日本の医学系141学会が加盟する日本医学会は、4年に1度の学術集会を2023年4月21日〜23日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催します(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。「ビッグデータが拓く未来の医学と医療〜豊かな人生100年時代を求めて〜」をテーマに、「社会への発信」を重視し、医師・医療従事者だけでなく、子どもを含めた一般の方が無料(要参加登録)で参加できるプログラムも多数用意されています。同時開催される展示会・博覧会は、利便性を考慮し丸の内・有楽町エリアで行われます。会頭を務める春日雅人先生(朝日生命成人病研究所所長/国立国際医療研究センター名誉理事長)に、総会の見どころやテーマ、開催に向けた思いについて伺いました。
近年、一般の方にも医療への興味・関心を強く持っている方が多く、専門性の高い新しい医療トピックを知りたい方も増えてきている印象です。そうしたニーズに応えて、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)や認知症、片頭痛、ダイエット、食事、お口の健康など身近な話題を扱う「市民向けセッション」を用意しました。これに加えて、医師・医療関係者向けの「学術プログラム」の一部にも市民の方が参加できるようにしています。ここでは、ビッグデータの活用、新型コロナへの世界・日本の対応、再生医療、医療への患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)などをテーマにしたエキスパートの講演を、現地会場で聞くことができます(オンライン参加も可能)。
今、世の中にはたくさんの医療情報が溢れかえっていて、有益な情報とともに、事実とは異なる不確かな情報も多く流れています。医療情報の非対称性を是正するために、人々に信頼できる正しい情報を届けることは本総会の1つの意義です。
4月15〜23日の約1週間、丸の内・有楽町エリア全体を会場にして市民向けの博覧会を開催します(入場無料)。博覧会のテーマ「みんなで健康・みんなの医療・みんなが長寿」に基づいて、子どもから大人まで、学生から医療に関わる人たちまで、誰でも楽しく学べることがコンセプトです。
次世代の病院を見て体験できる「次世代スマートホスピタル202X」、運動や食事をテーマにした「セルフケアスタジオ」、地域包括ケアやホームドクターについて考える「コミュニティクリニック」といったプログラムのほか、新型コロナやがんゲノムについて学べる展示企画、子ども向けの手術体験などを予定しています。丸の内仲通りを中心に健康に関するさまざまなイベントを開催する「街ぐるみ企画」もありますので、子どもから大人まで家族で1日楽しんでいただけると思います。
日本医学会総会は1902年に第1回が開かれ、以降4年ごとに開催されて今回が31回目になります。120年にわたる歴史の中で、日本医学会総会の意義は大きく変化してきました。
当初の日本医学会は加盟する各学会(分科会)の連合で、総会も独自に開くのではなく分科会の日程の一部を「総会」と銘打って、その時代の最先端の研究を紹介する場でした。
診療科の違う医師たちが一堂に会してつながりを持ち、共通のテーマ・課題について討論する場で、今もその役割は変わりません。
一方で変わったのは、医師のための総会から、医療従事者、さらには一般の方を含めた社会に開かれた総会になったことです。戦後しばらくして日本医学会総会が分科会とは別に単独開催されるようになり、さらに時代がたちチーム医療の必要性が叫ばれるようになると、あらゆる医療従事者を巻き込んだ総会に変化していきました。今では、医学・医療の現状と課題を社会に広く発信することも私たちの重要な使命であり、4年に1度の総会はその絶好の機会です。一般の方々にも将来の医学・医療がどのように変わっていくのかを知っていただき、解決策を一緒に考えてほしいと思っています。
日本の医療は今、少子超高齢社会や新型コロナなど大きな問題に直面しています。こうした問題を解決するために、おそらくもっとも頼りになるのが「ビッグデータ」という言葉に体現される、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)などの技術革新だと考えています。そこで今回の総会テーマを「ビッグデータが拓く未来の医学と医療〜豊かな人生100年時代を求めて〜」としました。
ビッグデータの活用は、基礎研究においても重要な意義があります。研究では動物モデルで証明できた事象がヒトでも証明できるかを確かめますが、ヒトではなかなか当てはまらないことが多くあります。動物モデルは遺伝的・環境的要因がほぼ均一であるのに対し、ヒトはみな異なる遺伝的特性を持ち、生きている環境も大きく違いますからね。そうしたヒトの多様性を理解するためには、ヒトに関する大量のデータを収集・解析する必要があり、技術革新が発展した現在ではそれが実現可能です。これからは、ビッグデータから研究結果を導き出していくデータ駆動型サイエンス(Data-driven Science)に変わっていくでしょう。医師、特に研究医は大量のデータを解析・処理する能力、あるいはその能力に長けたプロフェッショナルと綿密な連携が必要になると考えています。
医療従事者でも特に医師は、自身の専門領域に関わる学会にしか出席しないことが多いと思いますが、これを機に専門外の知見も深めていただきたいです。4年に1度の総会を、未来の医学・医療がどのように変わるのかを学ぶよい機会にしてもらえればと思います。学部学生は無料で招待しています。
今回は一般の方も参加できるプログラムも充実しています。特に皆さんの関心が高い「健康」をテーマにした講演や企画を多数用意していますので、ぜひ総会に足を運んでいただき、楽しみながら正しい情報を学んでほしいと思います。
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