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変革を求められる「大学」のあり方――激動の時代をどう歩むか

公開日

2020年12月11日

更新日

2020年12月11日

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2020年12月11日

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人工知能(AI)を含むコンピューターの技術革新によってさまざまな仕事が自動化されつつある現代。ある研究では「日本における労働人口の49%が機械に代替可能」という試算が出ています。長年北海道大学で医療と教育に携わり、2020年10月に北海道大学総長に就任した寳金清博(ほうきん きよひろ)先生は「今は自分たちの将来像を確実にイメージすることが難しい時代。大学教育はそのあり方を問い直すべきだ」と話します。今後の社会を見据えた大学教育のあり方とは――。寳金先生にお話を聞きました。

今、大学教育に必要なもの

AIなどの技術革新によって、多くの仕事が機械に代替されると言われています。既存の価値観が塗り替えられ、自分たちの将来像を確実にイメージすることが難しい時代において、大学教育もそのあり方を問い直すべきでしょう。

これからの大学教育では「リベラルアーツ」の重要性が一層高まることが予想されます。リベラルアーツとは、基礎的な教養と人としての根幹を形成し、生きるための力を身につける手法です。その概念は古代ギリシアで生まれ、やがて言語系3学(文法・論理・修辞)と数学系4学(算術・幾何・天文・音楽)で構成される「自由7科」に定義されました。幅広い分野の視点を身につけ、どのような時代にあっても自ら考え行動できるようになることが、リベラルアーツの目的です。これからの大学教育では、リベラルアーツによって文理の枠を超え、幅広い教養の習得を促すことで、変化の絶えない社会を生き抜く総合力ある人材を輩出することが重要と捉えています。これは、従来の単線型・専門型の教育ではなし得ないことです。

病院の外観写真:PIXTA
写真:PIXTA
 

イメージしていただきたいのは、小学校・中学校くらいまでに学んだ「人としてのスキル」です。たとえば、友達をつくる、先輩とうまく付き合う、自分の意見を伝え、相手を尊重する――。このような人としてのスキルは社会を生きるうえで必要不可欠であり、その後の人生でも長く使う非常に重要なものだと思うのです。

今世界で話題になっている「STEAM人材」という言葉をご存知かと思います。STEAMとは▽科学(Science)▽技術(Technology)▽工学(Engineering)▽アート(Art)▽数学(Mathematics)――の頭文字をとったもので、今までにない新しい価値を創造し、社会を変革させる力になる人材と言われています。近年は日本でも、大学や大学院といった高等教育にリベラルアーツを組み込み、社会で幅広く活躍できるSTEAM人材を育てるという発想が生まれてきました。

急激に進むオンライン教育――地理的優位性の崩壊?

2020年、新型コロナウイルス感染症の影響であらゆる分野でオンライン化が急速に進みました。大学教育もその1つです。大学の講義を全面的にオンラインで行うなど、以前はありえないと思っていたことが、今や現実になっています。物理的なキャンパスを持たずにオンラインで講義を行い、今や世界最難関大学の1つとなった「ミネルバ大学*」も非常に象徴的な存在です。さらにオンライン化が進めば、日本にいながら海外の大学で教育を受けることも可能になるでしょう。実際、大規模公開オンライン講座(MOOC=Massive Open Online Course)という誰でも無償でオンライン講座を受けられるサービス(希望者は有料で修了証を取得可能)があり、世界各国で受講されています。

今後さらにオンライン化が進むことで、大学の地理的優位性は薄れていくでしょう。つまり有能な人は日本に限らず海外の大学の講義を受けることができるし、逆に大学側は世界中の学生を相手に教育を提供することができる。今後10年先、20年先には、地理的優位性よりも大学そのものの本質が問われる時代がやって来るのだと思います。

*ミネルバ大学:2014年に開校した全寮制の4年制大学。学生は世界7都市を移り住みながら、オンラインで講義を受ける。

オンライン講義のイラスト:PIXTA
写真:PIXTA

教育と研究に関してこれまでの当たり前が変わるとき

日本の大学は、教育と研究が一体化したドイツの大学をモデルにしてつくられたと言われています。従来大学で行うべきは「教育と研究」であり、それらは表裏一体であると考えられてきました。分かりやすい例が、卒業研究(卒業論文)ではないでしょうか。そこには、素晴らしい研究活動を行うことが良質な教育につながる、という期待があったように思いますが、研究活動とは切り分けて、教育そのものを良質にするための仕組みや仕掛けが必要と考えます。

研究に関しては、研究開発費が日本ではほぼ横ばいなのに対し、米国や中国では継続的に増加しています。特に中国では研究開発費が2006年から2015年までに4倍近くなり、さらに研究開発の活発さを表す科学論文数では2017年に米国を上回りました。このような世界の勢いを目の当たりにすると、日本が科学立国であるという考えはもはや風前の灯のように思えます。これまで日本は「選択と集中」で、特定の大学に研究開発費を重点的に投じてきました。しかし、ポストコロナの新しい社会設計を考えても、集中型ではなく分散型の投資の利点が再評価されると思います。

大学の経営はもはや「企業経営」に近い

今、国立大学の経営はさながら企業のようだと言われます。最近注目を集めているのが国立大学における「経営的収入」です。経営的収入につながるものとして▽ベンチャーキャピタル▽アセットマネジメント▽コンサルティング▽大学債――などがあります。

投資を通じて研究成果の活用を促進する「大学発ベンチャーキャピタル」の活動は、大阪大学や京都大学などすでにいくつもの国立大学で行われています。また、「アセットマネジメント」として不動産の運用があります。大学が所有する土地や建物を利活用して収入を得ることが可能になっており、北海道大学でもアセットマネジメントの実施を検討しています。国立大学がその知を活用して企業向けの「コンサルティング会社」を設立する例も増えてきました。さらに2020年6月、国立大学法人法の改正によって「大学債」の発行要件が緩和されました。国からの交付金・補助金が減少するなかで、使い道が自由な資金を得られる有用な手段となるでしょう。同年10月には東京大学が200億円を調達すると発表し、その先陣を切りました。

学長就任の思い――北海道大学のこれからを見据えて

北海道大学は国が設置した旧帝国大学の1つであり、北海道では唯一の総合大学です。そういった歴史的・地理的な面でも、我が国にとって必要な人材を輩出することを強く意識せねばなりません。その先にはさらに、グローバルに活躍する人材の育成という目標があります。北海道大学では、入学後最初の1年間は幅広く教養を身につけられるようリベラルアーツに力を入れています。また、学部教育と並行して行う特別プログラム「新渡戸カレッジ」では、幅広い知識の醸成と共に、豊かな人間性と国際性を育成するための教育を提供しています。今後はさらにレベルの高いリベラルアーツを学ぶ機会を増やし、これからの日本を支える人材の育成に尽力したいと考えています。また、北海道大学病院に関しては30年先、40年先の日本を見据えて、地域への貢献と収益性を兼ね備えた医療を提供すべく、その再開発を進めていきます。

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