第123回日本外科学会定期学術集会が2023年4月27〜29日、グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)で現地開催されます(後日アーカイブ配信あり)。テーマは「より高く、より遥かへ -Higher and Further Together-」には、外科医療をより昇華させていきたいという大木先生の強い思いが込められています。東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)301人と同門会の「おもてなし」で迎える学術集会への思いを、会頭を務める慈恵医大外科学講座チェアマン(統括責任者)の大木隆生先生に聞きました。
4年ぶりの本格現地開催(後日アーカイブ配信ありのハイブリッド形式)となる今年の学術集会は慈恵医大一同の「おもてなし」を大切にしています。第一会場となるのは、国内屈指の大規模イベント会場として有名なグランドプリンスホテル新高輪の「飛天」です。飛天に隣接したプールサイドでは連日朝から夜まで「縁日」を開催します。射的、型抜き、シュミレーションゴルフなどを催し、たこ焼きや焼きそばなど屋台フードは食べ放題としました。コングレスバッグも肩にかけやすく、上げ下ろしもしやすいよう利便性を考えて設計しています。
イベントや酒席での交流は、外科医同士の仲間意識や帰属意識を醸成するために非常に重要です。慈恵医大の外科では、毎月「チェアマン夕食会」を実施。新型コロナ流行以前までに144回実施しており、3年ぶりに今月(2023年4月)再開する予定です。また年に2回「大木杯」と称したゴルフコンペや慰安旅行など、総勢301人の医局員が結束力を高めて一致団結できる機会を多数設けています。
第100回月例チェアマン夕食会(提供:大木先生)
大木杯での一枚(提供:大木先生)
慈恵医大外科は、約10年前から外科医が不足している地方の病院に継続的に医師を派遣しています。医師不足に悩む地域では、高額なインセンティブを支払うなどして医師確保に努めているケースがありますが、その方法に持続可能性がないことは明々白々です。そこで私は、活力・余裕のある大都市の医局が率先して医師を派遣し、地域医療を支えるべきだと考えました。派遣期間は基本的に1年間限定で、戻ってきた医師には本人の希望(留学など)をかなえるなどの配慮を欠かしません。元々使命感が強い医師が集まってきていることもあり、皆が自主的に地方の病院へ出向いてくれています。
2011年の東日本大震災発生後に1週間交代で医師派遣することになった際、医局員に志願者募集のメールをすると、すぐに40人以上から返信が来たことには驚きました。医局員が被災地へ出発する際は、外科の医局員が病院の入り口にずらりと並んで見送り、帰ってきた時もそろって出迎え、仲間の労をねぎらいました。
帰ってきた医局員に「ところで外科医としての仕事(手術)はあったか?」と聞いたところ、まったくないと言います。それならば、外科医を派遣する必要はないのではないかと言ったところ、彼らは口をそろえて「大木先生、それは違います。内科系の先生は何か起きたときのために『外科医がいてくれて安心だ』と言ってくれています。だから外科医が退いてはいけません」と言うのです。まったくそのとおりでしょう。それを聞き、慈恵医大からはその後も外科医を派遣し続け、震災から12年たつ今も福島県南相馬市の病院に外科医を派遣しています。手術件数には反映されない外科医の存在意義があることを忘れてはなりません。
今年のテーマは「より高く、より遥かへ -Higher and Further Together-」としました。“手術不能”の壁を乗り越えるために、より難しい手術、より高い技術に挑戦する。患者さんにとっても外科医にとっても「手術をしてよかった」と思えるような満足度の高い外科医療を追求する。そして、外科医が持続可能な医療を提供していくために、欧米並みにより高い外科医の社会的地位と待遇を目指す――。より高く、より遥かまで外科医療を昇華させたいという思いを、学術集会のテーマに込めました。
学術集会ポスター。写真は大木先生自らが後続の民間航空機から撮影
今回会頭を務めさせていただけるのも、これまで外科医として一生懸命に患者さんと向き合い、よりよい手術を目指して研究開発をし、講座運営にあたってきたことが結実したと自負しています。301人の医局員が各地で心を1つにして、明るく前向きに外科医療に向き合って日々行った学生教育、緊急手術、研究発表などが何らかの形で会頭選挙に影響したのではないかと思います。ノルウェーの探検家、ロアール・アムンセンが南極点に到達したとき、そこに国旗を立てたように、我々は高い頂に到達した証として外科学会を主催させていただきます。
全国的に外科医が不足しているなか、2024年4月には医師の働き方改革が適用されるなど、外科医療を厳しい現状が取り巻いています。「外科医がもっと輝くために何ができるのか」――私自身のこれまでの経験や成し得てきたことを含めて、学術集会の場で議論・発信できればと考えています。ぜひ奮って現地参加してください。
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