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節目の第20回臨床腫瘍学会学術集会 福岡で開催―当事者のがん理解深めるプログラムも

公開日

2023年03月09日

更新日

2023年03月09日

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2023年03月09日

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「Cancer, Science and Life」をテーマに、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会が2023年3月16日〜18日、福岡国際会議場・マリンメッセ福岡(福岡市博多区)で開催されます(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。医師、研究者だけでなく、患者さんやご家族、市民向けに医薬品の早期開発をテーマにした講座などのプログラムが用意されています。節目となる第20回大会で大会長を務める馬場英司先生(九州大学大学院医学研究院 社会環境医学講座 連携社会医学分野 教授)に、学会の果たすべき役割を踏まえながら、本集会の見どころやテーマに込めた思いについてお話を伺います。

患者さん自ら知見を深められる学術集会に

学術集会は医師などが研究発表や情報交換をする場ですが、当事者である患者さんご自身が病気について理解を深められる場にもしたいという思いで、第9回大会から、毎年、患者さんやご家族、市民の方が参加できる特別プログラム「ペイシェント・アドボケイト・プログラム(以下、PAP)」を開催しています(今年の参加者募集は終了)。医学的知識だけでなく、学会がどのような活動をしているのかを知っていただくとともに、患者団体などの活動が活発化し、また患者さん同士の協力体制を作ってもらうことで、がん医療によい影響を与えてほしいという思いへつながり、年々規模が拡大しています。

今年の注目演題の1つは、2023年度に見直される国の「第4期がん対策推進基本計画」について解説する基礎講座です。また、がん患者さんの関心が高い新規薬剤の早期承認に関する話題について、医薬品医療機器総合機構 (PMDA)の理事長を務める藤原康弘先生に解説いただく講座も予定しています。そのほか、希少がんとゲノム医療、緩和ケア、臨床試験の仕組み、アピアランス(外見)ケアなど、幅広いテーマの講座をご用意しています。

学術集会とは別日程で市民公開講座も予定しています。

がん診療のマネジメント人材を育てる日本臨床腫瘍学会

「臨床腫瘍学」とはどのような学問で、それを担う「腫瘍内科」が何をしている診療科なのか、具体的なイメージが湧かない方もおられるかもしれません。簡単に言うと、臨床腫瘍学とは全身のあらゆるがんを対象とする学問分野であり、がんに対する薬物療法も含まれます。腫瘍内科はがんの薬物療法を専門とする分野といえます。

腫瘍内科医には、チーム医療におけるがん診療のマネジメントという重要な役割があります。薬だけでは治せないがん、あるいは外科手術だけでは治せないがんは多くあります。その場合、薬物療法や外科手術、放射線治療など、さまざまな治療法の専門家と協力して治療戦略を練る必要があります。また、新しいタイプの抗がん薬が使われるようになり、従来とは異なる副作用がみられるようになっています。たとえば、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる抗がん薬は、がん細胞を排除するT細胞を活性化させることで治療が成り立ちますが、このときに正常な組織を攻撃してしまう自己反応性T細胞も同時に活性化し得ると考えられています。それによって1型糖尿病や下垂体炎、甲状腺炎など、以前の抗がん薬ではみられなかった副作用が起こることがあります。腫瘍内科医はこれらの疾患を診断すると同時に、各診療科の専門医と連携し、患者さんを適切な治療へとつなげています。

がん患者さんはメンタルケアや生活支援を必要とされています。これには緩和ケア医・看護師、ソーシャルワーカーなどのさまざまな専門の職種が関わるため、腫瘍内科医は多職種と円滑なコミュニケーションを図って患者さんを支援することが求められます。こうしたチーム医療の一員として活躍できる腫瘍内科医を育成することも日本臨床腫瘍学会の責務です。

テーマに込めた思い

日本臨床腫瘍学会は、科学の進歩に基づいてがん治療の発展に取り組んでいます。薬物療法を受ける患者さんには、治療の見通しが厳しい状態にある方も含まれます。そうした患者さんが、日々の生活を快適に過ごし、豊かな人生を送るための助けとなることを本学会は目指してきました。第20回目の節目となる本集会を、「Cancer(がん)」、「Science(科学)」、「Life(人生)」についてあらためて考える場にしたいと思い、テーマを「Cancer, Science and Life」としました。

