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子どもの睡眠問題と発達障害の関係 “誤診”の原因になることも

公開日

2024年10月03日

更新日

2024年10月03日

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2024年10月03日

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内村直尚・日本睡眠学会理事長に聞く睡眠と健康の関係【前編】

眠りは心身の健康に影響を及ぼし、それは子どもとて例外ではない。近年増加傾向にあるとされる子どもの発達障害は、睡眠不足によってリスクが高まるとのデータもある。日本睡眠学会の内村直尚理事長(久留米大学学長)に、子どもの健全な発達と睡眠のために必要なことなどについて聞いた。

子どもの発達障害、睡眠調整で症状軽減も

睡眠と子どもの健全な発達の関係について、注目されています。

十分な睡眠がとれていない子どもは、ADHD(注意欠如・多動症)や自閉症スペクトラム障害といった発達障害などのリスクが高まるとのデータが出ています。また、最近子どものうつ病から自殺や不登校も増えており、それらにも睡眠の問題が関係しています。2023年4月に発足したこども家庭庁も、子どもと子育て中の親の睡眠について研究費を出して調査しています。

2023年4月に11年ぶりに改訂された母子手帳では、健診の際のチェック項目に子ども自身と保護者の睡眠問題の有無が追加されました。また、こども家庭庁は法的義務として実施している1歳6カ月と3歳の乳幼児健康診査に、5歳での健診も加えることを検討しています。従来は就学前健診という形で実施していたものを前倒しします。発達障害の疑いがあるお子さんを早めに見つけ、問題があっても2年程度の時間をかけて指導をすることが目的の1つです。それによって改善するお子さんもいますし、保護者にとっても受け入れるための時間を持つことができます。

発達障害の子どもの7割程度に「朝起きられない」「夜眠れない」「昼の眠気が我慢できない」といった睡眠障害がみられます。名古屋大学医学部附属病院と浜松医科大学が2022年に▽8~9歳の子どもでは入眠時刻が遅いとADHD症状が強くなる▽ADHDの遺伝的リスクが低い子どもで入眠時刻が遅くなることの影響が強く表れる――という研究結果を発表しました。睡眠不足によって衝動性や多動、不注意が起こり、それが誤診につながる恐れがあるのです。そうした誤診によってADHDの薬を使うようになると、長期にわたって本来必要のない薬を飲み続ける恐れもあります。きちんと睡眠指導をすることで、改善するお子さんもいるはずです。

また、発達障害のお子さんの睡眠問題をある程度調整すると、症状が軽くなることも分かっています。母子手帳の改訂や5歳児健診で、睡眠を切り口に子どもの発達や成長の問題を早期に発見し、改善の支援ができると期待しています。

高校の「午睡タイム」で起きた変化

中高生の睡眠にも多くの問題があります。中高生は8~10時間の睡眠時間確保が推奨されているのですが、8時間寝ている高校生はほとんどいないでしょう。朝は課外授業、放課後はクラブ活動や塾、帰宅後はスマートフォンを見る時間もあるでしょう。さらに通学にもある程度時間がかかります。

私の母校の福岡県立明善高校(久留米市)では20年前から、日本で初めて昼寝の時間をとるようにしました。その際、約1000人の生徒にアンケートしたところ、平均睡眠時間は5時間45分で、9割が「午後の授業が眠い」と回答しました。7時30分からの朝の課外授業に間に合うように5時半ごろには起床する一方、就寝は0時過ぎです。「8時間睡眠せよ」と言っても到底かなわない状況でした。

そこで、昼休みに10分の「午睡タイム」を設定したところ、センター試験の成績やクラブ活動の成績が上がり、保健室の使用が減るという効果が出ました。睡眠不足によるパフォーマンスの低下を軽減できたためと思われます。

大阪府堺市では、睡眠サイクルを朝型にすることで不登校を減らす試みが行われ、成果を上げています。年に一度の「睡眠教育の日」には小中高校で一斉に睡眠の授業があり、睡眠不足が体に与える悪影響を医学的に説明して十分な睡眠をとるよう指導しています。この試みは、教育によるアプローチで睡眠サイクルを朝型にできることの実証だと思います。

生物学的に、ヒトは10代になると体内時計が夜型に移り始め、19~20歳ごろに夜型のピークを迎えたのち、また徐々に朝型に戻ります。夜型になっていく10代で夜にスマートフォンやタブレットなどの光を浴びると、夜型への移行が助長されます。また、塾の教室も非常に明るくなっていて、覚醒レベルが上がるようになっています。コンビニエンスストアも店内が非常に明るく、夜に行くと眠りに悪影響を及ぼします。

体内時計を朝型に保つには、朝の光を浴びることと朝食を規則正しく取ることが重要です。この2つによって、体内時計のずれが補正され、睡眠・覚醒リズムを維持できるのです。

“睡眠難民”救済に「睡眠科」標榜を

スマートウォッチのようなウエアラブルデバイスによって時間だけでなく眠りの深さなど質についても手軽に測定でき、睡眠が“可視化”できるようになりました。測定はできるようになりましたが、一方で問題を抱えた患者さんはどこに相談すればよいのか分からない、行き場がないという“睡眠難民”問題があります。睡眠の問題は元来、精神科の診療領域になりますが、精神科への心理的ハードルが高く、受診につながりません。

そこで私たちは「睡眠精神科」や「精神科(睡眠)」など、「睡眠」を組み合わせて標榜できるよう厚生労働省などと交渉しています。ほかにも睡眠時無呼吸症を診療する呼吸器内科や循環器内科、神経内科、耳鼻咽喉(じびいんこう)科、母子手帳を最初に見る小児科などで「(睡眠)」と表示があれば、相談先が分かりやすくなります。最初の入り口として、そのように「睡眠」を標榜する先生に診てもらい、診断・治療がうまくいかなければ全国に約600人いる日本睡眠学会専門医や、約120カ所ある日本睡眠学会専門・認定医療機関(2024年7月現在)につないでもらうといった睡眠診療の仕組みをつくることが、国民の健康を守ることにつながり、医療費の削減にも貢献できると思っています。

これまで日本人は、睡眠時間を削って働くことで経済成長をなし遂げたり、睡眠を惜しんで勉強して教育レベルを保ったりしてきました。日本人の睡眠時間はOECD加盟国中最短ですが、それでも1日の4分の1程度は眠っています。80年生きるとすると、20年は睡眠にあてていることになり、その時間をよりよいものにすることは人生を充実したものにするために非常に重要なことなのです。

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