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「みる」ことの重要性、市民公開講座で再認識を―眼科学会総会、6日から東京・有楽町で

公開日

2023年04月05日

更新日

2023年04月05日

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2023年04月05日

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「『みる』を究める」をテーマに、第127回日本眼科学会学術総会が2023年4月6~9日、東京国際フォーラム(東京・有楽町駅)で開かれます。期間中には一般の方向けの市民公開講座も予定されています。健康で豊かな老後を送るために、加齢による視覚の低下をいかに抑えるかは重要な課題。公開講座では「みる」ことの大切さと生涯失明せずにいるためにはどうすればいいかなどについて知ることができます。総会長を務める相原一・東京大学医学部眼科学教室教授に、総会テーマに込めた思いや見どころなどについてお聞きしました。

「みる」をひらがなにしたわけは

総会のテーマは「『みる』を究める」です。みることは非常に大切で、私たちの多くは視覚に頼って生活しています。我々眼科学会員は「みる」の根源である視機能の基礎と臨床に携わり、その仕事を通してこの「みる」ことの大切さを皆に伝え、そしてそれを守る立場にあります。眼科医療、眼科研究を通じて、グローバルかつダイバーシティに富んだバランスのよい「もののみかた」を続け、患者さん、社会に末永く貢献できるように、そしてそれを伝えていけるように、学会に参加して考えてもらいたいと考えてコンセプトを策定しました。

「みる」はわざとひらがなにしています。ポスターには6つの漢字が並び、そのいずれも「みる」という意味がありますが、みる主体とその対象との関係性はそれぞれ異なります。

  • 「視る」生きていくために必要な「みる」=健康を表す
  • 「見る」意識的に自ら判断する「みる」=教育・知識・学習力
  • 「観る」疑問を持って「みる」=探究心・創造力
  • 「診る」医者として「みる」=医術
  • 「看る」患者の立場、意向に沿って「みる」=人間性・共感・看護
  • 「覧る」広い視野視点でものごと「みる」=組織・社会性・国際性

――といったように、概念的な側面から科学的、社会的な面までさまざまな意味があります。これらをバランスよく含んだ学会運営をしようと、各演題もさまざまな「みかた」に基づいた内容になっています。

「アイフレイル予防」「緑内障」テーマに市民公開講座

「『みる』ことの大切さ」と題し、4月9日に一般の方向けの市民公開講座を用意しています。事前登録は不要で、当日直接会場に来ていただければお聞きいただけますので、多くの方の参加をお待ちしています。

今回の演題は「アイフレイル」予防と緑内障です。

高齢社会・日本の課題は、現在約10年ある健康寿命と平均寿命の差をいかに縮めて豊かな老後を送れるようにするかということです。そのために眼科の分野で大事なこととして、アイフレイル予防の啓発活動を推進しています。フレイルとは、高齢期に心身の機能が低下した「虚弱状態」を指す老年医学の言葉です。アイフレイルは高齢化による視覚の衰えを意味し、視覚情報が減少すると認知症が進み、また動かなくなるためロコモティブシンドローム(移動能力が衰えた状態)にもなります。アイフレイルを予防し高齢になっても見えることは、介護の需要を大きく減らすことができることは間違いありません。また、高齢の方も社会活動や趣味などを通じて豊かな老後を過ごせます。そうしたことを知っていただくのがテーマの1つです。

もう1つの緑内障は、現在日本人の失明原因の1位です。それがなぜかを再認識していただきたいと企画しました。緑内障は患者数が非常に多く、約500万人と推定されますが、受診率は2割程度と非常に低いのが現状です。自覚症状がなく、発症してしまったらいつの間にか悪化して視野が徐々に狭まっていきますが、その回復の方法はなく、できるのは維持することだけです。ですから、いかに早く見つけ、生涯失明しないようにするにはどうしたらいいかという、とても大事なことを多くの人に知っていただきたいと思っています。

