堂大学医療看護学部・大学院医療看護学研究科准教授)も参加し、筋肉体操の指導や呼吸リハビリの実演も交えながらパネルディスカッションをします。
残念ながら、まだ新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の余波で大勢を会場に集めることができないため配信での開催になります。その分、お住まいの地域にかかわらず参加することができます。当日、ライブで見られなくても終了後にオンデマンドで視聴可能です。新型コロナで鬱屈した生活が2年以上続いていましたが、野球のWBCの熱狂などようやくスポーツを楽しむ機運が復活してきました。呼吸器という枠を超えて、病気にならない体と心をつくるにはどうしたらいいかを考える機会にしていただきたいと思っています。
*編注:市民公開講座は2023年4月30日14時半~16時半にオンラインで無料配信。事前登録不要で、ウェブサイト(https://www.jrs.or.jp/jrs63/citizen.html)から直接視聴できる。
今回の講演会のテーマは「知の融合が拓く呼吸器病学の未来」としました。ここには、呼吸器学の内部、呼吸器学会とほかの専門学会、医師と患者・家族――という3つの連携、あるいは知の融合を目指す、という思いを1つのキャッチフレーズに込めています。
まず、呼吸器学が対象としている疾患は非常に多岐にわたります。がんもあれば、COPD(慢性閉塞性肺疾患)のような慢性疾患、新型コロナに代表される感染症、肺循環障害――など、同じ呼吸器を専門にしている医師でもサブスペシャルティが非常に多いのです。新型コロナの影響によってオンサイトで会うことができず滞っていた、サブスペシャルティ間の情報共有、情報交換を再開することで知の融合をしようというのが、1つの意味です。
膠原病(こうげんびょう)肺のように皮膚病変を伴う肺疾患が多数あることから今回初めて日本皮膚科学会と共同企画を行うなど、他の領域との知の融合は呼吸器疾患の理解をより深めるため非常に重要であることがもう1つ意味するところです。
PPI(Patient and Public Involvement=医学研究・臨床試験における患者・市民参画)が非常に重要視されています。医師以外の市民、患者さん、家族のさまざまな声は、学会にとっても臨床試験でも非常に重要で有用です。医師以外の声、考えとの融合で、呼吸器学の将来が展望できるのではないかというのが3つ目の意味になっています。
私が呼吸器内科を目指したのは「難攻不落の山に挑みたい」という思いからです。医師になろうと思ったのは、難治であるがんの診療と研究をし、がんを薬で治せるようにしたかったからです。医学部では将来の進路として呼吸器内科と脳外科のいずれかで迷いましたが、初志貫徹して「薬で治す」内科を選びました。当時は肺がんや間質性肺炎など、呼吸器には何の治療法もない病気がいくつもありました。高校時代に山岳部に所属し、数々の難度の高い山を攻略しました。その延長線上にあった難攻不落の“不治の病という山”を攻略する道を選んだのです。
呼吸器内科に入局以来、多くの患者さんと接してきました。印象深い患者さんも多くいますが、その中でも治療がうまくいかず悔しい思いをした患者さんと交わした会話を、より鮮明に記憶しています。それが私自身の臨床・研究・教育へのモチベーションになっています。自分以外の人でも治療ができるのであれば、その人がやればいい。みんなが困っていることの解決を目指す。それこそがまさに難攻不落の山なのです。攻略したければ、「経験学」ではなく研究、臨床をすることが大切です。そこはクリニカルプラクティス、クリニカルクエスチョンがたくさん落ちている、“宝の山”でもあります。それを見つけ、一つ一つ解決していく姿勢が大切です。
呼吸器内科は“欲張り”な人に向いていると思います。
具体的には、急性期、慢性、終末期のどの患者さんも診ることができます。急性呼吸不全に対する人工呼吸管理といったような急性期の治療をはじめ、治せる病気はたくさんあります。COPDや間質性肺炎といった完治が難しく長期にわたって療養が必要な人を診ることもできます。そして、がん患者さんなどの終末期にも寄り添うことができます。「全人的な医療」をやりたいと望んでいる人には合っているでしょう。
また、チャレンジ精神のある人にとってもやりがいがある領域だと思います。治療法の進歩で治る病気が増えている現代においても、いまだに治せない病気が多く残っています。その中で自分にも何かできるのではないか、40年ほどの医師としての人生の中で患者さんのためにできることを成し遂げたいと希望しているのであれば、挑戦しがいがあります。
呼吸器内科は感染症科とともに中心になって新型コロナと闘ってきました。スタッフも含めていまだにその影響は残っています。疲弊してしまう人もいましたが、やりがいを支えに頑張っている人が多くいます。そうした観点からも、呼吸器内科医は人に頼られ、信頼される医師であり、ニーズの多い疾患を専門にしているといえます。
63回を数える呼吸器学会学術講演会で、順天堂大学が担当するのは、第19回(1979年)、故本間日臣教授▽第34回(1994年)、故吉良枝郎教授▽第41回(2001年)、福地義之助教授――についで4回目になります。本間先生はびまん性肺炎、吉良先生は肺循環、福地先生はCOPDや誤嚥(ごえん)性肺炎、そして私はがんが専門――といったように、順天堂大学の呼吸器内科にはいろいろな専門領域にそれぞれリーダーがいて、どの呼吸器の病気を診たいという人でも全て対応が可能です。そうした歴史と伝統に支えられた専門性があるので、学術講演会をしっかりサポートできる体制が作れるのだと思います。
会長特別企画の1つとして、呼吸器病学に貢献した名誉会員の先生方にレクチャーをしていただくプログラムを予定しています。そこに登場される先輩たちは、同じように呼吸器学会の歴史と伝統を作ってくれました。そうした先人たちに敬意と感謝を込めて、今年の学術講演会を成功させたいと思っています。
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