第120回 日本内科学会総会・講演会が2023年4月14日(金)~16日(日)、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催されます(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。今年の講演会のテーマは「新しい医学を協創する内科学」です。講演会の会長を務める小室一成先生(東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学教授)は、これまでにない「新しい医学」を創るためには、患者さんやご家族をはじめとした国民全員の英知を結集させることが必要不可欠と語ります。小室先生に国民への情報発信の意義、内科領域の課題や注目トピックなどをお聞きました。
2021年、循環器病の啓発や患者さんとの連携を専門に行う団体「日本循環器協会」を設立しました。高齢化が進む日本では、一人でも多くの方に循環器病について正しく知ってもらうことが大切だと考えたためです。
現在、日本における死因のトップはがんですが、次いで心疾患(循環器病)が多くなっています。高齢になるほど循環器病に罹患される方や亡くなる方の割合が増加するため、今後ますます高齢化が進む日本ではさらなる増加が危惧されています。また、循環器病は平均寿命と健康寿命の差を生む大きな要因でもあります。その差は男性で約9年、女性で約12年とされており(2019年調査)、この期間をできるだけ短縮するためにも、食事や運動などの生活習慣を見直すことは大切です。
また、世の中には病気に対する間違った情報があふれていることも大きな問題だと思っています。患者さんの中には「薬は飲まないほうがよい」との情報を鵜呑みにして処方薬を自己判断で中止してしまい、急激に体調が悪化して救急搬送される方もいます。
「何とかしないといけない」という強い責任感と課題感を持ったメンバーに恵まれ、日本循環器協会は着実に成長しています。新しいアイデアや活動によって、循環器病の予防啓発を行っていければと思います。
今回の講演会のテーマ「新しい医学を協創する内科学」には、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)を駆使して、今までにない「新しい医学」を創りたいという思いを込めました。これを実現するためには、医師をはじめとする医療従事者の力だけでは不可能で、医薬品や医療機器の企業、さらには患者さんやご家族など国民全員の知恵と力を結集させた「協創」が必要です。
これから先、医療はますます高度化、複雑化、先進化、多様化していきます。その一方で、2024年4月には「医師の働き方改革」の適用が始まり、医師の労働時間を削減する動きが本格化します。さらに日本経済の長期低迷により、十分な研究費が確保できない、医師の給料が上がらない――など医療には多くの問題が取り巻いています。つまり、医師に求められる技能は難しくなる一方で、それに対応するだけの資源が十分に確保できない状況に陥ります。将来、日本の医療はさらに厳しい状況になるでしょう。医学・臨床レベルの低下も危惧されます。その前に早急に何らかの手を打たなければなりません。
その解決策の1つとなるのがAIです。AIの活用方法についてはさまざまな検討が進んでいますが、現時点で有用性が高いと考えられているのは病気のスクリーニングです。たとえば今、循環器領域では心電図データをAIで解析できるソフトウェアの開発が進んでおり、非常に高い確率で心不全や心房細動を検知できるようになっています。これらの疾患は循環器科以外では診断が難しいのですが、将来的にはその他の診療科でも心電図検査を実施すれば、AIが自動的にスクリーニングを行ってくれるようになるでしょう。異常が指摘された場合に循環器専門医に紹介していただくことで、詳しい検査や治療を実施することができます。AIによる病気のスクリーニングは、現場の負担軽減と適切な医療提供に寄与すると考えています。
また、AIを活用して膨大な医療情報を収集・解析することで、一人ひとりの患者さんに適したオーダーメイド治療が実現することも期待されています。膨大なデータの中には、必ず同じような特性を持つ患者さんが存在するため、治療歴や効果を突合することで、個々の患者さんに適した治療法を予想することができます。
AIによる医薬品開発への貢献にも期待しています。医薬品を開発するための臨床試験には、長い年月と数百億円~数千億円の莫大な費用がかかります。それがネックとなり、日本の製薬企業は医薬品開発に躊躇している現状があります。しかし、AIによる情報解析であらかじめ薬が効きそうな患者群を見つけ出し、対象者を限定して臨床試験を行うことができれば、費用を大幅に削減することができます。そうなれば医薬品開発を行う製薬企業への大きな後押しとなるでしょう。
今回の講演会では、これからの医療に必要不可欠なツールとなるAIをテーマにしたプログラムを複数用意しています。特別講演ではAI研究をリードする松尾豊先生(東京大学工学部)に「医療におけるAIの活用」というテーマでお話しいただきます。 パネルディスカッションではAIを使った研究・臨床がどこまで進んでいるのか、複数の先生に具体例を発表していただきます。
今回、講演会の会長を務めるにあたって、思い浮かぶのはこれまで私を温かく指導・支援してくれた恩師の姿です。私は東京大学を卒業後、東京大学医学部附属病院第三内科に入局しました。内科研修で第一、第二、第三内科を回ったなかで、研究・臨床面においてもっとも魅力に感じたのが第三内科でした。“エリート集団”と言われる第三内科に自分が入れるのか不安に感じていたとき、私に声をかけてくださったのが、故・高久史麿先生と宮園浩平先生です。お二人の「一緒に臨床・研究をやりませんか?」という誘いに感激し、その場で第三内科に入局することに決めたのです。
入局後、第三内科の循環器グループに入ることに決めたのは、矢﨑義雄先生との出会いがきっかけでした。臨床面では循環器、研究面では代謝やがんに興味があり、専門領域に悩んでいたときに「生化学・分子生物学を中心に循環器研究を発展させていこう」と矢﨑先生からかけていただいた一言が、私に循環器へ進む決断をさせてくれました。矢﨑先生はとても懐が深い方で、自由奔放な私を制限することなく、厳しく指導しながらも自由に研究・臨床をさせてくれました。また永井良三先生、門脇孝先生にもいろいろなことを教えていただき、今でも私を支援してくださっています。こうした先生方と一緒に臨床・研究に携わってこられたことは、本当に幸せなことであり、これを糧に今後も邁進していきたいと思います。
今年の講演会では、現在の内科領域における臨床、研究、社会的側面などに関する課題やトピックについて、3日間にわたって豊富なプログラムを用意しています。ぜひ多くの先生方に奮って参加いただき、新しい内科学について考えていただく場にしたいと考えています。
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