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「生命の営みの回復」テーマに学術集会~日本血液学会、完全オンラインで開催

公開日

2021年09月09日

更新日

2021年09月09日

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2021年09月09日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年09月09日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

日本血液学会は9月23~25日、「恒常性と復元力」をテーマに第83回学術集会を完全オンラインで開催します。当初は仙台市を会場にウェブとのハイブリッド開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の第5波が猛威を振るう中、開催方法を切り替えました。東日本大震災やコロナからの“復元”とも絡めた今大会のテーマ、見どころ、開催に向けた思いなどについて学術集会会長の張替秀郎先生(東北大学大学院医学系研究科血液・免疫病学分野教授)に伺いました。

池江璃花子選手が克服、白血病の治療とは

水泳の池江璃花子さんが2021年8月に行われた東京オリンピックに、白血病を克服して出場しました。

白血病は“血液のがん”で、かつては不治の病といわれましたが、さまざまな抗がん剤が開発され治療技術も向上したことで、今では大勢の方が社会復帰できるようになりました。

白血病をはじめとして難治性の血液の病気を治すには、まず大量の抗がん剤投与などで病的ながん細胞をなくします。しかし、それだけでは治癒したとは言えません。造血幹細胞という血液の元となる細胞を移植するなどで正常な血液が戻ってくるように復元して初めて治ります。つまり、造血を復元することで初めて新たな体の恒常性、生命の営みが回復するのです。

今回の学術集会は、まさにその生命の営みの回復を象徴する「Homeostasis and Resilience-恒常性と復元力-」をテーマに選びました。

血液学とは、造血=血液細胞を理解する学問であり、血液の本質とは酸素を運搬する、外敵から身を守る、出血を止めるなど生命の根幹、恒常性を保つことにあります。そうした血液学の本質を学ぶ機会にしたいという思いがあります。

それに加えて、今年は東日本大震災から10年という節目の年です。震災によって社会の恒常性が失われ、復元の途上にあります。さらに、昨年から続く新型コロナウイルス感染症で今まさに社会の恒常性が失われていますが、いずれかの時点でそれが復元の過程に入るでしょう。社会的にも恒常性と復元力が、これからの非常に重要なテーマとなってゆきます。

「血液学の〇〇」のような分かりやすいテーマではないのですが、今回の学術集会は血液学の本質と社会の本質の両方を考察する機会にしたいと思っています。

がんになっても子どもを~「妊孕性温存」テーマに公開講座

一般の方向けには、日本白血病研究基金と共同で恒例の市民公開講座も準備しています。今回のテーマは「妊孕性(にんようせい=妊娠する/させるために必要な能力)温存の保険適用を目指して」です。

白血病に限らず、がんの治療に抗がん剤や放射線を用いると、卵子や精子がダメージを受けて不妊になる可能性があります。血液のがんは子どもや若い方がかかることも多く、子宮頸がんなど比較的若い方にもみられるがんもあります。それらの治療後に妊娠・出産を望む場合には、卵子や精子、受精卵などをあらかじめ取り出して凍結保存する「妊孕性温存療法」を受ける必要があります。2021年度から、この治療に助成金が支給されることになりました。これを1歩進めて保険適用を目指す動きもあります。血液がんの患者さんのサポートなどに尽力していただいているNPOの方たちも、若い方の妊孕性への関心が高く、われわれと共通の課題でもあることから取り上げることとしました。

血液がんも、治癒・寛解して長期生存される方が増えています。すると、新たな問題となるのが、抗がん剤・放射線の後の新しいがん=2次がんをいかに防ぐかということ。そしてもう1つ、強い治療をして妊孕性が失われてしまうことが、特に若い患者さんにとっては長期的に大きな課題だと考えます。

ウェブ開催で全国の方が参加可能です。多くの方にご覧いただけるよう、準備を進めています。

特別シンポ「コロナ医療と社会」も

血液学会には、たとえば悪性リンパ腫であるとか、白血病、貧血……といったように専門領域ごとのコミュニティーがあり、それぞれが提案した最新のテーマによるシンポジウムがあります。それに加えて、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国の学会とのジョイントシンポジウムで最新の情報を交換します。

ほかに大会長が提案する「プレジデンシャル・シンポジウム」などが加わります。私の専門が赤血球造血、貧血なので、プレジデンシャル・シンポジウムは造血幹細胞から赤血球への分化という基本的なテーマにしました。また、スペシャル・レクチャーも造血幹細胞と鉄代謝という“造血の基本”について、高名な先生方にお話ししていただく予定です。

血液専門医は自分が専門の特定分野の患者さんだけを診るわけではなく、難治性の貧血も悪性リンパ腫も白血病も血液内科医として診療をします。そこで必要な知識を広く得て、さらに最新のトピックスをまとめて学習する機会として学術集会があります。

特別シンポジウムとしては、「ポストコロナの医療と社会」に関する社会的なテーマを取り上げたシンポジウムを組みました。

コロナ対策と血液治療のジレンマ

コロナの話が出たので、血液内科とコロナ治療について少しお話ししましょう。

血液のがん治療で、病的な血液細胞を取り除く際、一時的に免疫不全のような状態になることがあります。治療で免疫が弱まっているときにワクチンを打っても、コロナに対して十分な免疫がつかない恐れがあります。ウイルスについての“情報”を免疫システムに記憶させておき、本当にウイルスが体に入ってきたときに即時に反応できる準備を整えておくのが、ワクチンの基本的な考え方です。ところが、治療で免疫が弱っていると、準備を整えることができません。一方で、免疫が弱っているときに本物のウイルスが入ってくると重症化する可能性があります。

血液の病気を治療中の患者さんは、ワクチン接種を先送りするのか、それとも維持療法のような治療をいったん休んでワクチンを優先させるか――そこは患者さんと担当医との相談になります。医師としてはワクチンと治療法の選択という意味で悩ましく、診療においてかなりの影響があります。

オンラインでは再現不能な「人とのつながり」

本来、今年の血液学会は初めて仙台市で開催の予定でした。会場に来て、震災で失われた恒常性がいかに復元したかを見ていただきたいと願っていました。この時期にはコロナが収束していると予想し、コロナ後の社会、特に血液診療や医療がどのように復元したかを話し合う機会になればと思っていたのですが、状況が全国的に悪化して復元は遠い状況です。ワクチン接種が進んでいれば、通常の恒常性、学会の恒常性、医療の恒常性が戻って復元が実感できるかと期待していたのですが、間に合いませんでした。多くの医師はワクチンを打っているので感染リスクは低いとはいえ、社会情勢的に現地参加は厳しいでしょう。

そのため、非常に残念ですが開催形式を全面オンラインに切り替えました。

現地開催のよさは、講演やシンポジウムを聞くだけでなく、さまざまな人と出会い、情報を共有したりディスカッションしたりできることです。

会場外で自分の専門のコミュニティーで集まって話したり、普段なかなか会えない人と会えたり、場合によっては学会の企画で新しい研究につながったりと、思いもかけない広がりがあります。昔からのコミュニティーを強化したり、新しいコミュニティーができたりといった場が学会なので、それをオンラインで再現するのは難しいと思います。

コロナが収まった後も「オンラインだけでいいじゃないか」となってしまうと、学会や学問の将来性、発展性が限られてしまうのではないかと危惧します。

その意味で、コロナ後にはぜひ現地開催に向けた復元力がはたらくことを期待しています。

*学術集会の詳細についてはウェブサイトをご参照ください。
 

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