本学会には、目の前の患者さんのがん治療に携わる医師・看護師・薬剤師、新しい抗がん薬の開発にあたる研究者、緩和ケアや患者支援の専門家、あるいは企業や行政に所属する方など、さまざまな立場の会員がいます。その数は約9000人にのぼります。その一人ひとりが自身の視点から「Cancer, Science and Life」について考え、互いに知見を深められる学術集会になることを願っています。そして、日本中、世界中にそれぞれの分野からがんと向き合っている専門家が数多くいることを、患者さんやご家族にも知っていただければ嬉しく思います。

いまだ高いがんの死亡率―新規治療開発を目指す

本学会の設立前の1990年代に比べて、がん治療は飛躍的に進歩しました。有効な抗がん薬の種類は格段に増え、科学的根拠(エビデンス)に基づく治療が発展して生存期間も伸びています。しかし、いまだに治らないがんが多いことも事実です。がんを治せる病にするためには、新たな治療を開発する必要があり、その際に必要となるのが臨床試験です。しかし臨床試験を行うにはハードルもあり、実施できる病院や研究組織が限られるなどの課題があります。もちろん安全性を担保するために厳しい制限は必要ですが、私たち腫瘍内科医は、その制限の中で可能な限り適切な試験を実施していかなければなりません。こうした共通の課題について知見を共有し合う機会も学術集会では多く設けています。

ノーベル賞の大隅良典教授、建築家・坂茂氏の講演も

第20回記念となる本集会では、記念講演と特別講演を予定しています。記念講演には2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典先生をお迎えし、オートファジー(細胞の自食作用)について講演していただきます。分子標的治療の作用機序にも深く関わるオートファジーについて、理解を深める機会になるでしょう。最新の研究成果に加えご自身のあゆみや基礎研究への思いも語っていただく予定です。

特別講演では建築家の坂茂氏にご講演いただきます。世界的な建築家である坂氏は、国内外の自然災害や紛争地域に出向き、紙管でできた仮設住宅やシェルターをつくる活動もされています。坂氏の「建築家も医療者も、困難な状況にある人を助ける必要がある」という言葉が強く印象に残っています。学術集会でも貴重なお話が伺えると期待しています。

学術集会に向けて―歴代理事長からのメッセージ

西條 長宏先生(初代):今では臨床腫瘍学が学問として認められ、多くの大学に臨床腫瘍学講座ができました。ゲノム解析に基づいた有効な薬剤も数多く使用可能です。学術集会の必要条件はMONEY、FACULTY、AUDIENCEといわれますが、もっとも重要なのはAUDIENCEであり、活発な討論が期待されます。臨床腫瘍学がますます発展し、多くのがん患者さんに福音をもたらすことを、あの世に行っても祈り続けるつもりです。

田村 和夫先生(第2代):テーマ「Cancer, Science and Life」には20年の活動が集約されています。科学に基づく知見こそががん医療を進歩させ、その結果として患者さんの満足度の向上に貢献してきたこと、さらに学会の未来像を展望することは時宜を得たでしょう。この機に本学会のミッション・ビジョンをぜひ再考してください。

大江 裕一郎先生(第3代):学術集会は米国のASCO、欧州のESMOに匹敵するアジアのJSMOを目指して国際化が進められており、多くの学術的なセッションが英語で行われるようになっています。今年は多くの方に海外から参加いただけることを期待しています。

南 博信先生(第4代):日本臨床腫瘍学会は、患者さんや国民のために何ができるか、世界の医療にどう貢献するかを常に考えて、目指すところを見失ってはなりません。今後20年間の活動によるさらなる発展を期待します。

石岡 千加史先生(第5代):新型コロナの影響があるにもかかわらず、内外から大変多くの演題が登録され、今年も最新で魅力的なプログラムが企画されました。この学術集会は第1回学術集会が福岡で開催されてから、ちょうど20年目にあたります。皆さまのご参加を福岡で心よりお待ちしております。

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