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連載特集

急な病気やけが 救急車利用判断の目安にもなる「緊急度」とは

公開日

2019年11月27日

更新日

2019年11月27日

更新履歴
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2019年11月27日

掲載しました。
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東京大学大学院医学系研究科救急科学教授
森村尚登先生

急な病気やけがに見舞われた時、救急車を呼ぶべきか、自力で動けるなら夜間や休日でも医療機関に受診すべきか、それとも夜明けや休日明けを待ってもかまわないか――。判断を誤ると受診が遅れて病状が悪化したり、逆に“不要不急な救急車利用”になったりしかねません。救急医療の専門家は医療を受けるタイミングの目安となる「緊急度」という判断基準を作成して普及を図っています。日本臨床救急医学会緊急度判定体系のあり方に関する検討委員会委員長として基準策定を主導した森村尚登・東京大学大学院医学系研究科救急科学教授に、緊急度とは何か、今なぜ必要とされているのかなどを聞きました。

森村尚登先生

救急車利用は「適正」ではなく「適時に」

一部で救急車の利用が多すぎると社会問題になっています。行政の側からすると、重症の患者さんだけを運びたいが、実際には6~7割は軽症者だという不満があり、「適正」つまり正しく使ってほしいと広報しています。しかし、そのような意識があると、“取りこぼし”つまり、本当は救急車での搬送が必要なのに呼ばれない、運ばれないケースが増えてしまいます。患者さんを主体に考えるなら「救急車は適切なタイミングで、つまり“適時”に使いましょう」ということになります。

「適正」ではなく「適時」がこれからのキーワード。重要なのは、医療を受けるタイミングが適時かどうかということです。それが可能になるためには、いざというときのスピードが必要。死亡したり機能障害に至ったりするまでのスピードが速い場合には、移動中に悪くなってしまうこともあり得ます。「急いで受診する必要があり、移動中にもある程度の処置ができる救急隊員が必要」となった時に救急車が必要なんだという意識を社会全体で共有する必要があるということを、10年以上訴え続けています。

病気やけがの状態により「持ち時間」は異なる

上述の「死亡したり機能障害に至ったりするスピード」というのが、緊急度ということです。診療する側から見ると、「重症化を防ぐための診療開始までの持ち時間」ということになります。例えば、窒息や心室細動というようなケースでは分単位で致死的、あるいは回復不能な状態に、真っ逆さまに落ちていきます。重症の外傷や敗血症などは時間単位、がんならば月や年単位――といったように、病気やけがの状態によって治療を受けるまでの猶予時間は異なります。

緊急度

グラフ1

これを図で表したのがグラフ1で、坂の傾きが死亡や機能障害に至る速度、横軸がそこに至るまでの時間的余裕を表します。もともと重症のファクターが入っている人が何らかのインパクトを受けた時にはさらに下に向かうスピードが増すという意味で、曲線で描いています。このように、すべての病気や状態ごとに「治療までに待てる時間」があるのです。

これは、救急車を呼ぶ、呼ばないという話にとどまりません。例えば、糖尿病でかつ、ステロイド剤を多量に服用している患者さんが、歯痛を訴えたとします。ステロイド剤は炎症を抑えるなどの働きがありますが、一方で免疫機能が低下して細菌感染しやすくなります。糖尿病の患者さんも細菌感染しやすいほか、傷が治りにくい傾向にあります。こうした患者さんが歯痛を訴えた時、その時点では緊急度は低いので救急車を選択する必要はありませんが、悪くなるスピードは健康な人に比べて速いわけです。放っておくと口から全身に感染症が広がるなど重症化の恐れがあるので、急いで病院に行ってくださいとうアドバイスになる。そのように、医療を受けるという行動を後押しするのも緊急度判定の役割になります。

「急ぎ指数」など分かりやすい言葉への言い換えも検討

緊急度は重症度と時間のファクターで決まります。ただ、これは「狭義の緊急度」で、それに加えて考慮しなければならない要素があります。

1つは、患者さんのために割くことができるリソース(医療資源)や治療内容です。例えば、ある地域には脳卒中をカテーテルで治療する施設がないとします。治療のタイムリミットとされる時間内に搬送してカテーテル治療をするためのリソースがないので、急いでも結果は変わらないということになります。あまり急がなくてもいいということになり、緊急度は一気に下がります。結局、その地域ではすべて血栓を溶かす「t-PA」という薬での治療でいいという話になるのです。

そしてもう1つ「治療介入の度合い」という要素も入ってきます。これは患者さん本人や周りの人が、生きていくというプランにおいて「どこまで望むか」ということです。医療現場からすると、早く運んで早く治療を開始すれば、ここまで回復させられるという思いがあるのですが、緊急度の判定においては、「本人や家族、周囲の人が本当はどこまでを望んでいるのか」も考えなければいけないのではないかということです。

こうした要素をすべて含めたものが「広義の緊急度」で、熱中症の危険度を示す「暑さ指数」という言葉にならい、「急ぎ指数」とか「救急指数」といった分かりやすい言葉にしてはどうかと考えています。

このような概念整理をすることによって、緊急度に照らして適した医療ができるような、往診とかかかりつけ医というシステムをきちんと整備していこうという別の話にもつながります。

「適時に医療を受ける」ための物差しに

緊急度は「度」とついていることからもわかるように、いくつかのカテゴリーがあります。現時点では、家庭での自己判断要は図2のように4段階、救急電話相談では図3のように5段階になっています。

4段階の緊急度

図2

5段階の緊急度

図3

ではどうやって判定するか。ご家庭で、パソコンやスマホから調べる場合には、例えば総務省消防庁の「全国版救急受診アプリ(愛称『Q助』)」や、東京都であれば「東京消防庁救急受診ガイド」などがあります。「いつも通りにしゃべれない」とか「冷や汗をかいている」「脈の異常がある」「むくみがひどい」――などの自覚、他覚症状の有無を答えることにより「救急車を要請することをおすすめします」「今すぐに受診/○○科」「これから受診/○○科/6~8時間以内に病院へ行かれた方がよいかと思います」といった相談結果が表示されます。また、「#7119」のような電話相談の窓口も全国で増えてきています。

アキュイティとトリアージ

これらの多くは、日本臨床救急医学会の研究班が作ったアルゴリズムを基に緊急度の判定をしています。その判定結果に対し、地域ごとのリソースに合わせてどれだけの医療を提供するかといったことを定式化する作業を進めています。

具体的に言うと、ある地域では緊急度がここまでであれば救急車で搬送する、民間救急車の利用を促す、自分で歩いて病院に行くといった区分や、搬送・受診する病院は何科がいいのかといったことの類型化を図るということをしています。そうしたことを通じて、先ほど述べた「適時な医療を受ける」ことを支援する仕組みに共通する“物差し”を、市民、医療者双方に提供することを目指しています。

このように、「緊急度」は救急、医療の現場と、市民が、“ミスマッチ”をできるだけ少なくして必要なタイミングで最適な医療を受けるための判断基準になりうるのです。ところが、残念ながら市民はおろか医療関係者にも浸透しておらず、これをどう広げていくかが課題となっているのが現状です。

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