2024年5月18~19日に埼玉会館(さいたま市浦和区)で開催される第9回日本がんサポーティブケア学会(JASCC)学術集会、会長を務める渡邊清高先生(帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科教授)のインタビュー第2弾。患者・当事者とともに企画した数多くのプログラムに患者・当事者を参加可能とするこれまでにない学術集会となります。おすすめプログラムとともに、“注目”の学術集会が生まれた背景、渡邊先生が抱き続ける患者さんへの熱い思いを聞きました。
学術集会はさまざまなステークホルダーとの出会いの場でもありたいと思っています。私は、日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本緩和医療学会などで患者市民参画プログラムの企画に関わり、国立がん研究センターでは「患者・市民パネル」の運営など、当事者の方の視点や声を踏まえた情報提供や相談支援体制の構築に携わってきました。また、「メディアドクター研究会」として医療や健康に関するメディア報道や情報発信のあり方についてともに学ぶ場を設けています。がんの治療や支持医療において、質の高い情報発信を行い、研究成果を分かりやすく科学的根拠に基づいた形で発信できるように、メディアと研究者、そして患者・当事者など幅広い関係者が対話を重ねていくことはとても大切だと考えています。
今回の学術集会でもメディアドクター研究会とのコラボ企画として「がん研究の成果をどう発信するか」というセッションを設けました。最近は研究における患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)が進んできています。PPIとは「医学研究・臨床試験プロセスの一環として、研究者が患者・市民の知見を参考にすること」と定義されています(リンク:AMED患者・市民参画(PPI)ガイドブック )。実際に臨床研究に被験者*5として参加することに加えて、計画立案段階での提案や意見交換、研究の準備や実施、結果の公表などあらゆる段階で患者さんや当事者の意見や視点を取り入れることで、で、患者さん・当事者の方にとってよりよい研究成果の創出や、医学研究や臨床試験への理解の推進が期待できます。このセッションでは、主に研究者の視点からよりよい情報発信とはどのようなものなのか議論したいと思います。
同じ話題を患者さん・当事者の視点から考える「がん研究の情報発信はどうあるべきか」も企画しています。研究者・医療者はどう医療や健康情報をどのように発信し、伝えるのがよいのか、そして患者さん・当事者の方はどのような情報を求めているのか、一緒に考えていきたいと思っています。また「信頼できる情報づくりとコミュニケーション」というセッションでは、患者さんが情報を適切に見極めて安心して信頼できる情報につながり、治療やケアの場で医療者とコミュニケーションを取るために必要なことを話し合える機会につながると期待しています。
*5被験者:臨床試験の対象となる人で、試験に参加し定められた介入(薬の投与など)を受ける方
2023年には、JASCCの第8回学術集会が国際がんサポーティブケア学会(MASCC)と合同で開催されました。アジアでのMASCC開催も、JASCCとMASCCの合同開催も初めてでしたが、非常に盛況でした。もともとMASCCは欧米やオーストラリアなどから始まった支持医療に関する学術団体なのですが、国別の会員数は今では日本が一番多いのです。
国によって支持医療に関わっている職種も異なっています。日本は医師、看護師、薬剤師をはじめがん医療やケアのさまざまなプロセスに関与する多職種の方が関わり、幅広い領域について部会やワーキンググループが立ち上がって総合的に活動していますが、このようなモデルは海外でもあまり例がありません。漢方や伝統医学、ロボットやAI、アプリを使用した患者報告アウトカム(PRO:Patient Reported Outcome)の研究への実践も急速に広がっています。日本は薬物療法を専門にしている医師が支持医療にも関わっていることが多いので、薬物療法の臨床試験と平行して支持医療の研究も精力的になされているのも特徴です。緩和ケアと支持医療との統合的な研究のプラットフォームが構築されるといった動きも始まっています。このような日本の強みを発信しつつ、今後のアジア太平洋地域での支持医療についても議論できるとよいと考え、MASCCとの合同シンポジウム、そして韓国がんサポーティブケア学会(KASCC)とのセッションも企画しています。
今回の学術集会から、本格的に患者・市民参画プログラム(JASCC-PPI)を実施します。企画段階から患者さん・当事者の方にご参加いただき、魅力的なプログラムを提案していただきました。JASCC-PPIは、患者・当事者の立場で参加された方が特定の会場に集合してセッションを聴講していただくという形式ではなく、一般の会員や参加者向けのセッションのほとんどすべてに参加いただく形式にしました。患者さん・当事者としての体験をもとに、立場の垣根を越えて一緒に議論できるとよいと考えるいくつかのプログラムについては、「おすすめプログラム」としてウェブサイトにも掲載しています。すでにさまざまな学会の学術集会で実施されている患者・市民向けプログラムを参考にしながら、がんの支持医療の領域における「患者・市民参画」について、当事者の方が参加して、ともに学び意見交換し議論することで、これからの支持医療研究や医療の普及につながることが期待されます。会場は感染対策を含む安全な環境の確保に十分配慮し、体調の悪い方が休憩いただける簡易なスペースなども準備しています。患者さん・ご家族などの当事者・支援者の方はもちろん、必ずしも医療に関する仕事をしているわけではないが、何らかのかたちで患者さんや当事者の方に対して自分にも何かできることがあるのではないか……と思っている方にもぜひご参加いただきたいです。
私自身、もともと患者さんを継続的に診ていきたい、どのような状況においても役に立てるような医療者でありたいという思いがありました。がんが疑われた時、がんと診断された時から最後の時まで、あるいはお亡くなりになった後のご家族との関係まで、長い関わりになることもあります。一方で、今は医療従事者や関係機関が適切に役割分担をして連携を取っていくというのも切り離せない議論です。一人ひとりの医療者が別々に関わりをもつということは持続可能性という意味でも、患者さんにとってのよりよい療養環境という意味でもよくないかもしれません。必要な時は適切なタイミングで、患者さんによりよい選択肢を提案できるようにしたいと考えています。そのためには、情報共有と連携が鍵であり、切れ目のない支援体制を築くことによって、患者さんが安心して住み慣れた地域で継続的に医療やケアを受けられる仕組みを作っていく必要があります。
支持医療は、一部の専門的な領域で限られた人が行うものではなく、よりよいがん医療やケアを届けて患者さんの予後、QOLを向上することを目指す、共通の資質であり能力といえます。そういった意味では、患者さんの治療やケアに関わる人同士が「支持医療は必要なのだ」という意識を共有することが一番大事なのだと思います。治療ができればよい、退院できればよいというところから、患者さんは何が心配なのか、どのようなことで困っているのか、何を求めているのかをスタートに考えると、やはり一番必要なのは「その人のために何ができるのか」ということなのだと思います。「支持医療」や「サバイバーシップケア」という言葉がなかった頃から「その人のためにできることを考え、みんなで考えて共有してお互いによい医療をできるようにしよう」という思いはずっと変わりませんが、この学術集会はこれを具体的に一歩前に動かす重要な機会だと思います。
がん診療を専門にしている医療従事者の方はもちろん、必ずしもそうでなく、がん医療やケアについて最近の様子を知りたいという方にも、ぜひ学術集会に参加していただきたいです。支持医療やサバイバーシップケアの現状をお聴きいただくと、最近のがん医療の進歩や将来像を知っていただくことができ、これからのがん医療やサポーティブケアについて、夢を膨らませていただけるきっかけになると思います。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。