眼科学が抱える課題

日本人の中途失明は、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症が4大原因となっていて、今のところいずれも根本的な治療法がありません。また、視機能発達の過程で起こってしまう近視をいかに抑制するかも課題です。

さらなる研究をしなければいけないのですが、日本では眼科の基礎研究に取り組む医師が減り、慢性の進行性疾患についての基礎研究が非常に衰えています。地道に底上げをしていくことが、現在の眼科学の課題です。

ただ、目というのは実は非常に研究をしにくい臓器です。少しでも傷つけると視機能全体が落ちてしまうため、目に病気が見つかっても組織を採取して病理をみることが難しいのです。画像検査にも限界があり、この問題を打破するブレークスルーが必要です。

また、ダイバーシティやグローバル化を進める中で女性も活躍できる環境を整え、優秀な女性医師を研究者としてアカデミアに残せるようにしていくことも、これからの課題です。

養老孟司先生の招待講演、五感の科学など横断的企画も

総会のポスターには、虫のシルエットが2つあります。私は子どもの頃から虫好きで、「観察」が大切だと思っていました。社会生活を通じていろいろなものをみることは、仕事にも関係します。虫のシルエットは、目先の狭い視野だけで過ごさず広い視野を保ってほしいというメッセージです。今の若い人は、視力はあるけれど見る力が弱いので、これを強調したいです。

シルエットのうち1つは私が好きな蝶、もう1つは虫好きで知られる解剖学の養老孟司先生が“専門”とするゾウムシです。学生時代、養老先生に解剖学を習いました。当時、虫の話で盛り上がったこともあります。今は私が養老先生の目の主治医という縁もあり、会長が選ぶ招待講演をお願いしたところ快諾してくださいました。「視るということ」というテーマで、鋭い切り口によって我々の対象である「みる」ことの意味と重要性についてお話しいただきます。いろいろなインスピレーションやモチベーションを得てほしいと思っています。

養老先生の講演に代表される「みることの大切さ」に加えて「五感の科学最前線」「脂質から見た研究」の3つが、私が総会長としてやりたかった横断的な企画です。

特に基礎医学系の研究で横断的なトピックはこれまでも企画されていましたが、感覚器だけというのは恐らく今回が初めてだと思います。ほかの感覚の話題を学べることは、眼科の重要性を再認識し、他科との連携および研究推進にとても重要だと思います。

脂質はタンパク質と異なり遺伝子にコードされていないので、とっつきにくい分野ですが、とても重要であることを会員の皆さんに認識してもらいたいと思い脂質に関する企画を立てました。

これらを通じて、どうしても縦割りになりがちな眼科領域を横断的につなげていきたいと考えています。

女性や地方の医師にも配慮しハイブリッド開催

一般の方は市民公開講座で、失明に至りやすい緑内障についてよく学んでいただく機会になればいいと思っています。加齢により目が衰えることでいかに困るか、それを防ぐためにどうやって早く見つけるかをぜひ学んでいただきたいです。

コロナ禍が明けたことから今回は対面を基本とする一方で、これまでの学会運営で培ったノウハウを事務局と吟味しました。全てハイブリッドだとお金がかかってしまうので予算も鑑み、第1会場のみライブ配信し、それ以外は現地開催としました。オンデマンド配信も後日実施します。眼科医の4~5割を占める女性や地方の開業医で、どうしてもフルに参加できない方もご参加いただけるようにハイブリッドにしました。

新型コロナウイルス感染症の拡大から3年半近くがたち、やっと出口が見えてきた今回の総会で、医療関係者の方には対面のディスカッションで盛り上がり、コミュニケーションの大切さを再認識し、最新トピックを知っていただきたいと切に願っています。特に学会のテーマである「みる」ということの重要性を医療従事者も再認識し、それを社会に還元できるよう多くの新しい知識を得てもらいたいと思っています。

今回このような機会を得られたのは私の力だけでなく、プログラムを組んでくれた先生方はもちろん、今まで我々に教えてくださった諸先輩がいたからこそであることに感謝してこの会を運営します。
 

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